第14話 幼馴染と二人きりで
部活が終わり教室で
「茶道部には入部させてもらいましたが、先輩たちまで結局混じってしまって。私、ずっとお友達ですと応えましたの。お友達がゲシュタルト崩壊してしまいそうですわ。今日はお昼も含めて大変な一日でしたの」
「いや、本当にごめんね。
「それに驚きです。
「待った。知っていても、
びっくりしたように
家のことを加味する前に、
「俺と
「やはり、尚順さんは変わっておられます」
「そうかな?」
「私は
「そうだよ、君は俺の友達の
「……もう」
そうしてお互いに口を閉ざし徐々に暗くなっていく空を視界に収めながら、そのままゆっくりと
高校デビューと言った俺は、少しでも自分を変えて行けるように頑張りたい。
駅が近づいて、俺は立ち止まり
「それではまた、尚順さん」
「ああ、またね
家に帰り扉を開ければ、昨日と同じく料理途中の良い匂いがしていた。キッチンに立っていたのかパタパタと玄関まで小走りで
「尚順、おかえり、なさい。」
「ああ、ただいま。今日も母さんと一緒にご飯作ってくれてたのか?」
「うん、料理、好き。自分の家だと、もうできない」
「お嬢様だからな」
「むっ。……
「席が近いから友達になったんだ、昨日もそんなこと言った気がする」
「それだけ?」
「そうだよ」
彼女は先程の笑みが消えて、感情の読み取れない真面目な表情で淡々と尋ねたので、俺自身も彼女に素直に答えた。彼女はそうなんだ、ともう一度頷いから、
「明日、
「誰が?」
「おじいちゃん」
「御老公さんか」
「そう」
「……俺には関係ないよ」
「関係、ある。おじいちゃんから、聞かれた」
「何を?」
「……違った」
「そっか」
「うん、そう。それで」
「
「おばさま、私、作る。尚順、すぐご飯できる。着替えてきて?」
「ああ、そうするよ。毎日作ってくれてありがとうな」
関係ないのだ。部屋に戻れば、いつもと同じように彼女の鞄が邪魔にならない場所へ置かれていた。先程彼女が言った通り、もう彼女の家には女性の家事手伝いが雇われており、小学校や中学の時とは違って自分の家へ帰っても彼女の両親は心配しないだろう。それでも彼女は今日も俺の家にまっすぐ帰り、料理を作りに来ていた。
着替えてダイニングに行けば今日は魚の煮付けが並んでいた。金曜日は父親が会社の集まりがあるせいで夕食にはいない。四人で食卓を囲む。女三人に男一人だと、俺から提供できる会話もない。金曜日はいつも女性三人が盛り上がる形が多い。
今日も三人はかしましく盛り上がっていた。明日のパーティに来ていくドレスなどをスマホで表示した
夕食が終わって部屋に戻りしばらくすると鞄を取りに来た
「尚順、高校、楽しい?」
「まだ分かんないけど、楽しいんじゃないか」
「今日、
「宗家さんは耳が早いな」
「……そう、早い。お爺ちゃん、
「下世話な爺さんだ」
「お爺ちゃん、話題の人、好き」
「それが下世話だって」
「なんで、そんなに、怒る?」
「怒ってないよ」
「そう?」
「そう」
俺が動いたのに合わせて、その後重みでギシリとベッドが揺れた。
「土日、写真部、ある?」
「……バイト探してくるよ」
「どうして、バイト? お金、困ってる?」
「春休みに撮影旅行行ったのが、少しは楽しかったから、行ける資金を自分で稼ぎたくて」
「そう」
「そうだ」
「楽しかった?」
「……ああ、楽しかったよ」
「ふふっ。どんな、バイトする?」
「ははは、とりあえずお嬢様がやらなさそうなバイトかな」
「むぅ、ひどい」
「とは言っても、土日にしかできないだろうからな。そう考えると選択肢は全然なさそうだな」
「平日、できない?」
「写真部が有るからな」
「写真部、調べた。そんなに活動日、ない」
「活動日がなくても、部室に入り浸るのは問題ないからな」
「でも、」
「それに夕ご飯に帰ってこないと母さんが怒るからな」
「……ふーん」
彼女はカーテンが空いた窓の向こうを見る。そこは中学時代とは見た目が変わった、自身の家が建っている。それを無感情な瞳で見る彼女が何を思っているか、俺には分からなかった。暗く沈み込んだ広々とした庭は、思い出にはなかった物だ。
「お爺ちゃん、怒ってた」
「何に?」
「年末年始も、春も、私、
「それ以外の土日のパーティーには顔を出してだろう」
「あれ、外向けパーティー。叔父さんたちの家族も、いない。でも、私、おじいちゃんが出なさいって言った、家のは出なかった。ゴールデンウィークにも、また有る。出なさいって、言われてる」
「そっか」
「うん、そう」
「俺はゴールデンウィークに撮影旅行したいと思ってるから」
「そう」
「そうだ」
それから話もせずただただ彼女と一緒の部屋にいるという時間を過ごして、俺が時計を見ればいつもよりも少々時間が過ぎていた。彼女もそれに気づいたのか、長居しすぎたと理解して慌てて鞄を持って立ち上がる。
「家、帰る」
「
「尚順、ありがとう」
家に帰ってから、明日の予定を確認して、俺は
今日は濃い一日だった。そう思いながら、夕方に別れた
「もしもし、
「もしもし、夕方に別れたばかりですの。どうかされまして」
「何気なく友達と話したくなっただけだよ」
「そう、そうですのね! やはりっ」
「どうかした?」
「ちゅ、中学生の頃はそんな気楽な事言ってくれる人が、女子にもいなかったのですわ、ですから少々喜ばしくて」
「ははは、
「……うぅ、仲良くなったと思った子さえ、恐れ多いと言われてしまいましたの」
「
「そ、そういう経験がなくて、は、恥ずかしかったので出来なかったのですわ。出てもらえなかったらと考えると、耐えられないですの」
「はははは」
「笑わないでくださいまし」
「いや、わかるよ。俺も学校が終わってから改めて連絡するなんて最初は何度も躓いたから」
「そう、そうですよね! 良かったですわ」
それから
「明日の夜は
「ひょわ!?」
「中学時代に気楽に電話しようとして緊張して出来なかったんでしょ? なら、練習も兼ねてしてみようよ」
「そそそ、それとこれとは。それに何を話せばいいのか」
「友達と気楽に連絡する第一歩の気楽な練習だよ。話す内容は今みたいな取り留めの無い話でいいじゃないか」
「いざ、自分から連絡してという形になると、何を話せばいいのか」
「そうだなー。じゃあ、土曜日に何をしたか話そう」
「え!?」
「なにか嫌だった?」
「いえ。……いえ! 大丈夫ですわ!」
「なら、それで決まりだね。それじゃあ、
「尚順さん、おやすみなさい。また明日ですの」
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