エピローグ 旅の終わりと、それぞれの道と、新たな旅立ち

 はいどうも、私です。


 あの戦い……王都半壊事件が起きた後、私は故郷に帰る事無く王都のちょっとリッチな場所に腰を据えていました。……ん?何でお前みたいな子供がそんな良い場所に住んでるのかって?それは簡単な事です、この家自体が王様に貰った物だからですよ。


 前回、無茶を承知でお願いした物はこの家だったんですよ。


 まぁ私たち皆の家という事で王様から貰った居場所なんですが、ノヴァさんとリンネさんは直ぐに王都を出て行ってしまいました。


 ……そういえば、あれから既に1ヶ月も経つんですよね……時間の流れって早いです。


 さて、それじゃあ1ヶ月前の、戦いが終わった直後の話でもしましょうか。



 あの戦いの後、王様とのお話を終えて王宮を出た私たちは、最後の最後にした私の無茶なお願いが無事に通り、私たち4人の家を頂きました。そこは住居者の居なかった、高級住宅街に建つちょっとリッチな家です。


 最初の1週間は、私の興奮が収まらず、本に囲まれて食事を取らずにいた事をリンネさんに怒られたりもしました。


 ユズは騎士の心得を知る為の勉強をしに騎士隊訓練場に通い、ノヴァさんは何かを探す為に遠出をする……そんな毎日でした。


 その1週間後、ユズは正規の騎士として、お仕事をする事になり、余り家に帰って来ない日々が続きました。


 その頃でしょうか、ノヴァさんが何かを見つけたらしく、リンネさんと相談をして、その日の内に家を出ていく事を決めました。


 ……まぁいつかこういう日が来るのは分かっていましたが、やっぱり寂しい気持ちになりますね。


 ただ、最後に私と話がしたいとノヴァさんが言ってきた為、王都周辺の丘の上にお散歩をしに行き、そこで彼の話を聞きました。


 何でも、大きな声では言えないんですが、この世界には行き止まりがあるらしい事を聞かされました。……良く知らないんですけど、世界って最果てがあるのが普通なんじゃないですか?。……え、違うんですか?地球って丸いの?……へぇ。


 まぁそれはさて置き、他の話したい事は紙に纏めてあると言う事で、彼の話しは終わりました。


「さて、話も終わったし帰るか」


「……そうですね」


 歩き始めるノヴァさん。……本当にこのまま行かせて良いんでしょうか?私も……何か言いたい事が有るんじゃないんでしょうか?。


 自分の大きく高鳴る心音を堪えて、覚悟を決めた私はノヴァさんに呼びかけました。


「あの!ノヴァさん!」


「ん?どうした?」


「私も……ノヴァさんに話したい事があるんです」


「帰ってからじゃ駄目なのか?」


「リンネさんには、その……あまり聞かれたくないんです」


「……分かった。それじゃ向こうの木陰にでも移動するか。そこでゆっくり話を聞こう」


 私たちは木陰の良い感じに座れそうな場所に並んで座ると、ノヴァさんは私の方を向き、話すのを待っている様でした。


 でもどうしましょう……話したい事があるのは本当なんですが、言いたい事が全く纏まりません。


 そんな私の心情を見抜いてか、ノヴァさんは「別に急いで無いから、ゆっくり話せば良い」と言ってきてくれました。……心なしか自分の顔が熱い気がします、気のせいだと良いんですが。


「あの……あのですね」


「あぁ」


「えっと……言いたい事はあるんですが、上手く言葉に出来ないと言いますか……何て表現すれば良いのか分からないと言いますか……」


「はは、じっくり考えてくれ。まぁ流石に1日も待てないから今日中で頼むぞ」


 ノヴァさんは笑いながらそう言うと、目を閉じて静かに待ち始めました。


 時間を掛けて良いと言ってくれましたが、流石にずっと付き合わせるのも悪いんで、ちょっとチグハグな言い方になるかもしれませんが、話すだけ話してみましょう。


「初めてノヴァさんと会った時、正直凄く怖かったんです」


「初めて会ったのは始まりの街だったか?あぁ。確かにユズ以上にビビってたしな」


「そう……かもしれないですね。

 そして次に会ったのが、古墳の中でした。あの時も怖いと思いましたけど、でもどこか……不思議と話しやすい冗談の通じるお兄さんの様な感じがしたんですよね。

 でも、実際はどこまでも強くて怖くて、ユズを傷つけた貴方を……多分ですけど憎いとも思ってたんだと思います」


「そうだな、エル達を治療した街でお前、目覚めた瞬間俺に殺意を向けて来てたもんな」


「ミルセルさんの居た街の話ですよね?。……正直、ノヴァさんが一緒に行動する事に異論が無かった訳じゃ無いんですよ。今まで2回も殺されそうになってるし、リンネさんまで傷つけるし……」


