3節 暇な騎士と、非道な策略と、お仕置きされる私

 はいどうも、私です。アホ毛用の育毛剤を見つけてしまい、ついつい買ってしまったエルシアです。……アホ毛が至る所から生えるって事なんですかね?。怖っ。


 お金が無くて困っていた私は、暇そうな騎士を何人か見つけて呼び出し、これまた暇そうな駐屯騎士に自前の騎士を使って大将を倒す……いわば人間版チェスを申し込みました。賭ける物は相手に何でも命令が出来る権利です。


 暇だった彼等は余興として私の対戦を承認、早速勝負が始まりました。


 さて、戦略を練る際に、一般的な人はチェス盤を使って考えると思います。実際殺した相手を取り入れる事は出来ないんで合理的な見方だと思いますが、私の戦略は違いました。


 私が使う盤面……それは将棋盤でした。えぇ、倒した敵を取り入れるつもりなんで私からしたらこっちの方が都合がいい盤面なんです。


 戦場は騎士が街中戦を予想して作られた架空の街と、その横に広がっているそこそこ起伏のある草原地帯でした。


 勝負を始める前に下調べをして来た私は、ほぼ勝利を確信してキングの席に座り、指示を戦場に伝える伝令係を二人置いて勝負開始の合図を待ちました。


 戦い方は至ってシンプル、キングの席に座る者が指示を飛ばし、伝令係を通して伝わった作戦を、現場の者が遂行していき、相手キング席に座る者を降伏させたら勝ちです。裏切りありの為、私は不利って事になりますが問題は無いです。


 さて、作戦ですが……まずは地形ですね。私は草原地帯からのスタートなので、とりあえず街に入る事から始めましょう。きっと相手は動いて来ないでしょうしね。


 そんな事を考えていると、開戦の狼煙が上がるのが見えました。


「全部隊に通達、A~C部隊は街の1番近い建物まで直進。D~E部隊は東に見える崖から街方面を目指して進軍して下さい。そして伝令係の貴方は作戦を伝えたら此処に戻って来て待機をお願いします。そしてこれは貴方一人で伝令をお願いします」


「はっ!」


 私の作戦を聞いた彼は、走って行ってしまいました。


「さて、私たちも動きましょうか」


「はい?」


「別にキングが座って無きゃいけないルールは無いでしょう?ほら、行きますよ」


「は、はい……」


 こうして私たちも、前線へ向かって行くのでした。



 そして開戦から1時間、草原から直進した部隊は相手部隊の待ち伏せと交戦していました。それを崖から攻めた部隊で挟み撃ちにして撃破、今度は私が最前線に立って建物の一角を拠点として制圧、此処から指示を出すから来るように最初の位置で待ってるであろう伝令係に伝令を頼んだ所です。


 何人か逃げて行くのを確認しましたが、あえて逃がしました。最前線に相手のキングが居るって分かったら動揺するでしょうし、作戦も直ぐには出せなくなる筈です……。仮に作戦を出して来たとしたら、私への集中砲火でしょうね。


 さてと、これからが勝負ですね。


 現在私の部隊は損害軽微、対して相手は既に2部隊を失っています……どう動いて来るんでしょうね?。まぁやる事は変わらないんで、伝令が戻ってきたら出す指示は決まってるんですが。


 そして伝令が戻って来て直ぐ、朗報が私に届きました。


 なんと壊滅させたと思ってた待ち伏せ部隊に生き残りが居て、小規模ながら臨時部隊を編成して応戦してきてるらしいです。私は臨時部隊の殲滅では無く、拘束をA~B部隊に指示し、残りを私の元に終結させて、体制を整えた後に敵陣まで突撃させました。


 さて、ここで私に協力してくれる騎士への報酬の事をお話しておきましょう。


 彼等には最後まで生き残ったら金の小判1枚を報酬として約束しています。しかし途中でやられてしまう、或いは裏切りが発覚した時点で報酬は無し……そういったルールを提示しているんで、報酬金欲しさに協力してくれた彼等は実力以上の戦果を挙げてくれるし、裏切りもしない。まぁそんな具合です。


 はい、そろそろ戦局に話を戻しましょう。


 C~E部隊は現在、前線で奮闘中です。因みに此処で部隊が半壊すると踏んでいます。


 そんな事を考えていると、やっと敵の臨時部隊を拘束したA~B部隊が私の元に到着しました。彼等には早速前線に行ってもらいましょう。そしてこれからは伝令も必要無いんで彼等にもA部隊として動いてもらいます。


 そして指示を出されて動き始めた各部隊は、私と敵の臨時部隊を残して行ってしまいました。


「さて、貴方たちには話があります……。単刀直入に言うなれば、私の部隊に寝返って下さい。報酬金は本来の3倍……金の小判3枚をお支払いします。尚、やられた場合や裏切りが発覚した瞬間に、報酬は発生しなくなります……どうですか?悪い話では無いと思うんですが」


 少し悩んだ彼等でしたが、私の申し出を了承してくれたんで、早速前線に送り出します。彼等の忠義心なんて結局お金が全てなんですよ。


 今戦場になってるのは街の大通りです、恐らく敵の全ての部隊が集結して大乱闘が勃発してると予想されます。彼等には裏道から回ってもらい、仲間のフリをしながら戦闘に参加、私の合図と共に挟み撃ちで一気に敵部隊を叩いてもらう手筈です。



 そして彼等が私に寝返って30分後、私は魔法で戦場に雷を落としました……これが私の合図です。


 戦場はより一層騒がしくなり、仲間の裏切りに混乱する敵は速攻で全滅してしまいました。


 ……ですがまだ終わりません。彼等が私たち側に寝返ったと知るものは私しかいません……私の仲間は寝返った彼等を敵として認識し、殲滅させてくれました。簡単に寝返る彼等には真っ当な最後ですね。


 そして私側に残った部隊は半壊したA部隊のみ……彼等で敵のキングを討ってもらいましょう。


 そして敵のキングを討ちとった後、残ったのは私一人でした。彼等はキングと相討ちになったのです。……ふふっ作戦通りです、これで報酬はあげなくて済みます。


 そんなゲスい事を考る私に、まさかの天罰を下す人が現れました。……ノヴァさんとリンネさんです!オマケに敵のキングも無事……じゃああのキングは誰なんですか!?。


 私は焦りながら敵のキングを確認しました。……うそ、私の伝令係が化粧して化けてただけじゃないですか!。


「流石に見てられなかったんでな……お仕置きだ」


「ちょっと非道なやり方に見えちゃってね……ごめんね?エルちゃん」


「あー、終わった……。でもお金は欲しいんで諦めないですよ!」


 こうして私は敵になったノヴァさんとリンネさんに立ち向かうんですが、秒殺されてしまいました。


 そして敵のキングのお願い事を聞く羽目になった私は、意外なお願いに肝を抜かれてしまいました……。


「貴女の手腕は見事としか言えない……。これからも賭けは無しで戦ってほしい、騎士達の能力底上げに協力してもらいたい」との事でした。


 まぁ何にせよ、私のお金稼ぎは再び失敗に終わってしまうのでした……。くそう。

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