1節 故郷と、物騒な依頼と、私流の夜の営み

 うぇーい、私です。


 私は今、依頼の一環として実家のある村に帰って来ていました。


 あんまり家には寄りたくなかったんですが、後から何か言われても面倒なんで挨拶程度に顔を出しておきますか……。


「ただいまー」


 私が小さく言うと、ぞろぞろとメイドや執事が集まって来て、自室までの道にズラッと並んで頭を下げていました。


「「お帰りなさいませ、エルシア様」」


「うん、ただいま……ゼノス、お母様は?」


「お帰りなさいませ、エルシア様。フィーランジェ様は先日まで御寛ぎでしたが、王都の騎士から伝令を受けると出て行かれてしまいました」


「そう……」


 私がゼノスと呼んだ少年は、リックさんと同じ15歳の少年なんですが、私の家で私専属の執事をしてくれている子です。二人きりの時は友人として接してほしいと頼んでいるんで無礼講なんですが、皆の前だとこうするしかないんで少し複雑な気分です。本当はボーイフレンドとして一緒に出掛けたりしたかったんですが、身分の都合上出来ないんですよね……。


「さ、エルシア様。随分と長い旅でしたし、自室で御寛ぎ下さい。私はお風呂の準備をしてまいります」


「うん、お願いね」


 私はゼノスに笑いかけると、自室に入っていきました。……本当は顔を出すだけのつもりだったんですが、彼の顔を見てたら……少しお話がしたくなっちゃったんです。


 ……え?お前貴族なのかって?お母さま……師匠が苗字持ちじゃないですか。苗字があるのは貴族か時代に乗り遅れた一族しか持ってないんですよ……前にも説明した気がしますが。


 因みに私のフルネームはエルシア・ナスハです。


 まぁそんなこんなで部屋でのんびりして王都で請け負った仕事……お母様と国王からの直々の依頼の最終確認をしていると、ドアをノックする音が聞こえました。


「どうぞ」


 依頼の紙を隠して私がそう言うと、ゼノスが入って来ました。


「ゼノス、本当に久しぶりだね……」


「そんなに時間は経って無い筈だけどな……。そう言えば聞いたぞ!王都に現れた悪党を倒したんだってな!」


「うん……そうだね。確かにトドメを刺したのは私……」


「どうした?エルシアは凄い事をしたのに何で悲しそうな顔するんだ?」


「凄い事……か。でも偉い事じゃ無いよね、人を殺してるんだし沢山巻き込んだ……」


「……」


 私の言葉に黙り込むゼノスでしたが、私は構わず質問を投げつけました。


「もし……もしさ、人を殺して褒められたとしても、それって殺された家族や友人以外からしたら良い事なのかもしれないけど……残された遺族や友人は納得できるのかな?」


「どうして……そんな事を聞くんだ?」


「……」


 今度は私が答えませんでした。そして何かを察したゼノスは、ゆっくりと口を動かし始めたのです。


「納得せざる負えないだろ……。そいつには殺される理由があって、それが世の為になるって分かる日が来るんだろうし。復讐に走ったとしても殺しのプロに一般人が勝てる訳無い……。結局命が大事な奴は納得する以外の選択肢は無いと思うぞ」


