第69話 朝の時間、大切ですの
「おはようございます、尚順さん!」
「ああ、おはよう
「な、なんでもありませんの」
俺がそんな
「あの、委員長、あ、いや、折川、ちょっと良いか?」
「うん、俺で良かった」
「尚順さん! どうして」
どうしても何もクラスメイトに話そうと言われたのだから、普通だと思う。俺は
「クラスメイトが話そうって言うんだから、ちょっと話してくるだけだよ」
「でも、朝の時間、大切ですのに」
「うん、大切だよね。だから、田中君にも対応しないと」
付け足すなら、放課後に時間を取られるより朝に時間を取られても構わないのだが、あまり
「ごめんね」
「仕方ないですの、尚順さんはお優しいですもの」
「ありがとう。できるところでは、なるべくそう出来たら良いかな」
田中君に向き直って、教室では場が悪そうな表情をしている。どこか良いところがあるか聞いたら、図書室は朝は空いてないということで、図書室のある廊下まで向かった。渡り廊下で別の棟の校舎に移動して、誰も居ない図書室前の閑散とした廊下に田中と気軽な雑談をするように立つ。
廊下側の窓から見える広々とした中庭にも誰もおらず、朝の光を浴びて清々しそうだ。
「委員長に言われて色々、考えてみて」
「うん」
「俺は、その確かに、女子に対してなんというかすごく男女の関係ってのを優先してたと思う。勉強自体はそこそこできるから、この高校に入ったわけ、だし。別に顔も、その親からまあ普通と言われる程度だから、高校に入ったら中学とは違って彼女が出来て、さらに言えば、こう
「はぁ、モテるんじゃないかと」
羞恥のように顔を赤くした田中が顔をそむける。まあ、そんな風に考えるのも男なら誰だって考える。特定の好意を抱いた女性という対象がいなければ、特に男子なんてそんなものだろう。ある意味で
「……俺は、未だにわからないんだ。でも、俺は……きっと、
それはきっと誰だって
遠目で制服姿でもわかるスタイルの良さは、とてもバランスが取れて美しい身体をしている。
俺だって朝に登校して教室に入った瞬間に出くわす彼女、本に向き合う清楚な
「
「いや、分かってる。その、教室で委員長が他の男子にも同じような態度だって言うのは分かってる。まあ、こういうので堂々めぐりで、結局さっきの未だに分からないになるんだけど」
「……そうだな、まず俺としては田中君は棚田君よりもすでにいる友人を優先して付き合うべき、だと思う」
「なんで?」
「申し訳ないけど、棚田君は、わざわざ
……彼は別のクラスの委員長だ。俺と
自分も生徒を説得していますと。……だから、田中君もはっきり言えば棚田君の
俺の発言にびっくりしたような顔をして田中が俺を見る。
「いや、でも、友人として」
「うん、でもきっと、棚田君とは別段プライベートで遊んでないんじゃないか?」
「いや、まあ、そう、かな。確かに。棚田はよく忙しいと言っていて。だけど、その、
「まあ、学校とパーティーだけで顔合わせる程度なのはプライベートな付き合いではないでしょ。そういう付き合いなら、別に学校の友人というくくりでなくても大丈夫じゃないかな?」
「たしか、に」
「俺個人としては、棚田君の行動は、ちょっと学校生活でも
「悪影響!?」
「まあ、少し、ね。だから、俺としては田中君は、他クラスにいる
「……そう、なのかな」
「うん、俺はそう思う」
力強く肯定すれば、田中はそうなんだろうかとまた考えだしたので、その後押しをしようと俺は言葉を続けた。
「茶会にしても、棚田と一緒に行くより、他クラスの友人と一緒に参加したほうが気楽なんじゃないかな?」
「いや、でも、
「待った! 昨日も
そんな立場での学生の参加は望んでないよ。
田中君が
俺がそこまで言うと、田中もようやく黙って悩みだす。
これで良いだろう。棚田には悪いが、クラス内の空気を悪くする行動は謹んでもらいたいのだ。棚田が
わざわざ田中を連れ立って教室に来るということは、
クラスメイトとしてほどよい関係性を維持しながら、クラスの空気を良くできるように頑張りたい。
俺はなるべくにこやかな笑顔で、田中への説得を切り上げる。
これで改めて学校での友人関係を検討してくれるだろう。田中は孤立自体はしていないのだ。問題ない。
「高校生として友人とイベント楽しもうよ」
「うん、まあ、たしかにそうだな」
「それじゃあお先に」
「ああ」
俺は生返事を返した田中を置いて、教室に足早に戻る。教室に戻れば、ガタンと大きな音を立てて、せんりが席から立ち上がり俺へ勢いよく近づいてくる。
ちょっとだけびっくりした。顔が赤い。体調でも悪いのではないだろうか。
「お、おはよう、折川君」
「せんり、おはよう。顔赤いけど、風邪? 体調大丈夫かな? 朝のメッセージは元気そうだったのに」
「大丈夫、大丈夫です! ありがとう」
そのまま、せんりが席に戻った。本当によくわからないが、大丈夫ならそれで良いかと
「おはよ」
「ひさ君、おはよ!」
嬉しそうに唯彩さんが笑った。朝のランニングでも会っているが、こういう積み重ねが円滑な距離感の維持に大事だ。
しかし、席に戻った先にいる
俺は人に見えないように、彼女の手を握る。
「
本当に彼女は名前を呼ばれるのが好きだ。不思議だ。こうして名前を呼ぶだけで、足をもじもじさせて太ももをすり合わせている。
「い、いいえ、なんでもありませんの」
「なら良かった。
「そ、そうですの?」
「うん、
彼女の、いやらしさの無い純粋な笑顔はとても綺麗だ。身体を重ねて、彼女が淫らに俺に関わるほどに隠れてしまう。見る機会が少ないほど、俺は彼女が時折見せる屈託のない笑顔を綺麗だと感じてしまう。そんな素直な気持ちが言葉に出てしまった。
ゆっくりと手を離す。そこでちょうど朝のショートホームルームの時間を告げるチャイムが鳴った。
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