「……手は抜いてたつもりなんだが、そいつは悪かった。お前達は気を失ってたから知らないだろうが、ミルセルの家に着くまでリンネに延々と説教されてたんだ」


「ノヴァさんが?リンネさんに説教されてた?。ふふっ、信じられないです」


「……あんま笑うな、どうもアイツの説教くさい所は苦手なんだよなぁ」


 ノヴァさんが珍しく怠そうな顔をしています、結構表情豊かですよね、この人。


 それにしてもノヴァさんはリンネさんが苦手なんでしょうか?、王都での戦闘中もリンネさん相手にはタドタドしてましたし……本当に2人の関係が気になる所です。


「あの……前から思ってたんですが、ノヴァさんとリンネさんって……その、どういう関係なんですか?」


「あ?あー……主従関係か?」


「でもリンネさん、ノヴァさんの事を好きだって……愛してるって言ってましたよ?」


「あぁ、それは知ってる」


「……何か、お返事はしたんですか?」


「いや、特に必要無いだろうし何も言ってないが」


「必要無く無いですよ!女性の方から覚悟決めてアピールしてるのに、サラッと流されたら可哀想じゃないですか!」


 あーもう、いつの時代も何処の男性も本当に鈍い人ばっかりですね、ちょっとイライラします!。


「待て待て、ごちゃごちゃ言う奴はリンネ1人で間に合ってる」


「そのリンネさんでも言いにくい事だから私が言ってんです!」


「ってかそもそも何でお前がキレてんだよ?」


「何となくリンネさんの気持ちが分かる様な気がしてるからですよ!」


「あ?」


「私だったら……勇気を出して愛してるって言ったのに、流されたら悲しいですもん。……折角覚悟を決めて告白したのに、それじゃあ切な過ぎると思いません?」


「……」


「……」


 うぅ……さりげなく言ってしまった……。今のって何となく告白っぽい言い方でしたよね?何か地味に恥ずかしくなってきました。


 とはいえ、流石に鈍感なノヴァさんでも、ここまで言えば女の子の気持ちが少しは分かりますよね?。まぁリンネさんが女の子って歳かどうかは置いといて。


「……」


「……」


「……さぁ?」


「はぁぁぁぁ!?」


 このっこの人っ……。あぁもう!このっ!。


 私は言葉にならない嘆きや怒りを、座ってる場所の手前にある岩にぶつける様に、ブーツのヒールの部分でガンガン蹴り飛ばしました。


「お……おい、エル?」


「あー!何でノヴァさんは女心が分からないんですか!?」


「そりゃ……男だし?。ってか多分エルは何かとんでもない間違いをしてるぞ?」


「あぁ!?何です!?」


「いや俺……リンネと随分遠いが血筋が繋がってんだよ。アイツの言う愛してるってのは家族愛みたいな物だ」


「あぁ!?……へぁ?」


 え?リンネさんとノヴァさんって……えぇ!?。


「家族……ですか?」


「まぁ一応な……」


 それならわざわざ答えなくても、お互いに家族愛があるのは当たり前な事で……。え?じゃあ私は何でノヴァさんに怒ってるんでしょう?やだ恥ずかしくなってきた。


「はぁ、落ち着いたか?」


「あぅ……すいません」


「で、結局エルが言いたい事って何だ?」


 ノヴァさんにそう言われたとき、心臓が思い切り跳ね上がった気がしました……何かドキドキしてます。


「ずっと……貴方の事が嫌いでした」


 違う、そうじゃないでしょう。


「ずっと怖かったし、何考えてるか分からなくて……不気味だと思ってました」


 そうじゃないです、もっと他にいう事があるじゃないですか。


「今も、貴方はは言葉足らずで私に恥をかかせました……やっぱり私は貴方が大嫌いです」


「あーそうか。それはすまなかったな」


「でも!」


 そうです、遠慮なんて必要ないです。自分の思った事、心の中で感じてるこの気持ち……全部ぶつけて良いんです。言葉足らずでも、支離滅裂でも、今!言葉にしないと絶対に後悔します。だから全部吐き出して良いんです。


