11節 悪天候と、不気味で怖い宿と、廃教会の情報

 土砂降りの天候の中、二人の魔女が急ぐ様に空を飛んでいました。


 一人は肩に触れるかどうか位のショートの金髪で、鉄の棒の様な物に横向きに座った少女。


 もう一人は白に限りなく近い薄紫色の背中まで伸びたロングヘア、座っている物が箒ではある物の、やはり横向きに座ってとんがり帽子を飛ばさない様に掴みながら飛んでいます。


 二人の共通点は、似たブラウスと短いスカートを穿いていて、空を飛んでいる事だけなのですが、そもそも空を飛ぶこと自体が異常なので、彼女たちが魔女であるのが分かるのと同時に、他人の間柄では無く同じ場所を目指してる仲間である事が分かるのです。何なら姉妹に見えなくも無いです。


 全身をずぶ濡れにさせた彼女たちは、ある一点を目指して飛んでいます。しかしその場所は雨に打たれながら向かうには、余りにも質素で活気の無い平凡な村でした。


 どうして彼女たちは風邪を引くリスクを冒してまで村を目指すのでしょう?そもそも彼女たちは何者なのでしょう?何故こんな天気の中を飛んで行こうと思ったのでしょう……?。


 まず彼女たちの正体……それは私とエレナさんでした。まぁ知ってますよね。


 私たちは今、シャディさんが居ると思われる廃教会の情報を求めて村を目指している所です。しかし運が悪い事に嵐に遭遇、休めそうな場所も無かったんで強行して進む事にしたんです。


 それから数分で村に着いた私たちは、入り口で地上に降り立ち速攻で宿に入って、嵐が過ぎ去るのを待つのでした。いきなり大変な事になってますね……。


 ――カランカラン。


 ドアに備え付けられた安物のベルを軽快にならして宿に入った私たちはびしょ濡れで、玄関に水溜りを作りながら宿の人が来るのを待っていました。


「いらっしゃいませ……まぁ!!」


 カウンターの奥の方から出て来た女性店主は驚くと、有無を言わさず私たちを店の奥へと連れて行き、着ている物を引っぺがすと備え付けの銭湯に私たちを放り込んできたのです。行動の速さに付いて行けない私たちは、常に棒立ちのままで、気が付いたら全裸になっていた……そのレベルです。速ぇ……。


「風邪を引かない様にしっかり湯船に浸かるんだよ!!いいね!!」


「……」「……」


「返事は!!」


「あ、はい」「えっと……ありがとうございます」


 私たちの返答を聞いた女性は、満足した様に「よし!!」と言うと、何処かに行ってしまいました。


 そして理解の追いつかない私たちは、何で銭湯に放り込まれたのかと言う疑問を抱きながらシャワーを浴び始めるのでした。……あ、腕取っておかないと。


「エレナさん」


「はい?」


「私たち……宿に泊まりに来たんですよね?」


「その筈です……」


「何で……シャワーを浴びてるんでしょう?」


「さぁ……気が付いたら銭湯に居たので、良く分かって無いです」


「「……ま、いっか」」


 こうして考えるのを止めた私たちは、シャワーを浴びた後に湯船に浸かってゆったりするのでした。


「はぁ~……夏の湯船も悪く無いものですね~」


「ですね~。そう言えばエレナさん、今日何か食べましたっけ?」


「え?えぇ。焼きそばを頂きましたが……それが何か?」


「いや……焼きそば一人前しか食べてないのに、ちょっとお腹が大きく見えるんで」


「……地味に失礼ですよ?」


 そんな話をしながらお湯を満喫した私たちは、さっぱりして浴場を後にしました。そして驚きました、荷物が無くなっとるやんけ……。


 無くなった荷物の代わりに置かれてたバスローブを着た私たちは、とりあえず女性店主を探して宿の中を歩き回るのでした。



 店主を探して宿を歩き回った私たちですが、この宿……広すぎません?かれこれ1時間は歩いてる筈ですが、一向に宿内を1周出来ていないんですよ。


 嵐の影響か、いつもより辺りが暗くなるのが早い気がします。木造建築のランプの光さえ無い薄暗なもはや館レベルの宿の廊下……超怖いです。


 1歩1歩進む度、ギシッギシッと古めの床が軋みます。吹きつける雨風が立てつけの悪い窓を外す勢いでぶつかりガタガタと揺れます。時々悲鳴に似た動物の泣き声が宿内に響き渡ります。うん……超怖ぃぃ。