「そう、だね……」


「……エルシアは王都で殺しを仕事にしてるのか?」


「違うよ……。でもお母さまのしてる事を当たり前と思って生きて来た私だから、汚れ仕事をする事に躊躇いも端も無いよ」


「ふーん……まぁ頑張れよ」


「うん……」


 そこで私たちの話は途切れてしまいました。


 それから暫くして、お風呂に入った私は寝間着に着替えて、夕食を取ると寝る支度を始めるのでした。仕方ないんで今日は家で寝ます。


「ねぇ……ゼノス」


 就寝体制に入っていたゼノスを呼び止めた私は、二人きりになれる場所に彼を連れて行って話をしました。


「今日さ……一緒に寝よ?」


「い、いや……遠慮しとくよ」


「どうして?昔は一緒に寝てたじゃん」


「昔はな!でも今のエルシアはその……見た目も中身も大人になってきてて……理性をセーブ出来るか怪しい」


「ふふっ、別にゼノスなら良いよ?私もその気で行くから……」


「いやでもバレたらフィーランジェ様に殺されるって!」


「うーん……それじゃ私がゼノスの部屋に行くよ。……窓は開けといてね?」


「俺の部屋……3階だけど?」


「それ位は何とかするよ」


 こうして無理矢理寝る約束を取り付けた私は、彼が部屋に戻るのを確認すると一旦部屋に戻って依頼を遂行する為に動き始めたのでした。



 そして深夜、家から抜け出した私は、人目の付かない場所で取引をする人物を監視していました。


 取引されている物……それは麻薬です。私は麻薬の密売人と買い手を抹殺する仕事を引き受けていたのでした。


 そして取引が終わって買い手が村を離れた頃、私はナイフで買い手の首を背後から手を回して斬り裂きました。


「最初に、麻薬を買った貴方を殺します……文句は言わないでくださいね」


 首から噴き出る鮮血が宙に舞い、黄色い月を赤い霧が覆い、何とも不気味な景色が私の視界に映りました。


 そして血が噴き出無くなった頃、死体を近くの川に流して手を洗い、返り血の付いた服も一緒に川へ捨てると、予め持って来ていた別の寝間着に着替えてゼノスの部屋を目指して帰っていくのでした……。



 ゼノスの部屋に着いた私は、魔法陣に乗りながら3階を目指すと、窓を開けて彼の部屋に入り込みました。


 既に寝息を立てていた彼を揺さぶって起こした私は、寝間着を脱いで下着になりました。彼も寝るときは下着姿なので丁度良いですね。


「ごめんね、来るのが遅くなっちゃった」


「いいや……本当に来たんだね」


「うん。ねぇ……掛け布団位は掛けても良い?やっぱり少し恥ずかしいや……」


「分かった、少し待ってて」


 そう言って掛け布団を取り出した彼は、ベットに掛けると、直ぐに潜り込んで行きました。私も後から続いてベットに潜り込みます。


 そしてベットに入って彼に抱き着いた私は、胸を押し付ける様にして背中に手を当てました。


 そうすると、少し不器用な感じではありましたが、彼が私のブラジャーのホックを外して来たのです。


「あれ?何だか慣れてる?」


「そんな事は無いよ……さっき練習したんだ」


「そう……んっ」


 私の胸を優しく揉んで来るゼノス。……こういう事初めてなんですが、彼は上手い部類なんじゃないかと思いますね……少なくとも真剣です。


 そして、ある程度の準備を終えた私たちは、遂にパンツも脱ぎ捨てました。


 そして彼の上に跨った私は、彼に強く抱き着くと……全力で雷魔法を放ちました。


 急なショックで白目をむいて苦しみの声を出そうとする彼を、私はキスで塞いで止めました。そして両手を彼の胸にあてがって、心臓目掛けて集中的に雷を流しました。


 涙を零しながら痙攣する彼を、私は全身を使って抱きしめました。


「大丈夫……もう苦しくないから……大丈夫っ!」


 私はキスを止めて彼の耳元で囁く様に言うと、彼は全ての活動を停止させました。


 最後に買い手を殺したナイフを彼に握らせて、全ての工程は終了です。


「……ふぅ、麻薬の密売人も殺したし、これで依頼は完了ですね。それにしても、私ってこんな酷い殺し方が出来ちゃうんですね……」


 何故だか涙の止まらない私は、顔や汗をかいた全身をタオルで拭くと、脱いだ物を着なおして部屋に戻っていきました。



 そして次の日の朝、私は王都でやり残した事があると言って家を飛び出して行くのでした。



 その後聞いた話なんですが、死体として発見されたゼノスは他殺と判断されて村の中で犯人探しが行われた際、川で流れてた死体…あの麻薬を買い取った人と出会ってしまって、揉めて殺してしまい、その際に麻薬を大量摂取させられて、オーバードーズで自室で死んだと結論を付けられたそうです。


 私は彼と仲が良かったからと、この事を彼のお母さんが王都までわざわざ教えに来てくれたのでした。


 本当の事を懺悔したくなった私でしたが、それを堪えて彼女が帰っていく後ろ姿を、私はただただ見送るのでした………。

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