16節 単純で効果的な作戦と、謎のスイッチと、リノリスとの約束

 はい、私です。アホ毛の話がしたいのに大して話す事が無い現状に悶々しているエルシアです。


 私たちは今、新世界が誕生して2世紀弱の頃に起きていた新大日本帝国の記録を読んで、戦略的なアンドロイドの所に帰ってきた所です。


 どうやら作戦の準備は既に終わってるらしく、他のレジスタンスメンバーにも通信で作戦内容を伝えたとの事でした。


 まず神を呼び寄せるには、人形たちを一掃して異変に気付かせる必要がある、そして待機中の人形たちは私たちが以前訪れたマザーステーションの中に居るそうで、この建物を一気に破壊して殲滅してしまおう……と、まぁそんな感じらしいです。


 で、作戦の内容なんですが……此処のアンドロイドが駆るロボットの部隊で空中から襲撃を掛けるとの事らしいです。


 建物の崩壊で粗方の人形を潰した後、各所のアンドロイドで人形の残党を破壊していく……とっても単純ですね。


 因みにマザーステーションを崩壊させる都合上、私たちが確保していた出口は電力の関係で再び閉じてしまうらしいですが、結局北ブロックを破壊すれば出口も入り口も無く世界が繋がるからどうでも良いとの事らしいです。あの時の私たちの苦労っていったい何だったんでしょう……。


 そして神が現れた後は、私たちの出番。ノヴァさんの記憶を見るに、あの神……創造神は大して強く無いタイプの神みたいなんで、私のA・Aとリノリスのミュエールで一気に畳み掛けるのが最善策でしょう。


 そして、全てが済んだ後、或いはどうしようも無くピンチな状況になった時に使う用の謎のスイッチを手渡されました。一応使うタイミングで指示は出してくれるそうなんですが、使った後は自分で考えて行動しろと言われました。


「あの……これを押すとどうなるんです?」


「全てに決着が着く」


「だったら最初から押せば良いじゃないですか……」


「それでは君が困る事になる……物事には何でも順序があるんだ、覚えておくと良い」


「それ位は分かってますが……」


「詳しく教えない事が不服か?」


「……まぁ、そうですね」


「素直でよろしい。だが今教える訳にはいかない、スイッチを使って起動が確認されたら教えてあげよう。それまでは自分で考えるんだ」


「……はぁい」


 こうして微妙な心境のまま、作戦の簡単な説明が終わりました。まぁ作戦内容を細かく聞いた所で、北ブロックを破壊して神と対峙するのは私たちの役目で、人形の破壊がアンドロイドの役目……そうなってくると私とリノリスの作戦なんてあって無い様な物でしょう。


 こうして、私たちは現場付近のエリア86に移動して、作戦開始の合図を待つのでした……。



 エリア86に着いた私たちは、暇を持て余して会話をしながら、ボロボロの服を直していました。正確にはリノリスが、私と自分の服を直してくれている……と言った方が正しいでしょうけど、そんな細かい事誰も気にしないですよね。


 しかし、北ブロックは寒いですね……仕方ないとはいえ下着のままでいるのは体に堪えますね……へっくしっ!。


「お待たせいたしました、エルシア様」


「わぁ暖かい……。人類は暖かい思いをする為に生きてるのかも知れないですねぇ……」


「それは無いと思いますが……まぁお気に召した様で何よりです」


「それで、さっきの話の続きですが……リノリスは私たちの住んでいた世界に興味があるんですか?」


「はい。存在はデータとして知っていますが、実物を見ると違う感じ方も出来ると思うので興味はあります」


「箱庭の……作られて管理されてただけの世界だとしても?」


「もちろんです。どんな物でも見聞きしただけでは分からない事って沢山あると思うんです……エルシア様が良い例でした」


「私ですか?」


「はい。私達アンドロイドには、人間の生態がデフォルトで記録されているんですが……きっと私達の生みの親である神様は人間に嫌な思いを抱いていたんでしょうね。自分勝手で思い込みが激しく、勝手に病んで自殺する哀れで怠惰で救い様の無い資源を食い散らす残念生物として保存されていました」


「うわぁ……確かにそういう人も居ますけど、全員がそこまで酷い訳では無いですよ……きっと、多分、恐らく」


「そうかもしれないですね。エルシア様を見ていて、人間のデータは意図的に悪意を持って記憶を保存されていたんだなと思いました。だからこそ自分の目で見てみたいのです、データとしてでは無い世界を」


「なるほど……それじゃあ北ブロックを破壊したら私の家に来ますか?」


「え……?」


「安心して下さい、一緒に住んでる人たちは良い人ですから。ついでにミュエールも連れて行って直してもらいましょう!」


「……」


「……リノリス?もしかして私の家じゃ嫌ですか?旅したい系ですか?」


「い、いえ……。それじゃあ……此処を出てもエルシア様の従者をさせて頂きますね」


「お小言は程々でお願いします……」


「ふふ……そうもいきませんよ。ミュエールと二人でエルシア様の素行を見させてもらいます」


「あぁ……怖いなぁ……」


「……絶対、生きて帰って下さいね……エルシア様」


「それはリノリスもですよ……。一緒に帰るんでしょ?」


「そうですね……」


「リノリス、あの――」


 何となく悲しそうに見える笑顔を私に向けたリノリスに、何が悲しいのか聞こうとした所、私の声を遮る様に通信が入って来ました。


「待たせたな二人共、これより「オペレーション・デイブレイク」を開始する!」


 デイブレイクって……まぁ良いです。とりあえずリノリスに聞きたい事は、作戦が終わってからでも良いでしょう。……きっとこれからも一緒に居続ける訳ですしね。


 こうして私たちは、北ブロックを破壊して神をシバく為の作戦、オペレーション・デイブレイクに身を投じていくのでした……。


 これが、悲しい別れの戦いになるとも知らずに……。

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