4節 大きな街と、魔物の女の子と、オオカミ狩りに行く私
読めない地図を片手に、私は空を飛んでいました。
しかしアレですね、これ程までに喋れる魔物が居る事が今だに信じられません。
目元とかは立派に魔物ですが、私は彼等と話す時、まるで人間と話す様に無意識に接していました。その位人間じみた魔物たちなのです。
さて、そうこうしてる内に大きな街が見えてきました。此処は……うん、多分目的地では無いですね。
とは言え結構ヘロヘロになっていた私は、休憩がてら街に寄っていく事にしました。
街の前に降り立った私は、魔物の門兵に挨拶をしてから街の中に足を踏み入れました。さて、人間の街との比較が楽しみです。
「いらっしゃっせー!」
街の中を探索する私に、無駄に元気な魔物が声を掛けてきました。
「人間さん!ウチで買い物して行かねーか?」
「待ってください。そもそも貴方は何のお店なんです?」
「良い質問だぜベイビー!」
イラッ。
「俺っちの店は、何と焼肉屋だ!」
「あ、別にお腹空いて無いんで結構です」
「ちょ……ちょ待てよ」
呼び止めようとする魔物にお辞儀をした私は、一目散に彼の元から離れました。
「……ふぅ、本当はお腹ペコペコなんですけどね。彼の背後に書いてあった看板の文字が恐ろしかったんで逃げて来ちゃいました」
そうなんです。あの焼肉屋のメニューでしょうか?そこには「謎肉の盛り合わせ」とか「昔懐かしい血肉詰めソーセージ」とか物騒な文字が書かれていたんです。それに一食で金の小判1枚って……ぼったくりもいいとこです。
そんな愚痴を心の中で言いつつ、私は非常食のインスタントラーメンを街の隅で食べていました。
「ズズ~」
「…………」
「はぁ……バタートッピングは最高です」
「…………」
「……あの、何です?」
「……?」
ラーメンを楽しむ私の横で、女の子がヨダレを垂らしながらこっちを見つめていました。パッと見人間ですが、それでも彼女は魔物なんですよね……見分けがつきません。
「…………」
「……食べたい?」
私の質問に、女の子は何度も大きく頭を上下に動かして目を輝かせました。ヨダレが飛ぶから顔を振るでないよ。ばっちぃな。
私は小さな器に麺とスープを入れて、その辺に落ちてた枝を削っで作った箸と一緒に渡しました。
「…………」
目を輝かせながら器を受け取った少女は、匂いを嗅いだり下の先端で舐めてみたりした後で、やっと食べ始めました。
「誰かから物を貰ったら、ありがとうって言わなきゃだめですよ?」
「あり……がと……?」
「そう、ありがとう。感謝の言葉です」
暫くの間ブツブツと独り言を呟いた少女は、笑顔で「ありがと」と言うと、私の真似をしながらラーメンを啜り始めるのでした。
ラーメンを女の子と共に啜りながら、私は魔物の事を考えていました。
本来の魔物には大人や子供の概念、そもそも男女の概念さえ無い筈なんですが……この子は子供だし、声も体つきも女の子です。そもそも魔物の生まれ方さえ分からないのが現状な訳ですが……そう考えると、如何に人間が魔物に対して無知かが分かっちゃいますね。
そんな事を考えていると、不意に女の子が私の着ている巫女服の袖を引っ張って来ました。
「どうしました?」
私の問いに、女の子は器を差し出して答えてきました。もっと食べたいって事なんでしょうね。
「もっと欲しい時には、おかわりって言うんですよ」
「おわかり」
「違いますよ。お・か・わ・り・です」
「お・わ・か・り……?」
「……まぁ可愛らしいんでそれでも構いませんが」
何となく彼女が気に入ってしまった私は、食べかけの残りのラーメンを全てあげました。
「ありがと」
女の子は小さく呟くと、結構残ってたラーメンの残りをペロッと平らげてしまいました。
彼女は満足したのか急に立ち上がると、私に手を伸ばして来ました。
「……うん?」
状況の飲み込めない私は、首をかしげながら女の子に尋ねました。
「私、ご飯貰った」
「えぇ」
「だから、家に招待する」
「????」
いや、やっぱりよく分かりません。どうしてご飯を貰ったら家に呼ぶんでしょう?ごちそうさまも言わないし。
……でも悪気が無い事は見てれば分かるんで、とりあえず彼女に招待されておきましょう。もしかしたら、これが彼女なりのお礼の仕方なのかもしれませんし。
「分かりました、お願いしますね」
私は女の子の手を取ると、一緒に住宅街に歩いていくのでした。
〇
彼女の家に着いた私は、戦々恐々としていました。
まぁ何となく予想は出来ていましたよ?だって彼女は子供ですもん。そりゃあ魔物と言えど親は居るのかもとは思いましたよ?。で、私の予想通りに親は居たんですよ。でも何なんですかこれは……。
「いーや!俺は人間の友達なんて認めんぞ!」
「良いじゃないですか!。アイにとっては初めてのお友達なんですよ!?」
「あの……ダメ……?」
「…………」
