14節 滅びゆく街と、私の覚悟と、災厄の前触れ(2)

 あれから馬車を走らせる事、数時間。多少なりとも疲れが溜まっていた私とユズは、リンネさんの提案で仮眠を取る事にしました。


 眠気に囚われてウトウトしかけていますが、移動中に決めた作戦を思い返しておきましょう。


 まず、本来のA・Aであれば空を飛んで高速で動けるそうなんですが、ライオットが持っているA・Aは全体の一部で武器パーツしかないそうです。その為、飛ぶ事は出来ても移動に関しては足で移動した方が早いとの事です。


 そこから分かるのは、ライオットはまだ王都に到着して居ない。着いていても数分前程度だという事。そして私たちは確実にライオットに近付いている事。


 そして戦術なんですが、彼も一応呪術師の様で、ノヴァさんの様な旧世界の英雄を呼んで来るかもしれないとリンネさんが懸念していましたが、恐らく悪魔の様な何かを召還する事に精一杯になってるライオットは自力で応戦して来ると、ノヴァさんがその考えを否定しました。とはいえ、切羽詰まった人間は何をしてくるか見当がつかない為、2パターンの戦術が作られました。


 まずはパターンA……ライオットが自力で応戦してきた場合。


 恐らくはA・Aの力を使って浮遊しながら攻撃してくることが予想されます。


 しかし私とノヴァさんとリンネさんなら魔法や術式の力で空中戦に対応出来る。しかし不利であることは変わらない為、ライオットからA・Aを弾き飛ばして地上に叩き落し、4人でフルボッコにする作戦。


 そしてパターンB……ライオットが何かを召還してきた場合。


 ノヴァさんが召還された者の相手をして、私とユズとリンネさんの3人掛で出来るだけ短期戦でライオットを仕留めて召還された者ごと消滅させる作戦。


 後は思いがけない行動をしてきても、慌てず冷静に分析して立ち回る様にする……そんな感じです。特に私は思いがけない行動に動揺しがちなので気を付けないといけないですね……。


 あぁ……眠気がピークに達しました。ちょっと寝ます……おやすみなさい。



 バァン!!。


 謎の破裂音と共に私の体が宙に浮く感じがして目が覚めました。いきなり何ですか!?。


 私が辺りを確認しようとした瞬間、背中全面に強い衝撃が走り、一瞬息が止まりました。


「ぐぁ!ゲホッ……!。一体何ですか!?」


 息が出来る様になった私は手足が動くことを確認すると、うつ伏せになりながら辺りを確認を始めました。


 いつの間にか雨が降っていますね……。そして私たちの乗っていた馬車は転倒し、燃えています……馬は即死だった様でピクリとも動きません。


 ノヴァさんが近くの大きめの岩に隠れながら、何かを私に合図していますね。…「こっちに来い」ですか?。


 私は体を横に転がしながらノヴァさんの元まで辿り着くと、状況の説明を求めました。


「一体何事ですか?」


「おはようエル、王都に到着だぞ。そしてこれはライオットの熱烈な歓迎だ。……俺達の予想を超えてA・Aの扱いが上手くなってやがる」


「……ユズとリンネさんは何処です?」


「分かんねぇ。今のA・Aの攻撃がジャミングを引き起こしてリンネの気配が探れない」


「ジャミング?空白の50年以前の栄えた国で使われていた電波を疎外するアレですか?」


「まぁそんな所だ。……いきなりやってくれたな、クソが」


 私が岩の陰から攻撃が飛んできたと思われる方向を見ると、誰かがA・Aを持っているのが分かります。……アレって本当にライオットですか?何か見た目が違うような……。


 あれ!?空中に2人浮いてる!?。


 私が目を凝らしてみていると、それに気付いた相手が私目掛けてA・Aで攻撃をしてきました。


「マズイ!気付かれました!」


「馬鹿が、喋ってないでこっちに来い!」


 私はノヴァさんにワンピースの肩の紐を鷲掴みにされて、引きずられる様に別の岩の後ろに逃げ込みました。爆発と同じタイミングなんで、きっと向こうには隠れる姿が見えて無かったはずです……流石ですね。


