4節 魔女の街と、いつか出会った魔女と、過去の話に詳しい彼女

 はい、私です。


 私は今、ちょっとおもしろい街に来ていました。


 魔女の街。そう呼ばれているこの街は、実は周囲の街や村から良くも悪くも浮いている存在で、少し情報収集をすると聞く事が出来る程に異質な雰囲気を纏った場所だったりします。アレですかね?よくある昔話の魔女は、ジメジメして薄暗い所を好んでたりしますが、それと同じような感じなんでしょうかね?。


 しかし街の中に入ってみると、何だか拍子抜けする程普通な場所なんですよね。イモリの丸焼きとかヒルのすり潰した物とか毒蛇の酒漬けとか、そういった物が売ってるかと期待したんですが。……え?今言ったの全て漢方薬なんですか?へぇ。


 まぁ期待外れ感はあったんですが、実際に普通の人が買わなそうな物も売っているのは確かな様で、何ですかコレ……魔光石?とか言うのも売ってます。


 そういった売り物の中で、目を引くのは……やっぱりこの「魔女なりきりセット」でしょうか。内容物は、とんがり帽子とマント、杖と箒と少量の魔光石が入ってお値段何と金貨10枚!……嫌高けぇですよ。


 ……でも気になるんですよね。魔光石は特に魔力を感じないんでただの石ころなんでしょうけど、箒とか杖とか如何にも魔女っぽいじゃないですか。でも使い心地が良くないと嫌だしなぁ……誰かそれっぽい服装の人に声を掛けて、使い心地を聞いてみましょうかね。


 そして都合良く、私の視界の先には魔女魔女しい格好をした小柄な女性が歩いていました。彼女あれですね……後姿ですが、どっかであった事がある様な髪の色と服装ですね。まぁとりあえず声は掛けてみましょう。


「あの、少しお尋ねしたい事があるんですが、お時間よろしいでしょうか?」


「え?はい、構いませんよ。私に答えられる事なら何でも答えますよ」


「ありがとうございます……って、やっぱりあの時の魔女さんじゃないですか!」


 はい、そうです。私の話し掛けた魔女さん……私とユズが王都に向かう最中で出会った、超親切な古風な見た目の魔女さんだったんです。どうりで見覚えがある訳ですね。


「……あぁ!ユミリアの街の前で会った子じゃないですか!。エルシア……でしたっけ?」


「そうです、その節は大変お世話になりました……えっと」


 私は深々とお辞儀をしながら感謝の言葉を述べて、そこで気付きました。そう言えば私、魔女さんの名前知らないんでしたね。


 私の考えを察してか、魔女さんはスカートの端をつまんで、足を交差させて軽く屈みながら優雅に自己紹介をしてくれました。


「私……エレネスティナ・フリクセンと申します。気軽にエレナと呼んで下さい」


「わかりました、エレナさん。改めてあの時はありがとうございました」


「いえいえ、困った時はお互い様ですから」


 あぁ……超聖女だ。まぁ魔女に言うセリフじゃないと思いますが。


「所で、エルシアはどうして此処に?王都に向かったんじゃ無かったのですか?」


「えぇ、今は王都で暮らしていますよ。ですが王都で世界の真実の片鱗に触れまして……気になったんで真実を探す旅に出てるんですよ」


「……へぇ。どこまで見たのですか?世界の真実」


「うーん……此処に来る前に北側を回ったんですが、その時に骸骨の心スケルトンハートの事は知れたんですが、後はさっぱりで……」


「そうですか……彼女達の生き様、エルシアはどのように思いましたか?」


「どうって……まぁ戦争だから殺伐とするのは仕方ない事だし、彼女たちの境遇は良いとは言えませんが、それでも幸せそうに感じましたよ」


黒雪姫スノーブラックも?」


「え?えぇ……むしろ彼女が1番幸せそうでした。……エレナさん詳しいですね、何処で彼女たちの話を?」


「私も……世界の真相に片足を踏み込んでしまった、ある意味悪の魔女ですから……」


「……?」


 そんな話をしながら魔女の街を回った私たちは、少し値が張りましたが楽しいショッピングを終わらせて、同じ宿で一緒の部屋を取って、話の続きをし始めました。


 あ……魔女なりきりセットなんですが、交渉して半額以下の値段で買っちゃいました。ついでに、ほんのりと淡く水色なノースリーブのブラウスと、普段のワンピース程に丈が短い紺色のスカートも購入して、早速着てみていました。何となくエレナさんとの格好に被ってる気がしますが、気のせいです。


「そうですか……最近妙に騒がしいと思っていましたが、王都でそんな事があったのですね」


「えぇ、そこで私は完全な魔女として覚醒したんだと思います……今思えば相当無茶をして死にかけましたしね。……エレナさんはその間、何をされてたんですか?」


「私は……友達を探していました。名前はシャティルディア……シャディの愛称で呼ばれる吸血鬼なのですが、聞いた事は?」


「いえ、無いですね。……吸血鬼?」


「えぇ、旧世界で英雄と共に戦った日差しを歩く吸血鬼サンウォーク・ヴァンパイア……その子孫だそうです」


「旧世界ですか……。吸血鬼が居たなんて、つくづく変わってますね」


「他にも、不死身の骸骨型の魔物が居たり、そこら辺を天使や妖精が歩いてたらしいですよ?」


「わぁお、すっごいファンタジー!」


「にわかには信じられないですよね」


「そうですね。旧世界……何でもアリだったんだなぁ……」


 そんな話をしながら、私たちは眠りにつくのでした。



 次の日の朝、私は特にこの街に居座る必要も無かったんで、先を目指して旅を続けようと準備をしていました。


「エルシア、貴女は南に向かうのですよね?」


「えぇ、エレナさんはこれからどうするんですか?」


「私も南に向かおうと思ってるので、お邪魔かもしれませんが同行させて頂きたいのですが……良いですか?」


「お邪魔だなんてとんでもない!むしろ私が足を引っ張りそうですし……こんな私と一緒で良ければ、こちらこそお願いします」


「ふふっ。はい、お願い致します。」


 私はエレナさんと握手をして、共にシャディさんを探しながら南を目指して旅を続けていくのでした……。

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