えっとー、そうですね。今の状況を端的に言うならば……いつの間にか友人認定されていた私は、彼女の両親と挨拶する事になりました。そしたら彼女のお父さん、まるで娘の彼氏でも見たかの様な反応で私を罵倒して来たんです。それで、いくらなんでも言い過ぎだと思った彼女のお母さんが間に入って、女の子……アイでしたっけ?、彼女も泣きそうな声を出しながらお父さんを説得してる状況です。
はぁ……こんな事になるなら来なければよかった……。そんな風に思っていると、私の胸ぐらを掴みながらお父さんが怒鳴りつけてきました。
「おい人間!お前、アイに手を出してみろ。その時は……マジで殺すぞ!」
「別に手なんて出しませんよ……。寧ろ手を出されてる側です」
「な……っ!」
この状況でのまさかの切り返しに固まったお父さんを他所に、確実に邪魔者になりつつある私は、この家を出て行く事にしました。
そんな時です、アイが私の手を握りしめて、帰ろうとするのを妨げてきました。
「えっと……これ以上は迷惑になるんで出て行きたいんですが……」
「……ダメ」
「どうして?」
「……私の友達だから」
「…………」
此処で無理矢理彼女の手を振りほどく事も出来たんですが、出来れば乱暴な真似をしたく無かった私は「それじゃあ街中の散歩に行きましょう」と言ってアイと一緒に家から出て行くのでした。……まぁアイのお父さんの傍から離れられれば何でも良かったんですけどね。私はあんな感じの人が苦手です。
さて、とりあえず街の中心までアイと手を繋いで出て来た訳なんですが……これからどうしましょうか?。
夕暮れの空を見上げてそんな事を考えてると、何処からか良い匂いが漂ってきました。
辺りを見渡してみると、そこには大きな看板でオオカミ焼きと書かれた屋台が出ていました。オオカミって食べれるんですね……。
――くぅぅ。
アイの可愛らしいお腹の音が聞こえます……決して私では無いですよ?。
「……ねぇ、人間。アレ食べたい」
「私の名前はエルシアですよ。人間じゃ無いです」
「……人間じゃ無いの?」
「いや人間ですけど……私の事はエルシアって呼んでください。分かりますか?、エ・ル・シ・ア・です」
「エル……?」
「まぁそれでも構いません。それでアイはオオカミ焼きが食べたいんですか?」
私の問いに、アイは首を縦に振って答えました。
まぁ私も食べてみたかったですし、2つ買ってみましょうか。
「すいません、オオカミ焼き2つお願いします」
「あいよっ!金の小判1枚ね」
「高っ!」
私の驚き方を見て、そこで初めて私が人間だと分かった屋台の魔物は、オオカミ焼きが高い理由を説明してくれました。
なんでもここら辺のオオカミは魔力を帯びてる所為で、やたらと凶暴で捕まえにくいそうです。実際に被害に遭う魔物も居るんだとか。
魔物も大変だなぁ……なんて思いながらアイとオオカミ焼きを頬張った私でしたが「……ママとオジサンにも、沢山コレを食べさせてあげたい」と言われて青ざめました。
「あの、オオカミって自分たちで狩っても良いんですか?」
「あ?あぁ、別に構わないが……危険だぞ?」
「分かりました、ありがとうございます。そしてごちそうさまでした」
「……オオカミ美味しかった」
屋台の魔物にそう言って別れを告げた私は、オオカミを狩に行く事にしました。あんなのたくさん買ってたら私のお金が底を尽きます。
「アイ、私は今からオオカミを狩ってきます。危険なんで待っててください」
私の言葉に、アイは首を横に振りました。
「ヤダ……私もエルと行く」
「オオカミは危険なんですよ?」
「……それでもエルと行く」
はぁ……説得は無理そうですし、連れてくしかないですかね。
「分かりました。それじゃあアイ、本気で私に攻撃して来てください」
「……何で?」
「貴女の強さを見る為ですよ。最低限の身の守りさえ出来ないなら無理矢理にでも置いて行きます」
「……っ!」
私が置いて行くと言った瞬間、急にアイの目つきが変わりました。雰囲気だけで言うならば魔物の中でも強い個体レベルです。
ですが雰囲気だけで、話にならない位に実際は弱い……なんて事もザラですし、しっかりと攻撃を受けてみます。
「さぁ、遠慮はいりません。本気で来てください」
「……うんっ!」
返事をした途端、アイは凄い勢いで突進しながら、腕を魔物独特の物に変形させて斬り裂いてきました。
――カキィィン。
私の魔道昆から火花が散ります、当たったら軽傷じゃ済まなそうですね……。
それからも何度かアイの攻撃を防いだ私は、彼女に止めの合図を出しました。
「……もう良いの?」
「えぇ、大体の強さは図れました。……それじゃあオオカミ狩りに行きましょうか?」
私がアイの手を取りながら聞くと、彼女は表情をパァッと明るくして私に抱き着きながら頷きました。
はぁ……、何で私はこんな事をしているんでしょう……?。心の中でそんな事を思いつつも、何だかんだでアイと居る事が楽しかった私は、まぁ良いかと自分に言い聞かせながら、アイと共にオオカミを求めて街から出て行くのでした。
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