8節 尋問慣れと、リノリスの優しさと、英雄になる資格が無い私

 はいどうも……私です。以前に使える様になってしまったアホ毛ビームの火力が上がって、毛先がチリチリになってしまったエルシアです……。鉄板を切断する事が出来るってヤバいと思います。


 さて、私たちは依然として各所のレジスタンスを巡り、その度に人形の襲撃を受けて来たんですが、まぁこれといって面白い事があった訳では無いので割愛します。


 別に私だって何事も起きない日位はありますよ。そういった何も無い日のお話は、私の判断で省かせてもらってるだけです。……まぁ週5で面倒事に出くわしてたりしますが。


 しかし、私たちが現在訪れているレジスタンスの基地では何やら面白い事が起きそうだったんで、お話にさせてもらおうかと……。


 レジスタンスの基地に着いた私たちは、いつもの様に尋問されて、いつもの様に簡単に信じてもらえて、今はレジスタンスリーダーが遠征から帰って来るのを待ってる所です。


 しかしあれですね、流石に5回も尋問されると慣れて緊張感が消えますね。寧ろ私たちから尋問する様に強制してる気がしなくも無い程です……皆ビックリしてたなぁ。文字通り目が点でしたからね、彼女たち。


 そんな訳で私たちは、リーダーが戻ってくるまでの間、拠点内を見て回っていました。


 そして此処にもありました。……旧世界の技術で作られた建物です。


 此処は図書館の様な資料だけでは無く、情報量は少ない物の当時の道具と説明書きが展示されてました。


 今まで訪れた場所には、何かしらの情報端末が設置されてたんですけど、ぶっちゃけアンドロイドには必要無い物じゃ無いですか、記憶メモリには保存されてるでしょうし。


 それで気になった私は、リノリスに何故こんな物を設置してるのか聞いてみたんです。


 何でも少し前までは、いずれ各ブロックを開放して、世界を元の大きさに戻す事を検討していたそうなんですが、新型アンドロイドが完成してからその計画は白紙になったんだと。各場所にある情報端末は、人間が此処まで進出してきた時に提示する為の、その名残らしいです。


 ふむ、計画を白紙に戻したのは間違い無く神ですよね。じゃあ何で白紙に戻したんでしょう?少し探ってみた方が良いかもしれないですね……。


 そんな事を思いながら何となく手に取った展示品が、何やら不思議な形をしていて程々に硬くフニャフニャした謎の物でした。


「うん?このキノコの成り損ないみたいな物は何なんでしょう?妙に握り心地が良いんですが」


 私は何も考えずに説明文を読んでみました。


「えっと……ん?電池を入れると震える大人のオモチャ?…………あ」


 うん、似たような物……私たちの住む世界にもありましたね。……えっちぃやつです。


 私はキノコさんをブン投げる様に元の場所に戻して、別の物を見ようと手当たり次第に手を伸ばしました。


「エルシア様……この様な物に興味があるのですね」


「はい?なんでそんな悲しそうな、残念そうな顔をするんですか?」


「そちらに展示されてる品は、いわゆるアダルトグッツですよ……」


「……」


 私は無言で展示品を元に戻すと、全速力で展示室から出て行くのでした……。



 暫くして慌てふためいた私が落ち着きを取り戻すと、再びリノリスが話しかけてきました……今度は真剣な表情です。最近ずっと悩んでた事があるみたいですが、その話ですかね?。


「エルシア様、以前お話した事を覚えていますでしょうか?」


「どの話です?」


「自身の行動に後悔した事が無いかって話です」


「ついさっき後悔しましたよ……」


「そうじゃ無くて……回りくどいのは無しでお話します。今エルシア様がしようとしてる事ですよ。もしかしたら自身の取った行動の所為で、多くの人を不幸にするかもしれない……そんな事になったら、エルシア様は責任が持てるんですか?」


「……つまり?私が北ブロックを解放させるのは間違いって言いたいんですか?」


「そうではありません。私にも何が正解で何が間違いか分からないんです。ただ大きな事を成すには、それ相応に覚悟が必要だと思うんです……エルシア様にその覚悟はあるのですか?」


「……えぇ、あります。既に私がA・Aを起動させた所為で滅びる事になった街が1つ、半壊する程に大きな被害が出た国が1つ……その事に言い訳をするつもりはありません。

 でもA・Aを起動させないと私は死んでいたんです。それに……勝手過ぎる話かもしれませんが、A・Aの起動で滅びた街や半壊した国があったのは、結果でしかありません。

 なので私は、A・Aを起動させたのは間違いではないと思っています……仕方なかったんです」


「それは……失礼ながら申し上げますが、エルシア様が責任から逃げてるのではないでしょうか?」


「はぁ!?そんな訳無いじゃないですか!責任は感じてるし申し訳なかったとも思っています!でも責任が伴う程の被害が出たのは結果でしかないんです!分かってたら別の手を考えてますよ!」


「そうですね、エルシア様なら被害が出ない方法を考えるでしょう。でも、本当に責任を負う覚悟のある者は……結果なんて言わない物なんです、仕方なかったなんて言葉……絶対に口にしないんです」


「――っ!」


「今まで世界を大きく動かして来た人達はそうでした。

 エルシア様……無礼を承知で申し上げますが、貴女は世界を大きく動かす事は出来ません。

 後悔をした事が無い人に責任は持てないし、覚悟も持てない……そんな貴女は英雄になる資格は無いんです。

 その前に初めて抱えるであろう大きな御自分の後悔に押し潰されてしまう」


 リノリスは私の肩を掴んで諭す様に言ってきました。


 彼女に悪意が無いのは分かってます、本気で私の事を心配して言ってくれてる事は分かってます。でも……私は彼女の優しさを拒んでしまいました。


「やっぱり、貴女はアンドロイドですね。過去の人がどうとか、私には関係無いです。誰かの為じゃ無くて、私自身がそうしたいから動くんです。……昔も今も、それは変わりません」


「違いますエルシア様、御自分の心に嘘はつかないで下さい。

 昔のエルシア様は知りませんが、私と共に行動をしてるエルシア様は誰かの為に動こうとしてました。

 エルシア様達の住む箱庭の世界、そこで生きている人達の為に北ブロックを崩壊させて神様に鉄槌を下そうとしてるのは痛いほど伝わっていました。

 だからこそ私はこの事を言えなかったのです。私はエルシア様が――」


「もういい!うるさいっ!所詮ただの機会に私の心なんて分かりっこないんです!適当な事言わないでっ!」


「――っ!」


 彼女の手を払いのけた私は、野次馬をしていたレジスタンスの一人に、リーダーへ話す内容を伝えると、その場から逃げる様に一人で飛び去って行くのでした……。

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