1節 疲弊と、メイドさんと、主になった私

 はい、私です。アホ毛が微動だにしなくなった事が若干悲しく感じるエルシアです。


 何とかメイドさんたちから逃げきれた私は、傷の手当てを済ませた後に、この薄気味悪い場所を飛びながら出口を探していました。


 トンネルの様に長い1本道を暫く進むと、今度は開けた空間に出てきました。


 現在時刻は夕方の筈ですが、空が真っ暗です。……此処は建物の中なんでしょうか?。


 不安と焦燥感を抱えたまま飛んでいると、遠くに建物らしき建造物が見えてきました。しかしその建物は美しい外見を壊す様に、周囲から青紫色の光が当てられて不気味に発光しています……アレは古墳で見たライトって言うやつですかね?変な色もあるんですね。


 とりあえず唯一と言って良い程に明るい場所である建造物前に降り立った私は、周囲を警戒しながら、その建造物の扉を開けて中に入ってみました。


「……こんばんはー、誰か居ますかー……?」


 私はひっそりとした声で呼び掛けてみましたが、特に反応はありません。……丁度休める場所を確保したかった所なんで、此処を仮拠点にして少しだけのんびりしましょうかね。


 安全確認を済ませて荷物を置いた私は、埃を払って椅子に腰掛けました。動かないメイドさんが一人居ましたが、右足も無いし両腕が切断されてるみたいだしで放置しても多分平気でしょう。


「ふぅ……本当に此処は何なんですかね?空は何も見えないし、明かりはライト……でしたっけ?アレしか無いし、生き物が居る気配が一切無いし、それなのに何処かで爆発が起こったり、低い呻き声が聞こえたりしますし……頭おかしくなりそう」


 そう言うまで私自身も気付いていなかったのですが、相当参ってるみたいです。……今になって全身に震えが来ました、怖いのか涙も出てきました……でも意味の分からな過ぎる状況で、意味も無く笑いたくなってしまいます……。


「この精神状況はよろしく無いですね……寝て少し落ち着きましょう」


 私は全身を魔力で包んで障壁を作ると、その場で横になりました。


 直ぐに眠るつもりは無かったんですが、相当疲れてたんでしょうね、速攻で夢の世界に誘われていってしまうのでした。



「あ……さま……おはよ……起き……」


「……ん?」


 誰かに謎の声と共に私の体を揺られた私は、徐々に意識が覚醒してきました。


「……わぁ、揺すられたらオッパイが揺れる様になりましたぁ……わぁい」


「……起きましたか?」


「すー……すー……すー……」


「……」


 再び夢の世界に戻ろうとした私の胸を、誰かが全力で鷲掴みにしてきました。気持ち良さは無いです、痛いし怖いです。


「痛い痛い!止めて下さいオッパイ取れるぅっ!」


 私が抵抗すると、誰かさんは直ぐに胸から手を放してくれました。


 急いで起き上がった私は、魔道昆で魔力を込めながら椅子から後ろに飛んで距離を取ると、相手を睨みつける様に見ました……胸がジンジンします。


「貴女は誰ですか!」


「おはようございます。お目覚めは如何でしょう?」


「最悪ですよ!誰なんですか貴女!」


 アレですね、動かないと思っていたメイドさんが私を起こしたみたいですね。


「私は戦闘型アンドロイドのリノリスと申します。普段は戦闘では無く、ご主人様のお世話をする様にプログラムされています」


 ニコッと笑いながら話すリノリスは無くなっていた筈の両腕でスカートの端を持つと、丁寧に挨拶してきました。……敵意は無いみたいですね、警戒は解きませんけど。


「……貴女は襲ってこないんですか?」


「当たり前です。私のご主人様は貴女様なのですから、主を襲う従者なんて居ないじゃないですか」


 ……うん?私が主なんですか?話が見えてきませんね。


 私は警戒を解かないまま、リノリスと会話をしてみました。


 どうやら私が眠る前、生存確認の為にリノリスを触った際に再生後に強制起動させるボタンを押してしまっていたらしく、それで彼女は復活したんだとか。


 で、その際に主の上書を行って、その時目の前で眠っていた私を主と認識したんだとか……難しい事をいっぱい喋るのに本能的な所は鳥のヒナみたいですね。目の前に居る初めて見た存在がお母さん!みたいな感じがします。


「あの……腕って再生で生えて来るんですか?」


「そんな事はありません、主様。主様を起こす際に腕が無いといけないと思ったんで、残った足と体内のパーツを腕として改造して、使ってるだけです」


 そう言って転がったリノリスは、確かに腰から下が無くなっていました。


 そもそも私の知る世界に無い言葉が多すぎて何言ってるか分かって無かったりするんですが、何となく流れや彼女のジェスチャーで理解は出来てる筈です……多分。


「私の為に下半身を完全に失ったって……何か申し訳ないですね。腕みたいに直せないんですか?」


「パーツがあれば直せますが、現在の私は「裏切り者」という事になってしまってるんで、パーツの補給は難しいかと」


「そうですか、何で裏切り者に?」


「主様を主様として認めたと、私たちの脳内ネットワークで仲間達に報告したからです」


「ネットワークとか良く分かりませんが……あれ?他の仲間に報告したって事は、此処に攻めて来るんじゃ……」


 私がそう言うのと同じタイミングで、ドアが爆発で吹き飛んで、メイドさんたちが入ってきました。


 ふむ……五人ですか、何とかなる数ですね。


 私は一応、敵意があるのか聞いてみましたが、答えは分かりきっていたものになりました……仕方ないけど倒させてもらいましょう。


 私は魔道昆に雷を纏わせて、後方で誰かと話そうとしているメイドさんに投げ飛ばしました。


 魔道昆が命中したメイドさんは、前回の戦いと同様に動かなくなってしまいました。


 怒り狂った残りのメイドさんたちが、私に銃の様な物で大量に弾をばら撒いてきます。


「絶」で防いだ私は、「滅」を発動させて残りのメイドさん全員を吹き飛ばしました……殺さない程の火力でやったつもりなんですが、何故か最初に倒したメイドさん以外はバラバラに爆散してしまいました……え?自爆的な奴ですか?。


 その後、感電死したと思われるメイドさんの服を脱がして足を持って来てほしいと頼まれた私は、乗り気はしませんがメイドさんの前に立ちました。


「あの……本当に脱がすんですか?」


「はい、私達の来ているメイド服は防刃防弾仕様なので、主様の服に似せて作り変える必要があります」


「……死体から足を取るのは気乗りしないんですが」


「安心して下さい、私達アンドロイドは人工生命体です。人間同様の外見と思考を持ちますが、生きていないので殺人ではありません。ただの機械人形です」


「はぁ……」


 私はイヤイヤでしたが、メイドさんの服を脱がしていきました。


 エプロンとワンピースを脱がせると、綺麗な肌が露わになりました。


 ソッチの趣味は無いんですが、こうも綺麗な人を脱がせると思うと何かに目覚めそうになりますね。


 そして下着まで脱がした私は、固まりました。


「あの……人形……なんですよね?」


「はい」


「……凄い細部まで作り込まれてません?えっちぃですよ?」


「そうですね。子供は作れませんが、体内まで人間とそっくりに作られたのが私達アンドロイドですから。……服は脱がせられましたか?」


「えぇ、足は……回せば取れるんですよね?……よし、取れた」


 私は足を持ってリノリスの元に向かい、足を外した要領で装着しました。


 その後、メイドさんたちに位置を知られてると思った私は、動けるようになったリノリスを連れて場所を移動させるのでした……。

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