17節 洞窟と、待ち伏せと、追い込まれる私たち
はい、私です。
あと少しで南の最果てに到着する私たちは、周囲を警戒しながら洞窟の中を歩いていました。
この洞窟を抜けた先は平原が広がっています。かくれんぼでもしようもんなら、絶対に見つけられない程に広い場所になります。そうなれば、この洞窟で私たちを倒しにフェンズが現れる事は想像に難くないです。
「さて……何処から出てきますかね」
「こんな狭い場所で襲われたら、対処は難しいですね。エルシア、狙いは貴女でしょうし、十分に気を付けて下さい」
「二人がそんなに警戒する相手って……そのフェンズって奴は強いの?」
「えぇ、私たちとの相性は最悪です。シャディさんも気を付けて下さいね」
そんな話をしつつ警戒を続けた私たちですが、特に何事も無く出口付近まで出て来てしまいました。
変ですね……。仕掛けるなら洞窟の中が1番楽でしょうに、フェンズは疎か泥人形の強襲もありませんでした。……彼は一体どこで仕掛けて来るんでしょう?。
「ぬわ~ん!!明るいの嫌だよ~!!」
「みっともないですよ、シャディ。エルシアの旅に着いて来てるのですから、明るさ位の覚悟は決めておいて下さい」
ふふっ。完全に警戒が解けたのか、緊張感の無い二人の会話が聞こえてきます。かくいう私も心の中で笑う余裕が出て来る程には、軽快が緩みかけてるみたいですね。明かりは偉大です……緊張の糸を解いてくれるんですから。
「よし!!今こそ私は明かりになれるぞぉ!!」
ガッツポーズを取ったシャディさんが、洞窟の出口に走って行きました。
「そんな勢い良く外に出たら眩しいですよ!!少し落ち着いて下さい!!」
そんなシャディさんの後を、エレナさんが走って追いかけました。
確かに勢い良く外に出ると、日の光は普段の数倍眩しく感じますよね。目が慣れるまで少し時間が掛かっちゃいます。
そう言えば昔読んだ本に出てきた海賊が、眼帯を付けてる理由を話してたのを思い出しました。なんでも外と船の中だと、明るさの関係で視界が悪くなるそうです。なので普段は眼帯で片目を隠し、室内戦になった際に暗闇をしっかり認識できる眼帯下の目を使うんだと……。なかなか頭が良いですね。
……そう言えば今の状況、この海賊の話と真反対の事が起きてませんか?。今の私たちは暗闇に目が慣れ過ぎて、明るさに弱くなってます。……まさかフェンズの奇襲場所って、洞窟出口なんじゃ!!。
「エレナさん!!シャディさん!!直ぐに戻って来てください!!。フェンズの待ち伏せ場所は――」
――バスン。
私が話し終わるより前に洞窟の外に出てしまっていたシャディさんは、日の光に目を覆っていました。その瞬間に彼女の下半身は吹き飛んで、その場に転げ落ちてしまったのでした。
「ゴフッ……!」
血を吐きながら転がるシャディさんの髪を、血飛沫で全身を赤く染めた男性が持ち上げました。
「フンッ、吸血鬼か。生憎人外は僕の趣味じゃ無いからね……要らないや」
そう言うと、彼はシャディさんを濁った黄色い水が溜まる場所に投げ飛ばしました。
「シャディ!」
「おっと、あの吸血鬼を回収されては困る」
シャディさんを助けようと男性の横を通り過ぎようとするエレナさんを、彼は足止めしました。
そしてこの声、腹立たしい程の余裕……そして状況的にも、コイツがフェンズです。見た目は蜘蛛じゃないけど、間違いないです。
「フェンズ!!そこを退いてください!!」
私は魔道昆で彼を殴ります。しかし頭には命中してるのに、手応えはあるのに、何故か傷1つ付ける事が出来ませんでした。
「無駄だよ、僕の可愛いお人形さん。この体は偽物だから」
そう言うと、フェンズは私に手を伸ばしてきました。
私はショーテルで彼の手を正面から斬り裂きました。しかし彼は止まる事無く私に手を近付けてくると、首を掴んできたのです。
「ぐぅ!!」
