16節 ウエスタンな村と、ブチギレる私と、青年との決闘
合わせ鏡の国を出て数日、とりあえず南方面に進んでいた私たちは、砂埃の酷い村で一休みしていました。
王都から南側は基本的に湿度が高い場所が多い筈なんですが、私たちが訪れたのは、荒野みたいな村です。地球温暖化の影響ってやつですかね。しりませんけど。
「おらぁ!!ゴツイ体つきしてその程度なんですか!!」
自分よりも体格の良い筋肉質の男性を魔道昆で殴り倒した私は、怒りに身を任せて叫んでいました。
「何なんだこの貧乳!!めっちゃ強いぞ!!」「おい馬鹿!!貧乳に反応してこの貧乳は殴り掛かって来ただろ!!貧乳って絶対に言うんじゃねぇぞ!!」「お前等馬鹿か!?今のやり取りに貧乳ってワードが4回も入ってんじゃねぇか!!」
――プツン。
「お前たち全員この場所に上半身埋めてひたすら股をぶん殴ってやります!!覚悟しやがれです!!この腐れチンポコ共がぁ!!」
叫び散らかした後、男性たちの顎の先端や後頭部を必要以上に殴り倒した私は、あの手この手を駆使して上半身を地面に埋めると、手前の人から順番に股を踏みつけて行きました。
「……ノヴァ?」
「あ?」
「止めなくて良いのですか?」
「殺しはしないだろ。それにエルの地雷を分かっててぶち抜いたのは奴等だ」
「胸は女の一生の悩みだかんねー」
「私は気になりませんが……」
「エレナは無頓着だもんねー……色々と」
近くのカフェで一服するエレナさんたち。私が暴れてるのが平常運転かと誤解を招きそうな程に、彼女たちは冷静に悲惨な現場を見て、飲み物を飲んでいます。
そして彼等の股をひたすら踏みつける私でしたが、あるタイミングを境に、不思議な感覚が私の中に芽生え始めました。
率直に言うならば、快感……でしょうか。
――ゲシゲシゲシゲシ。
「ふふっ……ふふふふ……」
――ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ。
「えっと……エルシア?」
エレナさんに返事はせず、私は一心不乱に彼等の股をゲシり続けます。
そんな時でした、酒場から出て来た青年が、地面に埋まった数人を見て顔を青ざめさせると、凄い勢いで彼等の救出作業を始めたのです。
ふぅ、スッキリしたんで彼等を掘り出すのは止めません。手伝いはしませんが。
「……それにしても、良い風景だな」
「……地面に人がめり込んでるのが……ですか?」
「いや、この建物の配置や野蛮な馬鹿ども、酒場やカフェが数件しかない辺鄙な土地……こりゃウエスタンじゃねぇか」
「ウエスタンってなんぞ?」
「旧世界には西部劇ってのがあってな、こんな感じの荒野で野蛮な連中がプライドを掛けた殺し合いやら指名手配犯を撃ったりする……そんなのがあったんだ」
「旧世界も殺しに満ちていたのですね……悲しい事です」
「まぁそう言うなって、大体はリアルに寄せたフィクションだった。要はガンマンがカッコよかったってだけだ。実際に真似て撃ち殺す馬鹿は居なかった」
「ロマン……って事?」
「まぁそうだな」
そう楽しそうに語るノヴァさんは、お酒を飲むとつまみを食べて、椅子に寄り掛かりました。
「あっちは楽しそうですね……」
そう呟いた私は、会話に混ざろうとカフェの方に歩みを進めようとしました。
「おい!!そこの金髪女!!」
青年が私にそう叫びます。どうやら男性たちを引き抜き終わった様です。
「何です?」
「兄貴達を埋めたのはお前か!!」
「兄……かどうかは分かりませんが、彼等を埋めたのは私です。言っときますが悪いのはそっちですからね」
「兄貴達は地面恐怖症なんだぞ!!そんな言い分通る訳ねぇだろ!!」
地面恐怖症って……初めて聞きました。彼等はしょっちゅう地面に埋まってたって事でしょうか?。
「そうですか。で?言い分が通らなかったら何なんです?」
彼の言おうとしてる事を察した周りの人が、彼を止めようとしています。ですがそんなのお構いなしに、彼は私に宣戦布告をしようとしていました。
「俺はお前を絶対に許さない!!俺と戦――」