「貴方は、ミルセルさんの死に様をユズに見せた時、私の事を理解してくれました!慰めて頭を撫でてくれました!」


「……」


「貴方は、ずっと私に優しく接してくれてました。私は貴方と話をしたり、触れ合ったりする度に……嬉しい気持ちと、言葉に出来ない、もどかしい感情が入り乱れていました」


「……そうか」


 ノヴァさんは真剣に私の話を聞いてくれています。それが嬉しいような恥ずかしいような、ちょっと茶化してくれても良いと思えるほど真面目な彼の視線に、少し顔を落として目を逸らしました。


「……前に、リンネさんと「好きって何なのか?」という事を話した事があるんです。その時の私は、好きが何なのか、愛してると言うのはどんな感情なのか分かりませんでした。と言うか今もよく分かってません」


「あぁ」


「でも、少しだけ分かった気がしたんです。私が今抱いているこの不思議な感情……嬉しくて温かくて、楽しくもあるけど、ちょっと胸が締め付けられるような切なさが混じったこの思いは、きっと……その人を好きって事なんだと……そう思うんです」


「それは、ユズに対してもそういう感情を抱けるか?」


「はい。実際何度も胸が締め付けられる感覚に陥ったりもしています。ユズと居ると楽しいです、ちょっと鬱陶しいと思う事もあるけど、それでも一緒に居ると温かい気持ちになれるんです」


「そうか。それならきっと、その感情は好意なんだろうよ」


「私もそう思ってます。そして、その感情は……私の中でノヴァさんと居る時に強く感じます」


 私は恥ずかしい気持ちを振り切って、ノヴァさんの顔を見ながら、今の私の感情を告白しました。


「私は、ノヴァさんが好きです!。旧世界に生きた、今は死者だとしても関係ない!貴方の事が好きなんです……もっと、一緒に居たかった」


「そうか……ありがとな。だが……」


「分かってます。ノヴァさんとリンネさんの旅に……私は付いて行けない。それは、私の目的になる旅じゃないから……」


 私の発する言葉は、震えていました。涙を零しながら見るノヴァさんの顔は少し霞んで、歪んで見えます……。どうして泣いているのか、最初は分からなかったんですが、今は何となく分かります。きっと失恋した女の子ってこんな気持ちなんでしょうね。


「……一緒に居たい、でも、それは叶わないんですよね?」


「……悪いな」


 ノヴァさんは私の涙を指で拭うと、頭に手を置いて撫でてくれました。


 そんなノヴァさんに私は抱き着いて、最後の別れを噛み締めながら泣いていました。


「だが、一生会えない訳じゃ無い」


「……え?」


「エルの魔力は覚えた、世界の反対に居てもお前の事は分かる。お前だってそうだろ?」


「……はい」


 私はノヴァさんの服に顔を埋めながら返事をしました。……あんまり泣き顔は見られたく無いんです。


「それに、王都のアレは俺達の家なんだろ?また帰って来るさ。もしもまた、お前が旅をする事があるなら、その道中で会う事もあるだろうよ」


「はい」


「だろ?だからそんなに泣くな、また会える」


「……約束して下さい。また会えるって、誓ってください」


「あぁ、約束もするし誓ってやる。その頃、エルが今よりも大人になってて、今の俺に向けた想いが消えて無いなら、その時……もう一度この話をしよう。それまでお預けだ」


「……今は、何も言ってくれないんですか?」


「あぁ、楽しみは後に取って置くべきだ。それじゃ、帰ろろうぜ」


「ふふ……意地悪ですね。やっぱり私はノヴァさんが大嫌いです」


 そう言った私の顔は、ほんの少し頬を赤く染めて、眼の縁に涙を溜めて笑っていました。



 こうして、私たちが家に戻ると、2人は直ぐに出発していきました。


 それからは、私は家の中で1人、王様から貰った書類を片っ端から読み漁り、気が付くと空腹で倒れて、たまたま帰って来たユズに救出される生活を送っていました。


 そんな生活を続ける事2週間、私はある事を発見したのです。



 とまぁ、ここまでが過去の回想になります。いやー、告白しちゃいましたねぇ。今でも思い返すと顔が熱くなってしまいます。……え?そんな事どうでも良いから発見した事を聞かせろって?はいはい直ぐに。



 私の発見した事、それは空白の50年の資料より、旧世界の資料の方が圧倒的に少ない事、そして空白の50年が人為的に起こされた事象である事……。


 私はライオットの言った通り、世界を作った神が、何らかの不都合を隠す為に無理矢理世界の在り方を変えたと思ってたんですが、どうやら2人の魔女と、2人の付き添い、計4人で死んだ世界を変えた様な記述が出て来たんです。


 そして、城下町で見た地下の施設…チカテツでしたっけ?アレについても少し触れられている文章も出てきました。


 その内容は、空白の50年が出来た時に、神が世界に地面を上乗せした事によって、元々あった場所があの様に地下として存在しているらしいです。


 因みにこの現象は、世界各地でも確認が出来たと書かれています。きっと過去に私が見た地層は、空白の50年以前の死んだ世界の姿だったんでしょう……。


 他には、旧世界は既に滅んでしまっていて、星そのものが存在しない事が書かれた記述も出てきました。


 更にそれとは別に、この世界は何処までも大陸が繋がってるというにも関わらず、何故か行き止まりがあるそうなんです。……そう言えばノヴァさんがくれた手紙にも、世界に果てが存在するとか、旧世界は既に消滅してるとか書かれていましたね……理由は書いて無かったんですけど。うーん歯がゆいです。というか意味分かんないですね。


 ……うん、知りたい。


 私は別に世界の在り方を見て、空白の50年を起こした人みたいに何かを変えようとは思いません。……ただ、見てみたいのです。そこまでして変える価値がある世界なのかを。無理矢理に世界を変えたその痕跡を。


 さて、思い立ったが吉日。早速私は旅に出る準備を始めました。


 今までと荷物は変わりませんが、必要そうな情報を全て手帳に書き写して、次にユズが戻って来るのを待って、それから出発です。



 私が準備を整えてから3日後、ユズは大きな武器を2つ抱えて家に戻ってきました。


「エルシアちゃん!騎士専属の武器精製所からコレを持って行くように頼まれたよ!」


「おっ、やっと出来ましたか」


「うん!ただ、魔法の調整が自分には出来ないから、そっちは自力で何とかしてくれってさ」


「うーん、まぁ多分大丈夫でしょう。ありがとうございます、ユズ」


 はい、コレは私の新しい武器です。実は王宮から帰る時に、ノヴァさんから不思議な球を2個貰ってたんです。


 何でも蒼い方の球は私の魔力を15倍に増幅させて放出する物らしく、紅い球は少しの魔力で武器に魔法を付与して鋭利にして、なおかつ使用者が魔法の形状をコントロールしやすくする物だそうです。


 紅い球はショーテルに、蒼い球はショーテルと連結出来る、魔道昆という棒状の、一見ちょっと豪華なシバキ棒の様な見た目をした物に付けました。


 さて、武器も手に入ったし、ユズにも会えた……そろそろ旅に出る事を彼女に話しましょうかね。


「あの……ユズ。私、また旅に出ようかと思ってるんです」


「あー……そうなんだ!。えっとね……実は私も、明日から暫く帰って来れそうに無いんだよね」


「どういう事ですか?」


「うん……私、遠征隊に配属する事になったの。だから、この任務が終わるまでは帰って来れない」


「遠征隊って、王都のエリート集団が行う国境見回り隊じゃないですか!おめでとうございます!。あ、でもそうするとお兄さんへの復讐は……」


「いや……それは絶対にする。遠征中の見回りも、兄が居ないか探しつつ行うつもりだよ」


「……そうですか。ユズ……私が前に言った事、忘れないで下さいね」


「あいあい、だいじょーぶ!。私が狂気に落ちたらエルシアちゃんが止めてくれるだろうしね!」


「ユズ……」


 その後、私たちは話すことなく、静かに夕飯を食べて就寝しました。



 そして次の日の朝、私はユズが遠征に向かう姿を見送ると、早速荷物を纏めて王都を出ました。


「手帳よし、地図よし、水筒よし、テントよし、斧よし、ノコギリよし、調理用のフルタングナイフよし、メタルマッチよし、食料よし、着替えのワンピース2着と下着2着よし、ショーテルと魔道昆も持ちました……行きましょう!」


 私はローブの代わりに、リンネさんが直してくれたロングカーディガンを着ると、麻袋に荷物を詰め込んで肩に掛け、魔道昆を杖の様に突きながら王都を後にしました……。


 …………………………。


 ……………………。


 ………………。


 …………。


 ……。


 …。




















 ある場所に、少女が居ました。年齢は10代前半程度でしょうか、長く伸ばした綺麗な金色の髪が印象的なその少女は1人、王都の北側に伸びる道を真っ直ぐ進んでいました。


 辺り一面に薄いピンク色の花弁が舞う桜並木の中、彼女は強風に髪を抑えながらも止まることなく進み続けます。


「さて、次はどんな人と出会えるのでしょうか?楽しみです」


 季節は春。少女はどこかワクワクした表情で、どんな物語が待ってるのかも分からない、まだ見ぬ場所を目指して歩き続けるのでした……。

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