第50話1 今日は深緑
朝の教室に入ると、土日のことなんてなかったことのように、清楚な見目をしながら凛とスマホを見ている
清楚な見目だが、朝一に下着報告のメッセージ自体は送ってきている。今日は深緑だ。
俺はこうやって遠巻きに見える
離れていけば、泣いてしまう。
「おはよう
「おはようございますの」
落ち着いた挨拶が返ってきて彼女の隣に座る。
スッと
「可愛い食器たちだね」
「そうですの! とっても可愛くて、私、手元にないタイプのデザインのものを見るとワクワクするんですの」
「まあ、普通はこれぐらいの物を日常使い出来ないと思うよ」
「そうでしょうか? 一品物ではありませんので、存外手に入りやすい値段だと思っていたのですけれど?」
「あははは、住道のお嬢様基準だとそうなっちゃうけど、一般家庭は厳しいよー。たまに出る鳳蝶のお嬢様ジョークだね」
「ジョークだなんて、もう。恥ずかしいですの」
「でも、アフタヌーンティーか~。確かに男だと行きにくから、こういうのは女子と行きたいよね。それを考えれば鳳蝶はぴったりの相手だね」
行くとしたら大阪か、京都に出る必要があるだろか。
「あの、行ってみたいのですが、よろしければ一緒に行きませんか? 夏がテーマで、夏のフルーツが中心のものなのですけれど、一度お友達と行ってみたかったですの」
「そうなんだ? 面白そうだけど、これはどこでやってるの?」
「こちらは東京ですの」
俺はスマホから視線を上げると、ニコニコと笑顔を浮かべる
「ああ、そうなんだ。東京は日帰りにしても、それだけのために行くところでもない距離だし」
「私でしたら、大丈夫ですわ。お友達とぜひ仲良くしたいと思って」
自信満々に言う
こんな風に自分を優先してくれるのではないかと期待をして、かなってほしいと懇願する表情を安易に見せる住道鳳蝶は、他人からどのように見られているのだろう。
俺たちの関係において、自分のために恋人のように俺が振る舞ってくれることが当然ありうると考えられてしまうのだ。
「うーん、ごめん。やっぱり丸一日となるとバイトもあるし厳しいね」
「そうですの……」
私のためにお休みいただけませんか? と声に出さずに告げるように彼女が上目遣いで俺を見つめる。
日頃顔を合わせる友達と旅行のために、すでにシフトを入れたバイトに急遽休みを取るのは過剰だろう。平日という選択肢も少々選びかねた。高校に入ってまだ二ヶ月ほどだ。
……ゴールデンウィーク中盤にある平日に休んだのは記憶に新しい。
友人との旅行のために、平日に休みを取るというのもあまり良くない。それならば事前の長期休み期間で調整した方が良い。
「夏休みとかに旅行を考えるのも良いかもね」
「ええ! そうですわね」
「でも、
「いいえ、そんな事は無いんですの。私、長期であれば海外に行くことはありましたけれど、日本に残っている場合はほぼ
「あははは、住道のお嬢様がパーティーに参加するなんて大事な事じゃないかな? 入念な準備が必要でしょ」
「っ。あなたと過ごすこと以上に大変で重要なことなんてありませんの」
「そう、ありがとう」
俺は
俺の笑みに対して、
二人きりの時のようなはっきりした表情を見せなかった。拗ねているだろうか? 不安がっているのだろうか。
通知があったのか、
「申し訳ありません。少々席を外しますね」
「了解。大丈夫だよ」
大急ぎですぐに
俺は
「おはよう、井場さん。今大丈夫?」
「おはよう委員長。何か?」
挨拶は返してくれたが、冷たい声が俺に返された。茶道部に入っているクラスメイトの井場さんは、警戒するような態度を見せた。長い髪が綺麗に整えられて切れ長の目が俺を見返す。目以外の顔立ち自体は可愛らしいのに、涼し気な目線のやり方は
「茶会のスケジュールと内容について話が聞けたら助かるんだけど」
「どうして私なんでしょう?
「写真部の活動で参加する予定なんだけど、
「ああ、そういう。委員長って結構はっきり言うんですね。驚きました。
でも、私だって一年だから先輩からの説明を聞いてるだけで実際に知りませんけど構いませんか?」
井場さんが申し訳無さそうな態度を取る。俺としては少しでも話ができるだけで大助かりだ。
「大丈夫。写真部、というか俺は部長の雑談で少し聞いたぐらいしか知らないから聞けるだけ助かる。今日、茶道部自体はないはずだけど放課後良いかな? 連絡するから」
「なるほど。私は大丈夫ですよ。他の茶道部の人も呼びましょうか?」
「うん、一年で他に一人か二人ぐらい呼べるなら居てくれると助かるかな。写真部は俺と、一年生で女子の
私は適当じゃないと思いますけれど、わかりました。と苦笑いを浮かべた井場さんが承諾してくれたので礼を言ってすぐに席に戻る。先ほど交換したアカウントのトークによろしくと送ると、気楽にスタンプが返ってきてホッとする。
結局、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます