第61話 夏はどこに行こう
「やあ、こんにちは」
活動日、俺が部室に顔を出すとすでに
「こんにちは。今日はどうしますか?」
「気が早いね~」
「そうですよ。ゆっくりしたらどうですか?」
「活動日ですよね?」
「そうなんだけど、どこが良いかなぁって。スポット巡りは前にしたわけだし。生徒会からのお願いも次の茶会までないからねー」
「それならテスト勉強でしょうか」
春日野がふっと自然とそういった。俺と華実先輩が苦笑いを浮かべた。
「
「いやでも、部活動時間をテスト勉強に当てるのは過剰だろう」
「塾通っていた頃の癖でつい。あの頃はテストテストテストづくしだったので」
「もう高校入って2ヶ月だから高校のスケジュールになれるべきだよ。それとも
「いいえ、一応様子見です。怪しくなったら通うと思いますけど、受験のタイミング、高校二年生の冬あたりから自分のレベルに合わせて頑張るので十分かなって」
「あんまり上昇志向がないねー」
「大抵の高校生なんてそんなもんです部長」
「ま、
それじゃあと、俺は口を開いて、写真部としてあるべき活動を提案する。
「練習もありますし、もう一度紫陽花でも撮りに行きましょうか」
「今日は曇天だよ?」
「カメラのフラッシュを使う練習しましょう。ほら、先輩好みの撮影対象もいることですし」
「それすると、
「……わ、私ですか?」
先輩は美人な女を撮るのが好きと良く言っていたはずだが、
俺は少々考えてから、
「
「うええええ!? ええと」
「むぅ……。
まあ、尚順君の発言はさておき。確かに数少ない女性の写真部員、現在私含めて二名、なんだ。せっかく活動日は顔を見せるようになってくれる
「あのあの?」
「継続してもらうためには日々の協力と将来的な目標ですか」
「そういう言葉がパッと出てくるんだなぁと思うけれど、そうだね。将来的な目標は、写真部としてはもうあれしかないでしょ。日頃は学校という閉鎖された空間ばかりを撮る事が多い我々にとって撮影旅行で心機一転頑張ろうというのが一番だよね!」
「りょ、旅行!!」
「そ、そんな楽しみかな?」
一時期彼女として付き合っていた
「夏、夏かぁ。どんな写真を撮ろうか。なんだかすごく楽しみかもしれないね。夏はどこに行こうかなぁ。」
そんな
「夏なら海とか」
「カメラを持って、他に人が居る浜辺には行けないよ。捕まりたいのなら、いや、止めるけどさ」
「そうでした」
「う、うううう、海!? み、水着!?」
「山でキャンプは混むだろうし、女手2名でキャンプするのはちょっと大変かなぁ」
「まあ、女子がいるので普通に山間のホテルや宿泊場所でお泊りが無難で良いですね」
「や、ややややま!? お泊り!?」
「
「そ、そそそ、そうですね!そうですよね! ちょ、ちょっと修学旅行と学校行事以外に家族以外と旅行ってイメージも経験も全く無くて」
「あーそうなんだね? 私としては、これから写真部の代替わりもあるし、慣れてほしいな」
気軽に
「
「え! そういえば考えたことも無かったなぁ。一応三年生の秋までだけど、それ以降は家の手伝いが増えるのか、内申良くするために勉強頑張るか。写真部のOBとして活動するか。うーん、難しいね」
少しだけ寂しくなった。思ったよりも
僅かに高校一年生から
そんな彼らは今、幽霊部員だ。
「そんなに早いんですね」
「早いかな? 運動部だと大会が終わったら、すぐ終わりという部活も多いから、文化系でかつ大会が無いような部活だと、そこそこ所属長いよね。
でも私が後輩だった時は、夏あたりに受験のためで、ほぼ顔を出さない先輩ばかりだったな~」
先輩が懐かしく思い出すように言って、寂しそうな顔を見せた。そんな仲のいい先輩が居たのだろうか?
「仲の良い先輩でも居たんですか?」
「……うん、今の三年生に女子はいないけど、私が一年生の時は二、三年生にそれぞれ一人女子の先輩がいたからね!」
それからは女性がいた頃の写真部の話題に移って、
女性しかいない茶道部が使う茶室は色とりどりの小物が少々雑然と置かれており、彩りがあったが、写真部は少々無骨な印象だ。
「
「あはは、それも面白かもね」
「ひ、必要ですかー?」
φ
私はベッドへポフンと倒れ込む。写真部の活動日になるたびに、家に帰ったらすぐベッドに行ってしまう。なんてはしたないんだろう。私はこんなはしたないのを尚順にばれたくなくて、いつだって声を押し殺してする。
あの後、結局、紫陽花の花壇へ写真を撮りに行った。徐々に色褪せていく紫陽花を惜しむように、部長と尚順は写真を撮っていた。
尚順がカメラのレンズを部長へ向ける時、メラメラと炎が湧いた。
でも、次に私に向けてくれた時、私の炎は立ち所にかき消えて、純粋な喜色の熱に変わった。尚順がここに立ってと指示されると、懐かしくてドキドキした。
そして、今、家に帰れば抱きしめられてキスされた感触が鮮やかに私の中に蘇り、身体を巡る熱になる。
あの金髪のギャルみたいな女と一緒に歩いてるところを見て、ついつい飛び出してしまった。嫌われてないか不安だったけど、怒られなくてホッとした。
同時に、付き合いたてに似合うよって助言してくれた髪型にしたら、褒めてくれてとても嬉しかった。
今更、初めて声を掛けられた時みたいな、あんな手入れを投げ捨てた髪にしていたことを恥ずかしくなった。
尚順と約束した通り大人しく写真部の活動をしていると、今の写真部の将来の姿があまりにも私の理想形でびっくりした。
時間が経てば、自然とあの部長は引退して部室に顔を出さなくなる。つまり、私と尚順二人きりだ。こそこそ覗いて、ほぼ毎日部室へ尚順が向かうのを知っている。
私は急ぐ必要なんて全く無かったんだ。
写真が趣味で大事にしている尚順が、写真部を辞めるわけがない。
勝つ場所がもう用意されてるなんて、私はなんて拙速でバカなんだ。高校内では邪魔ものはいないんだ。
夏は、中学の頃に出来なかった旅行もできる!
あの部長が引退すれば、私と尚順の二人きりの旅行も可能だ。冬にも撮影旅行があるが、その時には自腹を出して参加するような三年生は、あまり居ないと部長が名言していた。
体が震える。
妄想してしまう。
夜、二人きり、温泉。尚順が私をあの頃のように呼ぶ。部長がいなくなったから、彼が虚勢をはる理由も無い。
お金、もったいないよ。二人しか居ないんだよ。元カノなんだし同じ部屋でも、何にも気にしないよ。
あの頃のように、部屋で寝る前に名前で呼び合って、
「尚順、ダメ、だよ。二人きりだからって」「見、見たいの?」
妄想が溢れて私を満たしていく。
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ちょっとストーカー気質で、微妙にトラウマがあるおかげで、尚順の家近くは全く行けなくなったけど、高校で自分と尚順が絡む時にはあいつが介在しないなら妄想豊かな元カノ。
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