「すいません、助かりました」


「あぁ。……で、見た感じ奴は何処に居た」


 ノヴァさんは辺りを警戒しながら私の報告を聞こうとしていました。


「王都の城壁内です。恐らくA・Aを使ってるのはライオットでは無いみたいですよ」


「……やはりな、こいつはパターンBに近い展開になりそうだ」


 ん?やはりって、もしかして気付いてたんですかね?何で覗いてすらいないノヴァさんが気付いたんでしょうか?。


 私が呆気に取られていると、ノヴァさんが私に新しい作戦を伝えてくれました。……しかしそれは、作戦と呼ぶには余りに無謀で無茶なものでした。


「今から俺が王都付近まで一気に突っ込む、エルは魔法で権勢を取りながら離れないで俺に着いて来てくれ。奴の攻撃は全て俺が剣で弾く」


「……無茶苦茶な作戦ですが、了解です」


「よし。……あー、それとエル?」


 ノヴァさんが苦笑いをしながら私を見てますね……何でしょう?。


「俺が引っ張ったのが原因だと思うから言い難いんだが……。上半身、殆ど脱げてるぞ」


 ……え?嘘!?。……私は恐る恐る自分の胸元を見ました。


 脱げてます。ワンピースが脱げてます。下着もずれてます。……ってかやっぱり脱げてます。


 私は勢い良く胸を隠しながらノヴァさんを見ました。


「……見ました?」


「見てなきゃこんな事言わねぇだろ」


「……何処まで見ました?下着までですか?それとも……その……全部見えてました?」


「……後者だな」


 ぬわぁぁああぁぁもう嫌だお嫁に行けない!。


 フ、フフ、フフフ……。こうなったら全てが片付いた後にノヴァさんに責任を取ってもらうしかありません。……ん?リンネさんが愛してる相手だろって?知らないですよそんな事!。


「ノヴァさん。……私もうお嫁に行けないです」


「……随分と緊張感が無いっていうか、余裕そうだな、お前」


「私からしたら、というより女性からしたらお嫁に行けないは死活問題です」


「お、おぅ……そうなのか」


「という訳で、これが片付いたら責任取ってもらいます。私、ノヴァさんのお嫁さんになります」


「……スッゲェー死亡フラグだな。っつーか何ふざけた事言ってんだ?」


「私は超本気ですよ!うがぁ!」


 私が立ち上がって吠えると同時に、背後で爆発が起きました。


「チッ、位置がバレたな……。このまま作戦通りに行くぞ!」


 ちょ、待って……。今服を着直してる所なんですが、あーもう!。


 若干紐が捩じれてて気持ち悪いですが、もう後で直します。


 私は走り始めたノヴァさんにくっついて走り、権勢程度に魔法を撃ちながら王都の崩れた城壁まで突っ込みました。



「ふぅ、何とかなった。上手くいって良かったな」


「もう本当ですよ!やってる事が無茶苦茶じゃないですか!」


 私はワンピースの紐を直しながらノヴァさんに文句を言うと、再びライオットたちの場所を確認しました。……特に動いて無いみたいですね。


「あぁ全くだな。だが現状の戦力じゃ、この程度の作戦で限界なんだ」


「……」


 それってつまり、私が戦力として不十分って事ですよね。……普段であれば気にしないんですが、ノヴァさんに言われると何故かヘコみますね。


「とりあえず、あの家に行こう……体制を立て直したい」


 ノヴァさんの指さす先、そこには煙突が折れて窓が割れてしまっている家がありました。こんな所には住みたくないですが、身を隠すには十分機能するだけの形状を保っています。


「……分かりました」


 私たちは、空に居る彼らに気付かれない様、コッソリと家の中に入りました。とりあえず一息つけそうです……ユズは無事でしょうか?。


「そういえばエル」


「どうしました?」


 家の中の安全を確認しながら、ノヴァさんが話しかけてきました。


「お前、ユミリアでもそうだったが、リンネ達が心配じゃ無いのか?」


「心配ですよ……。でも、生きている事は分かりますから」


「何故そんな事がお前に分かるんだ?」


「……ノヴァさん、リンネさんと契約してから全力が出せないんじゃないですか?。ライオットと行動していた頃のノヴァさんなら瞬間移動しそうな場面でも、最近は一切瞬間移動をしない。それどころか術式の強度も堕ちているように見えますし、何より……動いてる事自体が辛そうに見える時もあります」


