88話 華実「普通って何?」
恋人をベッドに押し倒して、抑え込む。
しかし、
こんな風に、事前に予定があると伝えても、最近の華実先輩は恋人の私の言うことを聞くよね? と予定をキャンセルさせてくる。
俺は恋人と付き合う難しさに直面させられた。
誰も居ない
「ど、どうしたの? そんなにしたかった?」
「……話を聞いて貰うためです」
「話って、何?」
「夏休みにはいる前に、もう一度、もう一度ちゃんと話したいんです。恋人に、俺の思い出を大切にしてほしい気持ちを、わかって欲しい」
「いや! 嫌だよ! 嫌だって言ったじゃ――んぅ」
キスをして彼女を黙らせる。バタバタと暴れる彼女の頭を撫でながらキスをしたら、くたりと身体の力が抜けていく。
「
「どうして? 私、傷つけて嬉しい?」
「写真部に入った時、俺の話を聞いてくれて嬉しかったんです。思い出を大切にしてるってことを、部活で先輩と話していく中で分かってもらえて」
俺の写真を見て、それまで
何気なくなのかもしれない。でも、
「私も君に出会えて嬉しいんだよ、好きなんだよ。愛してる! だったら、私、恋人の話で嫌な気持ちになりたくないよ。手、離して。普通にエッチしてよ」
「俺は! ……俺は
「普通って何? エッチするでしょ。恋人なら、そっちのほうが良いでしょ。エッチしてる写真だってたくさん撮ってるよ。私、私の身体気持ちよくないのかな? ま、満足できないのかな!? やっぱり――」
「違う。俺は、こういうエッチだけで終わるんじゃなくて、旅行の後からしていた放課後デートや二人きりで静かに過ごしたいんです」
俺の言葉に
「わかんない、わかんないよ! 私、私じゃ気持ちよくなれない? いつも気持ち良いって、好きだって言ってくれるの嘘なの?」
「嘘じゃない、嘘じゃないんです。
「話って! 嫌だよ!
何だこれは。俺は押さえつけていた彼女の拘束を緩めた。二人きりで話したくないって、それなのに恋人なのか。俺は恋人が何を望んでいるかわからなくなった。
力の抜けた俺を見て、
唇が合わさり、俺が喋るのを封じ込められた。
口が離れて、俺が声を発しようとすると、彼女のハンカチが詰め込まれる。
「……話さないで! エッチしよう? 愛し合おう。言葉なんて要らないんだよ。繋がればこんなに愛を確かめられるって、君が! 君が!! 君が!!!
君が、初めて、二人きりの旅行で、初めての告白で、初めてのキスで、初めてのエッチで、教えてくれたんだよ。君が教えてくれた」
俺は動けなくて、それを彼女は良いんだよ、動かなくていいと笑顔で受け入れる。ベッドの横にあるのに、ゴムも付けない。俺は抵抗しようとして、恋人の言葉を思い出した。彼女も俺が手を伸ばそうとしたのを、まるで叱るように叩いた。驚きで彼女を見やる。
動かないで、喋らないで――。
「愛してる! 愛してるよ、
俺の上で座った
「私が! 私が君の一番なんだ。私が恋人なんだ。愛してる、
ああ、愛してる!!」
こんな綺麗で可愛い人が恋人なのに、俺は悲しかった。こんなに恋人が愛を伝えてくれるのに、寂しくて悲しかった。
ひと通り事が終わって、彼女が俺の身体の上で満足気に倒れ込む。その身体をぎゅっと抱きしめた。ハンカチを口の中から取り出しても、俺は喋らなかった。恋人が喋らないでと言ったからだ。
好きだと言えない。愛してると言えない。
涙をこらえて俺は彼女を抱きしめる。
それを嬉しそうに受けて、裸の
「好きだ、
あなたを離したくない。なのに、俺は
写真を撮るのが好きなあなたは居なくなったのだろうか。
そういえば、俺の写真への感想もすっかり、綺麗に撮れたね、や、上手く撮れてるね、ばかりになった。目をそむけていた。写真の話をしたい。
恋人でありたい。
思い出を大切に積み上げて残していきたい。
φ
響花の言ったとおりだった。
ゴムをつけないと
今日はもうへろへろだ。……明日からもっとしよう。伝わってくる。私を愛してるって伝えようとする彼の気持ちが。
だから、もっと頑張ろう。受け入れよう。
もうなんにも要らないんだ。
明日から夏休みで良かった。しばらく教室の男子たちと合わなくて良い。私を嫌う女子にも合わなくて良い。たった半日の終業式の日でさえ私をどうして攻撃できるんだろう。
『はっ。恋人ってどこのどいつだ? 人を見る目がないな、みっともないと思わないのか』
『写真部で頑張ってたのに、俺たちバカにしてたんだろ』
『男に媚び売るの、他に男作ったなら、いい加減そういうの辞めたら?』
『あの、……わざわざ部活引退する人に会いに行って、色目使うんですか? 私の、彼氏に色目、使わないで』
違うのに。どうして。
「好き、好きだ。
「愛してる、愛してます、
良かった。こんなに君が私を愛してくれる。それだけで、それだけで良いんだよ。
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