18節 戦いの終わりと、仲間との別れと、私の手紙

 はい、私です。殴り合いの喧嘩に負けた方のアホ毛が枯れてきたエルシアです。ハゲないか心配です。


 ジンを倒した私たちは、魔力も体力も使い果たしてしまって、集落に侵入して来た魔物に成す術が無い状態の時に、リザちゃんたちが魔物に立ち向かった所です。


 この集落は強さが正義な風潮がある所なので、魔物と戦えない事は無いと思っていたんですが……以外過ぎる程に圧勝していて驚きました。


 その後もチョロチョロと侵入してくる魔物を囲んでフルボッコにしたリザちゃんたちは、集落の入り口に見張りをこれでもかという程配置すると、私たちの治療を始めてくれました。


 ユナさんはあばら骨を、シラユキは両足の指を骨折してたみたいで、治療が大変そうでした。


 かくいう私も、全身に穴が開いて、左腕は麻痺して、背中はパックリで大変な事になっていますが……まぁ後で活でもすれば完治するでしょう。


 とりあえず、私たちの怪我がある程度治るまでは集落でお世話になる事になったのですが、じっとしていられない私たちは集落の復興作業を手伝いながら体を癒していました。



 それから3日後、ある程度傷が治った私たちは、皆にお礼を言って集落を後にしました。


 リザちゃんのお父さんから聞いたんですが、集落内に入って来た魔物は、外で見た魔物の10分の1にも満たない数だったそうです。そして不思議な事に、魔物は既に手負いの状態で集落に逃げる様に入って来てたみたいなんですよね……誰かが魔物の大群と戦ってたって事なんでしょう。


 さて、何はともあれ外に出た私たちは、道の真ん中で今後について話し合っていました。


「私はブラブラしながら北の最果てを目指しますが……二人は今後どうするんですか?」


「あたしは適当にその辺を歩きながら何処かに行くよ、まぁ物見遊山みたいな物かな」


「わたくしは……強くなる為に修行を積みたいと思っていますの。今回だってエルシアやユナ、集落の方々が居なければジンを倒す事は出来なかった訳ですし……いずれ悪であるベルギウスの本家を倒すなら、もっと強くならないと」


「そうですか。……それじゃ名残惜しいですが此処で解散ですかね」


「だね、まぁ人生ってのは一期一会の連続である訳だけど……また会えるといいね」


「ですわね……それではお二人共、ごきげんよう」


「えぇ、さようなら……またいつか会いましょう」


 私たちは握手を交わすと、それぞれ別の場所に飛んで行くのでした……。



 日が落ちた頃、私は近場の村で矢を20本程買ってリザちゃんの集落前に戻ってきていました。


「えっと……此処で良いですかね」


 懐から取り出した手紙を、石の間に挟み込んで、少し離れた場所で焚火を付けました。


「準備良し。それじゃあ……気付く事を願いますよ」


 私は上空にレールガン用の魔法陣を展開させると、20本の矢を色々な角度に設定して、纏めて打ち上げました。


 バシュン。


 大きな音を立てながら蒼い光に包まれた矢じりが、まるで逆さまに降る流星の様に、綺麗な色を残して飛んで行きました。


「……行きましょう」


 そして私は魔道昆に横向きで座ると、北方向に飛んで行くのでした……。



 エルシアが集落前を去った頃、夜道を駆けて来た2頭の馬が、焚火の前で急停止しました。


 馬に乗っていた二人は、機動性を重視したデザインの鎧を着た人たちでした。


 その露出した胸元から覗くペンダントは、王都の騎士である証にもなる物である事から、この二人の女性は王都の騎士である事は間違い無いんでしょう。


「全く……勝手に飛び出して何だと言うんだ?」


「ごめんなさい、騎士隊長……でも私には必要な事なんです」


「……勝手に何処かに行って、矢を1本無くして帰って来たと思えば、直ぐに部隊を連れてこの辺りに来て魔物と交戦し始めるし、今だって就寝時間なのに勝手に飛び出して来て……これが必要な事なのか?」


 騎士隊長と呼ばれた女性は、自身より年下の少女に呆れながらタメ息を吐きました。


「……お前は優秀だが少し適当過ぎる所もある。そこは近々直させてもらうから――」


「やっぱり……あった!」


「おい、話は聞きなさい」


 騎士隊長の話を無視しながら何かを探してた少女は、焚火に照らされていた手紙を発見して、それを拾い上げました。


「……それを探していたのか?」


「はい……もう少し時間を貰っても良いですか?」


「……あぁ」


 騎士隊長の許しが出た少女は、焚火付近に座り込んで手紙の封を切ると、早速手紙を読み始めました。



 親愛なるYへ


 貴女がこの手紙を読んでいる時、既に私は北に向かって旅立った後でしょう。


 この手紙を見つけてくれて、ありがとうございます。


 貴女が名前を明かせないのは、きっと立場的な問題なんでしょう。だから私も貴女の名前を伏せさせて貰いました。


 そして、一連の出来事では本当に色々とありがとうございました。


 敵を撃って危ない所を助けてくれた。


 敵の逃げた場所を教えてくれた。


 敵との戦闘中、集落内に魔物が侵入しない様に倒していてくれた。


 全部、気付いてましたよ。貴女が助けてくれているって。


 本当は直接会ってお礼を言いたかったんですが……すいません、私の心は弱いままなので、きっと貴女に会ったら離れたく無くなってしまう。……そんな迷惑は掛けたくなかったんで、見つけてくれると信じてこの手紙を残しました。


 いつか、またしっかりとお礼させて貰うんで、それまで待ってて下さいね。


 本当はいっぱい話したい事があったんですが、纏めきれそうに無いんで、名残惜しいですが私は行きますね。


 これからも貴女の活躍を祈ってます。ずっと貴女の無事を願ってます……体には、お気を付けて。


 貴女の親友、エルシアより



「……相変わらず丁寧な話し方だね、エルシアちゃん」


 手紙を読み終えた少女は、目元に溜まった涙を拭いながら立ち上がると、騎士隊長に頭を下げながら話し始めました。


「勝手な行動、すみませんでした」


「もう、良いのか?」


「……はい」


「そうか……それじゃ帰って寝よう。君への罰は私の身の回りの世話をしてくれたら無かった事にしてやる」


「はい!」


「……これからも頼りにさせて貰うからな、ユズ副隊長」


「あい!任せて下さい!レウィン騎士隊長!」


 二人は火の後始末をしてから馬に跨ると、来た道を引き返して暗闇に消えていくのでした……。

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