 私は震える手でエレナさんの手を握りしめて歩きました。彼女も怖いのか、少し手が震えています。しかし私が恐怖で顔を暗くしてるのを見ると、優しく私を抱き寄せてくれました。


「平気ですよ、何も怖い物は出ないです。もし出ても私たちなら魔法でドーンッて出来ますよ」


「……はい。でも私……幽霊が――」


 ――ガチャン。


「ぴぃぃやぁぁ!?」


 突然の物音にパニックを起こした私は、エレナさんの手を掴んだまま左手で窓をぶち破って逃げようとしました。そして顔面から転びました。


「エルシア落ち着いて!!店主さんですよ!!」


「……ふぇ?」


 私は恐る恐る顔を上げて正面を見ました。そこに居たのは……ろくろ首!?。


「ぎゃあぁぁ!?エレナさん!!アレ妖怪じゃないですかっ!!」


「そうですか?私には綺麗な店主さんに見えますけど……」


「目ぇ開けて喋ってるんですか!?アレはどう見てもろくろ首――」


 エレナさんの腕を目一杯揺さぶりながら、私は彼女の方を見ました。そしてそこに居たのは、エレナさんの体をした一つ目お化けでした。


「……ぽぎゃぁぁ!?。……ぁ」


 ――パタンッ。


 私は余りのショックに、その場で意識を失ってしまうのでした……。



 次に目が覚めた時、私の視界には元のエレナさんが映っていました。顔面一つ目じゃ無くて、綺麗に整ったいつものエレナさんです。辺りもランプの優しい明かりが灯っていますね。


「エルシア!!良かった……起きてくれましたね」


「エ……エレナさん!!ここヤバいです!!。急に現れたろくろ首の店主でエレナさんが一つ目なんですっ!?」


「落ち着いて……言ってる事がめちゃくちゃですよ。それにアレは被り物ですよ」


「……え?」


 エレナさんは笑いながら、一つ目の被り物を指でつまんでヒラヒラさせていました。


 その後、ちょっとキレた私はエレナさんに事情を問い詰めたんですが、彼女も元々はドッキリだって分かって無かったそうです。


 私が錯乱した時、店主さんがこっそりエレナさんにあの忌々しい被り物を渡して来て、その時にドッキリだと気付いたと言っていました。


 そして店主さんなんですが、この村では知らない人が居ない程にドッキリやホラーが好きだそうで、誰も宿に近付かなくなってしまんだとか。経営状況とか運営資金とか気になりますが、まぁ触れるのは野暮ですかね。


 そしてこの館の様に広い宿なんですが、これもドッキリを仕込む為の部屋として増築された場所らしいです。……やっぱりお金の出所が気になる。


「あの……運営資金って何処から出てるんですか?お客さんが来ないんじゃ……」


「あぁ、それは平気だよ。なんたって収入源は酒場なんだから」


「酒場?もしかして貴女がマスターなのですか?」


「そうだよ!!どんな酒だってあるし、噂も色々知ってる!!この辺じゃ私以上の情報通は居ないだろうね!!」


 おぉ、なんというめぐり合い。この頭がパラッパラッパーな人が私たちの求めていた情報を持つ人だったんですね。早速廃教会の事を聞いてみましょう。


「あの、私たちも情報を買いたいんですが……良いですか?」


「えぇ勿論!!どんな情報だい?」


「私達、廃教会に住む吸血鬼の噂を聞いてここまで来たのです。その事で酒場を尋ねるつもりだったのですよ」


「あぁ……あのドラキュラね。お嬢ちゃんを驚かせちゃったから安値で売るよ!!」


「あはは……ありがとうございます。次やったら宿を消し炭にするんで覚悟しといてくださいね」


「エルシア……目が笑って無いですよ……」


 その後、服やら下着やら荷物全般をカラッカラに乾かして返してもらった私たちは、お礼を言ってから、改めて宿のチェックインを済ませて夕食を頂くのでした。


 こうして無事に……いや無事では無いですけど廃教会の情報を得た私たちは、目撃頻度の多い夜中まで宿でお世話になって、それから出発をするのでした……。

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