エクストラストーリー エピソード・ユズ
王都半壊事件から暫く経った頃、ユズは王都の正式な騎士になりました。
しかし任務を与えられる事が無かった彼女は、いつも年上の先輩騎士たちと手合わせをしてもらい、今までよりも格段に強くなっていきました。
そんな時、ユズには射撃適正と近接適正が両方備わってる事を知った上級騎士から、自動装填式のロングクロスボウと、ロングソードを支給してもらい、更には新品の制服と防具も届いて、本格的に騎士っぽくなっていきました。
しかし、軽装備で俊敏に動きたかったユズは、ロングソードを細剣の様に細く改造し、制服もノースリーブに変更、更には防具を着ないといった具合に徹底して自身を軽くしていきました。
本来であれば命が最優先な為、装備の勝手な改造や防具を着用しない事を許す訳が無いんですが、腕の立つ騎士たちには例外で、装備の自由が与えられていました……つまりユズはいきなり腕が立つと認められたって訳です。
さて、そんな腕の立つユズですが、とうとう彼女にも任務が与えられました。
それは遠征任務、王都の国境付近を主に警備する凄腕の騎士たちが請け負う事が可能な名誉ある任務だったのです。彼女はその副騎士長として選ばれました。
遠征は、王様が騎士隊長を決めて、騎士隊長が副騎士長を選び、二人で遠征メンバー18人を選ぶルールーがあります。その為、騎士隊長に任命されて副騎士長になったユズは、騎士隊長と顔合わせをしました。
ユズを選んだ騎士隊長……それはレウィンだったのです。
彼女は始まりの街をライオットから防衛する事に成功した褒美を受け取りに王都に来た時、ライオットの事件に巻き込まれて、外で魔物を倒す隊長役を務めていたんだとか。
それが原因で昇進したレウィンは、2級騎士になっていたらしいです。
そんなこんなで顔合わせを終えて、メンバーも決定した彼女たちは、エルシアに見送られながら遠征に向かって行くのでした……。
〇
遠征任務に就いて2週間が過ぎた頃、彼女たちが遠征の際に使っている拠点に、伝令を持った騎士が駆けつけて来ました。
遠征は数カ所に点在している拠点に寝泊まりをしながら周囲の異変を調査して、何事も無ければ別の拠点に移動していくという効率の悪そうな方法ですが、今回の様な伝令や小さな異変を発見する確率が高い為、この様なやり方をしているらしいです。
伝令を受けたレウィンは、真剣な表情をしながら詳細を書かれた手紙を読んでいました。
大体の事を把握したレウィンは、ユズを含む全ての遠征隊員に北側の増援部隊として派遣される事になったという旨を伝えて、次の日には北側に馬を走らせました。
伝令内容は、北の友好国からの緊急派遣依頼で、付近に出没する竜型の魔物の討伐を手伝ってほしいという内容でした。どうやら現場の兵士たちには手に負えないらしく、以前ワイバーンと対峙した事があるレウィンとユズが居る遠征隊に向かってほしいとの事の様でした。
幾日の野営を繰り返しながら馬を走らせた遠征隊は、やっと現場まで到着しました。
午前中はレウィンを隊長に総勢10人、夜はユズを隊長に総勢10人で24時間の検問を張り、ワイバーンの確認と出現パターンの把握を始めて、この道を通る行商人には迂回する事を促していました。
検問を張って数日、レウィンが小休憩を終えて現場に戻ろうとした時、背後から聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえてきました。
彼女の振り返った先に居たのは、始まりの街で一番活躍したのに称賛される事の無かった少女、エルシアだったのです。因みにユズは爆睡してる時間です。
ユズからエルシアの事を色々と話されていたレウィンは、彼女が北に旅だった事までは知っていたんですが、何の旅かまでは聞いていなかったので、ちょっと聞いてみました。
しかしエルシアから帰ってきた返答は何だか曖昧なもので、腑に落ちないながらも説明できない理由があるんだろうと思ったレウィンは、深く追及する事無くエルシアを別の道に誘導しようとしました……その時です。
本来は夕暮れから夜の明け方に現れていたワイバーンが突然現れたのです。
その場はエルシアに任せて、速攻で準備を終わらせて戦線に戻ったレウィンたちでしたが、ユズは爆睡していたので放置していきました。
何だかんだでワイバーンの討伐と、裏で操っていた存在が居た事を知ったレウィンは、早速王都に戻って報告をしようとしました。しかし長期的な移動や長時間警備による寝不足などで疲労困憊になった遠征隊を見た彼女は、数日程の休憩を挟んでから王都に戻る事を決めました。
そんなある日、ユズは他の隊員たちからエルシアがワイバーンを倒してくれたと言う情報を聞き、彼女の無事を願いながら、夜な夜な外の空気を浴びて星空に祈りを捧げていました。
そんな時です、遠くの方でエルシアが放っていたのとよく似た魔力の様な物が大量に吹き出してるのを見つけたんです。
何か胸騒ぎを感じたユズは、武器を持って馬に乗り現場に急行しました。
数日して現場に着いたユズは、丁度エルシアに似た少女が、甲冑を着た男にトドメを刺されそうになってるのを目撃して、反射的に甲冑に矢を放ちました。
矢が命中した事で状況が不利と判断した甲冑は、馬を呼び、何処かに逃げて行ってしまいました。
その後、甲冑の行き先を見つけたユズは、即興で手紙を書いて、近くを通った行商人に「金色の髪の少女に手紙を渡してほしい」と頼み、一旦レウィンたちの所に戻りました。
急に姿を消したユズを心配してたレウィンたちは、本来であれば既に王都へ出発してる時間の筈なのに、ユズを探して辺りを捜索していました。
ユズの姿を確認して怒るレウィンには目もくれず、直ぐに付いて来てほしいと隊員に言い、再び甲冑が隠れ家にしてた集落を目指して出発しました。
目的地に着くと、そこは大量の魔物で溢れ返っていました。集落内では爆発音が聞こえて煙が上がってます……。ユズはエルシアが甲冑と戦ってるんだと思い、邪魔をさせない様に魔物の討伐を開始しました。
状況の飲み込めない隊員たちでしたが、タメ息を吐きながらユズと共に戦い始めたレウィンを見て、総員で魔物の殲滅にあたりました……。
魔物の討伐を終えた遠征隊は、怪我人を治療する為に近場の街に足を運んでいました。
大体の治療が終わり、次の日には今度こそ王都に帰るってタイミングで、夜空を見上げていたユズが再び独断行動をし始めたのです。
ずっとユズを監視していたレウィンは、とりあえずユズの後を付いて行きました。
そしてユズが馬を降りた場所は……あの集落前だったのです。焚火が点きっぱなしになっている事から、誰かが居る、或いは誰かが居たと推測を立てましたが……この焚火は、エルシアが自身の手紙をユズに発見してもらう為にワザと残していった物だと後になって知るのでした。
こうして大混乱を起こす事になった遠征隊は、何とか王都に向かって出発する事が出来、勝手な行動を起こしたユズへの罰は、レウィンの身の回りの世話をすれば不問にするという事で決定したのでした。
……実はユズに適当な罰を言い渡すと、後でエルシアに襲われそうだから軽い罰にしたというのは、ここだけの話だったり。
それと、ユズの信頼度が皆から高かったのと、彼女がエルシアをフォローしていたと知った隊員たちによる許しを請う声が多かったのも理由なんでしょうね。
何はともあれ、こうしてユズの初任務は幕を閉じるのでした……。
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