「嫌です。面倒な事はしたくないです。そもそも戦うメリットが何も無いです。私に近付かないで下さい。小太り系の人は嫌いです」
私は冷めた目で突き放す様に言いました。
「ぐはぁ!?」
何故か吐血して倒れる青年。彼の心の何処かでグッサァッて何かが刺さる音が聞こえた気がしますが、多分気のせいです。
しかしこの青年、「それでも!!男には引けない事があるんだ!!戦わなくちゃいけない時があるんだ!!」とカッコいい事を叫んでいます。
5歳以上年下の少女に向かって。
死にそうな顔をしながら。
「今の台詞……客観的に見ながら言ってみて下さい。状況的になかなか恥ずかしいですよ」
「ぐへらっ!?」
再び吐血して倒れる青年。もう彼は医者に診てもらった方が良い気がします。
流石に立ち上がる気力の無くなった青年は「俺に勝ったら欲しい物は全てくれてやる、だから決闘しろ……。今日の夜中、オオカミの遠吠えが聞こえる時、ここで待つ」と、そう言い残して真っ白に燃え尽きてしまいました。いやもう戦ってないで医療施設に直行で向かって下さい。
まぁそんな感じで、私たちは仕方なく宿を取り、彼との決闘に備えるのでした。
〇
宿でシャワーを浴びた私は寝間着に着替えると、オオカミが泣くのを待ちながら、ノヴァさんと話し始めました。
「あの……本当にこの村を通らないと南の最果てに行けないんですか?」
「らしいな。しかしエル、どうして奴の決闘を受けようと思ったんだ?」
「欲しい物は何でもくれるって言ってたじゃないですか」
「つまり、欲しい物があるから受けたのか」
「そうです。まぁノヴァさんたちには迷惑を掛けちゃってますが……」
「気にすんな。エルの旅だって言っただろ、俺達は着いてくだけだ」
「そういえば、そうでしたね」
そんな話をしてると、オオカミの遠吠え……の真似をする人間の声が聞こえてきました。下手でも芸が細かいのは良い事です。マイナス50点。
私は宿にあった上着を羽織ると、決闘場所に足を運びました。
するとそこには青年が武器を持って待っていました。何人か部下も引き連れてきたみたいですね。
「お待たせしました。問答無用でぶっ飛ばすんで、そのつもりで」
「来たか……それじゃあまずは名乗らせてもら――ブフッ!」
……え?今度は鼻血を噴き出したんですが。……え?。
「お前……下着が透けてるぞ」
「あぁ、気にしないで下さい。それは前から知ってるんで、見られても良い下着を選んでます」
「……変態女が」
「それで?もう始めて良いですか?」
「あぁ構わん!それじゃあ改めて……俺の名はビ――」
――チュドォォン。
「……」
「……」
「あの……俺まだ……名乗――」
――チュドォォン。
始めても構わないって言いましたからね、反則気味ではありますが不意打ちでは無いですよ。
さて、そんな感じで青年を瞬殺した私は、部下がキョトンとしてる間に欲しい物を書いた紙を倒れた青年の上に置き、「目が覚めたらあの宿まで届けて下さい」と言い残して、宿に帰っていくのでした。……ぶっちゃけ眠いです。
そして次の日の朝、宿を出て旅を再開しようとする私たちの前に、昨日の青年が現れました。名前は確か……ビさん、でしたっけ?。
「……約束の物だ、受け取れ」
彼は荷物の入った袋をポイッと投げて寄越してきました。
「ありがとうございます。それでは、またお会いする事があれば」
一応礼儀として挨拶だけはしておきます。恐らく二度と訪れる事は無いと思いますが。
こうして私たちは、砂埃にむせ返りながら村を後にするのでした。
……ん?青年から渡された袋の中身ですか?。それはそう遠くない内に分かる筈です。きっと私の助けになってくれる、素晴らしい道具です。
さて、南の最果てまでもう少しです。気合を入れて飛んで行きましょう。
そしてこの先で、私たちはとうとう奴との決着を付ける事になるんですが、それはまた次のお話で……。
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