「うんうん、苦しみに悶える顔も綺麗だ。君はやっぱり生きたまま人形にしたい。……そうだ、折角僕の人形になるんだからと思って、君には着る物のプレゼントを作っておいたんだよ。是非着てみてくれ」
そう言うと彼の脇腹から更に2本の腕が生えてきました。片腕には不気味な洋服、そしてもう片方の腕は私の腰に纏わりついて来たのです。
「エルシア!!」
「構わないでっ!!エレナさんはシャディさんを!!」
私がそう叫ぶと、エレナさんは一瞬迷っていましたが、シャディさんを助けに向かって行きました。
「行かせないって言っただろ!!」
フェンズはエレナさんに腕を伸ばして捕まえようとしているみたいでした……させない!!。
――バヂヂヂヂ。
私は全力で電撃を流すと、彼の注意を私の方に戻させて、エレナさんから遠ざけようとしました。
「分かった分かった。僕の人形のお願いだもんな、あの魔女を捕まえるのは止めるよ。それよりも、早く君には着替えて欲しいんだ」
そう言うと、フェンズは私の腰に巻き付けた腕でナイフを抜き取り、下着ごとブラウスとスカートを切り裂いてきました。
「――っ!!」
「あぁ……服を着せるのも良いけど、生まれたままの姿で飾っておくのも良いなぁ。こんなに僕を悩ませるなんて、罪な存在だよ君は」
興奮してるのか、私の首を絞める手に力が入り、体が動かなくなってきました……視界もボヤけてます。そして首を絞められてるからでしょうか、顔が凄く熱いです。
「うーん……よし、やっぱり服は着させよう!!」
フェンズがその決断をした頃には、既に私の意識は遠くなってきていました。しかし、胸や股に走った痛みで、私の意識は一気に現実に呼び戻されてしまいました。
「ああぁぁぁぁああぁぁっ!?」
「気に入って貰えたかな?これが僕がプレゼントする下着だ。これは至る所に生えた針が動いていてね、定期的に刺す場所を変える代物なんだ」
フェンズが私に付けた下着が、徐々に赤く血で染まっていきます。
「さてさて、次は本命の洋服の方だ。それっ!!」
――グチャ。
ドレスの様な物を着せられた私は、フェンズの手で全身を圧迫されました。
そしてその瞬間、体中に痛みが走り、生々しい音を立てて何かが潰れました。
「ぎゃああぁぁああああ!!」
まるで自分が発したとは思えない程の悲鳴が洞窟内に反響しました。
足を伝って、大量の血がバシャバシャと流れ落ちていきます。体が無意識に痙攣して動かなくなります。
「がっ……ああぁぁぁぁ!!」
口から血を撒き散らしながら痛みに喘いだ私は、とうとう体に力が入らなくなり、意識が無くなってきていました。
「さて、後はこの人形を持って帰って可愛がってやるとするか。あの魔女も欲しかったけど、とりあえずはこの子だけで良しとしよう」
「連れて行かせない!!」
上半身だけで跳ねて来たシャディさんがフェンズの腕に噛みつきました。
不意の攻撃に私を手放したフェンズは、再び拾い上げようとしてきました。
――ドォォン。
エレナさんの魔法が炸裂、フェンズを吹き飛ばします。
「エレナ!!コイツは私が止めるから、エルシアを連れてノヴァの所まで撤退して!!」
「無理です!!ノヴァは入り口付近ですよ!?そこまでシャディが持つ訳ない!!」
「だったらどうすんのさ!!」
「此処で私達がフェンズを倒します!!。それしかない!!」
「……相変わらず無茶苦茶だね、エレナは」
「それについて来れるシャディも大概です……行きますよ、相棒」
「おうよ!!」
倒れる私の横で、エレナさんとシャディさんが戦い始めました。
ですがどう見てもフェンズは本気じゃ無い。そう思った時、不意に誰かが私の前に立ちました。
「ちょっと寝てろ。まずはアイツをシバく」
「……」
その声に安心した私は、緊張の糸を切って、意識を闇の中に落として行くのでした……。
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