87話 春日野「彼氏に喜んでもらいたい」
「撮影旅行先の変更?」
終業式前の部活日、私は写真部の部室に顔を出したらいきなりそんな話題になった。旅行先は山の予定だったのに、コテージなどが併設されているホテルのある海に急遽変わった。
「どうしたんですか?」
「そのね、
内心で嫉妬に燃えながらも愛想笑いを向ける。
いつ頃だろうか、部長は自分が
けれど、嫉妬に燃える毎に恋人の目を盗んで、
「私としてはほぼ部費から出るし、結局泊まる場所も詳しく決まってなかったので、構いませんよ」
「
屈託のない笑みを浮かべる部長にゾクゾクする。しかし、今度はもじもじと言いにくそうな顔をしていた。どうしたんだろう。
「どうかしたんですか?」
「その、ね。海だから、水着が居るけど、大丈夫? 山に行く前提だったから、水着が無いなら出費になってしまうんだけれど」
「ああ、なるほど。買ってきますよ。今教えてもらって良かったです」
「本当に良かった。よろしくね、
「せんりにも言わないとダメですね。俺から伝えておきます」
だが、目の前にいる
「そうだね! よろしく」
自分から伝えるって言わないんだなと思った。
「それじゃあ、今日は夏休み前最後の校内撮影と行こうかー! 実は運動部でちょうど三年生が引退の部活から、最後の記念撮影を頼まれてるんだ」
「えぇ! そんな大事なことならもっと早く言ってくださいよ!」
私がそんな不満を口にすると、ごめんごめんと部長は気楽に言う。今日もちゃんとカメラを持ってきてよかったと私はホッとして、部長の先導に従って進む。
夏の廊下は蒸し暑く、私はじわじわと汗が流れてくる。炎天下の下で今日も運動部が活動しているのがあまりにも眩しい。
部長たちに話しかける。
「運動部が眩しいです」
「そうだねぇ。でも、写真部だってやる時はやるんだよ? 炎天下の中、撮影を」
「かなり体力勝負ですよね。しかも、日差しが強いから自由な光源でもないし」
「でも、光が強い分、モデルが映えるんじゃないかな。
「ただただ制服で汗だくの姿を写真に撮られると恥ずかしいので、ちょっと困ります」
「うーん、たしかに。それだと私もいやかなぁ」
私と部長の意見が一致したところに、寂しげに笑う
「夏休み前の大事な写真部の活動ですし、
私と部長が顔を見合わせる。私は迷ったが、恋人という立場の部長に躊躇は無かった。
「
わかり合っているという態度が羨ましくて妬ましさがあった。私も遅れて
「私も大丈夫だよ! でも、汗だくでへろへろなのは撮らない、で!」
「いや、それも活動頑張った姿だから、写真に残すのが大事じゃないかと思うんだけど」
「
「すみません。でも、二人共綺麗だから、どんな姿でも写真に撮りたいんですよ」
こんなセリフを恥ずかしげもなく言える
だけど、私と違うのは、冗談はやめたまえと、
私はまだその立場になれずに居る。
運動部の部員たちに声をかける。待ってたぞという反応を見せて、グラウンドの一角にあつまった。私達が声を掛けるとデレデレと集まるのだが、
「それじゃあ、撮りまーす!」
ようやく写真に収まる範囲に部員たちが並んだ。
近くに居たが、仲が良かったという記憶はない。
真剣な表情の
終業式が終わり、私は一人買い物へ向かう。水着を買っておこうと思ったからだ。今手持ちにあるのは、中学時代に授業があったスクール水着しかない。
……中学三年生で
最近過ごす時間が濃いと思っていたが、よくよく考えると
好きになって、傷ついて、なのに彼にたくさんもらっている。
ぼやっと生きてきた中学二年生までの私が、中学三年生からの自分を見たらきっと笑ってしまうだろう。
店員がすすっと私に近寄ってくる。昔なら逃げ回っていた。
「彼氏に喜んでもらいたいんですけど、おすすめありますか?」
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