5章 南の最果てを目指す少女

プロローグ

 ある晴れた道、ひたすら南に伸びる道の中、一人の少女が不規則な動きをして歩いていました。


 周りに人が居たなら、彼女は頭がおかしくなってしまったのでは?と言われても文句が言えない程、不可思議で気味の悪い動きをしてゆらゆらと歩いていました。


 彼女はいったい何者なのでしょう……?。はい、そうです……私です。


 うん、まぁ……私なんですが。現に私は不可思議な動きをする私から少し離れた場所で捕れた魚をハンモックに座って頬張っていたんで、厳密には"限りなく私に似た誰かさん"という事になります。いや~、めっちゃ私に似てますね……こうも似てると何か別の意味で気味が悪いです。


 そして私の存在に気付いた私(別人)は、こっちに一目散に近付いて来ると、私の声で変な事を言い始めたのです。


「目標発見、これより私を殺します」


「……え?」


 私は手に持っていた焼き魚をポロッと落として固まってしまいました。いやだって……声まで私そっくりなんですもん。と言うか今彼女……私を発見して私を殺すって言いました?。って事はマジで私なんですか?……どゆこと?。


 そんな私の困惑はお構いなしに、私(敵)は大斧を振り下ろしてきました。


 ダァーン。


 大きな振動と焚火をぶっ壊す音が、彼女が本気で私を殺しに来てる事を現していました。彼女ってもしかして、旧世界の資料で読んだクローンとか言うヤツなんでしょうか?でも、だとしたらこれ以上の追撃は無い筈です……だって。


「あぁ!?しまった!重過ぎて振り上げて攻撃できません!」


「まぁ……でしょうね」


 はい、そうです。私は剣より重い物は振えないんです。そんなマッチョな筋肉は私にはありません。だとすると、次の攻撃は読めています。


「ふんぬぁー!」


 変な掛け声と共に、私(敵)は左足を軸にして右回転で大振りの攻撃を仕掛けてきました。やっぱり予想通りです。


 私は私(敵)の斧に当たるより先に懐に潜り込むと、魔道昆で頭をぶっ叩きました。


 ゴィ~~ン。


 バタッ。


 私のシバキ棒こと魔道昆の強烈な打撃を受けた私(敵)は、脳震盪を起こしてその場に倒れました。今の内に装備を外して、手足を拘束しておきましょう。そして起きたら彼女が何者なのか聞きましょう。そう思っていたんですが、此処で不可解な現象がまた起こりました。


「なッ……!?。と、溶けた!?」


 そうなんです。私(敵)は赤い液体になって溶けてしまったんです……えっ?理解が追いつかないんですが。


 私はとりあえず、目の前で液体になってしまった私(敵)の衣類や装備を確認しました。うん……マジで私の装備と一緒ですね。寝間着や下着と言った、いわゆるプライベートな物まで全く一緒です。


「……って事は、この寝間着や下着、装備は彼女自身が集めた物って事になりますよね。特に下着なんて誰にも見せて無いんですから、真似っこの私を作ろうとしても、ここまで真似は出来ないでしょうし……。後この液体……血ですね。もしかして私の血を媒体に彼女を作ったんでしょうか?。でも何の為に?と言うか誰が作ったんですか?」


 謎は多く残りますが、とりあえず私(敵)から得られる情報は全て得たんで、先に進もうと準備を始めたんですが……いきなり訳分かんない物と遭遇して内心凄く帰りたいです。でも引き返すには結構遠くまで来ちゃんたんですよねぇ……仕方ない、本当に気乗りはしませんが、先を急ぎましょう。


 こうして私は、南の最果てを目指す旅でいきなり変なのと遭遇し、幸先重いスタートを切るのでした……。

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