「……何が言いたい?」


 彼の事を心配する私を他所に、ノヴァさんが少し怪訝気味に聞いてきました。


 ……今まで、ノヴァさんの弱体化に気付く事は多々ありました。しかしその事を聞く事が申し訳なくて話し出せなかったんですが、今はそんな事も言ってられないので聞いてしまいます。


「……リンネさんには申し訳ないんですが、もしかしたらノヴァさんを使役するには呪術師としての能力が足りて無いんじゃないのかな?って思ったんです。

 間違いなくライオットと行動していた時の方が貴方は強かった、でもリンネさんと契約を結んでからは……私でも目で追い切れる程度の速度しか出せて無い。きっと術者の能力に影響を受けて、ノヴァさんの戦闘力が決まると思うんですよ。

 多分ライオットよりリンネさんの方が呪術師としての能力が低い、だからノヴァさんは全力が出せない……と」


「……随分と手加減無しに言うんだな」


「……すいません」


 ノヴァさんはより一層鋭い目つきで言ってきました。実際、私も酷い言い方をしている自覚はあります。


 しかし俯く私の頭を撫でながら、ノヴァさんはいつもより少し優しい声で話を続けました。


「だが、お前の言う通りだ。リンネは昔に比べて圧倒的に呪術師の能力が落ちてる……それは本人も気付いてる筈だ。

 そして、俺を使役する奴のスペック以上の力を俺は出せない……これが今の俺の全力なんだ。

 ……だがその話とリンネ達が生きてる事と、どう繋がるんだ?」


「……ライオットからリンネさんに使役する人間が移った瞬間に、ノヴァさんは弱体化しました。これは捉え方の違いになるんですが、仮に今リンネさんが死んでいたとすれば、ノヴァさんは消えるか力が元通りになる筈だと思うんです。

 でも、私の頭を撫でてくれるノヴァさんは、消えもしないし力が元に戻った様にも感じない……だからリンネさんは生きていると確信が持てるんです。

 そしてユズなんですが……。リンネさんが傍に居ますし、あの人の性格上、自分の身が危険に晒される事になってもユズを庇うと思うんです……まぁこっちは根拠の無い憶測でしかないんですがね」


 私の頭を撫でるノヴァさんの手が止まりました……どうしたんでしょう……?。あ、いや、もっと撫でて欲しいとか、そうゆうのじゃ無いんですよ?。でもどうしたのかなぁと思っただけです、ハイ。


 私が上目越しにノヴァさんを見ると、何やら私の事を見ながら驚いた表情をしています。彼のこんなに驚いた顔、初めて見ました。……ふふ、こんな表情も出来るんですね、ちょっと可愛いです。


「……驚いたな、もしかしたら俺よりリンネの事分かってるんじゃないか?」


「女同士ですから、通ずる物があるんですよ」


 私は腰に手を当てて胸を張りながら、ちょっと偉そうにエッヘンしていると、窓から誰かが入ってきました。


「女同士だからどうかは分からないけど……貴方よりエルちゃんの方が、しっかりとあたしを見ているんでしょうね」


 そう言って窓から入って来た人……それはリンネさんたちでした。


「そう言われると、参っちまうな」


 リンネさんの言葉に、頭を掻きながら困り果てるノヴァさん。やっぱりこの人、言動や思考以外は可愛いんだと思います。


「やっほーエルシアちゃん!」


「無事で何よりです、ユズ」


 さて、何とか無事に合流できましたし、じゃれ合いはこの辺にしておいて悪党退治をしに行きましょうか。


 私たちは、ノヴァさんとリンネさんの立てた新たな作戦を遂行する為に、隠れていた家を一気に飛び出して行きました。


 ここからが本番の勝負です。守護するべき王都は半壊状態、私の魔力は半分程度、3人も疲弊していて絶望的な状況ですが、2人の作戦があれば勝機も見えます。……今が踏ん張り所なんです。絶対に全員で生きて勝つ事を胸に誓って、私は体中に魔力を込めました。



 此処からの戦いは本当に辛い物になる筈です。でも皆とだったら何とかなると信じてます。


 そして私は、この激戦の最中に幾度となく降り掛かる奇跡に助けられながら、死闘を繰り広げるのですが、それはまた次のお話で……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る