第26.5話 イメチェン?この時期に?
昼休み、学食での食事もお互い食べ終わったタイミングで私はおずおずと切り出した。騒がしい学食だというのに私は緊張のあまりドキドキとあたかも静まり返った部屋の中で自身の心臓の音ばかりが激しく聞こえてくるようだ。必死に声が震えないように頑張って伝える。
「そ、その、おすすめの美容室があるなら教えてほしいんだけど」
「は?」
私が気構えてそんな事を彼女に尋ねれば、茶道部部長である友人は、驚愕の表情を私にぶつけてきた。
しばらく沈黙が続いて、もう一度彼女は「は?」と言った。
「どうしたの急に」
「そ、そのー、イメージチェンジでもしようかなって」
くるくると髪を指先でいじる。前髪越しに見える目の前の友人は私をじーっと見てから、複雑そうな顔をしていた。
「イメチェン? この時期に?」
「え、ダメ、かなぁ? その、今の状態だとちょっと恥ずかしいかなって」
「今の状態じゃないと人目が恥ずかしいって言って断固拒否していた
「……ひどい言われようだ」
「いや、だってねぇ。どうしたの?」
「ら、来週の月曜日には髪を整えないとちょっとダメな理由があって。土曜日は家の手伝いがあるから、今から日曜日に行ける美容室があればって。あと、私詳しくないし」
「私の質問に答えらしい答えを返さないのは
私は友人の視線に居心地が悪くなって身じろぎする。なんでイメチェンしたいかなんて詳しく話すのは恥ずかしすぎる。
どんな顔をして、来週月曜日から後輩の撮影のモデルになったり、後輩と一緒に写真を撮る時に今の姿だと申し訳ないと説明しろというのか。だって、彼の基準値はきっとあの幼馴染なのだ。そして、話した時にどんな態度を取られるのか想像すると羞恥と不安が襲ってくる。お願いする相手を考えた時に私の友人の狭さも問題だとは思う。だって、彼女が部長をしている茶道部には彼が一番可愛いと言った女子がいる。
怒るだろうか、応援するだろうか。私にはそこがどうなるかわからないので、悩ましい。いや! そもそも応援とかそういうのは全く勘違いで必要ないんだけれど。
やはり友人は複雑そうな顔をしていた。もしかしたら、私のイメチェンをする要因が曲解されながらもなんとなくわかっているのかもしれない。別に私は彼を好きとかそういうわけではなく、数少ない後輩でかつ男子にしては全く不快のないカメラを向ける写真部の後輩を大切にしたいだけなのだけれど。
私に興味がないから不快なものでなかったとか言われると傷つくので、あまり考えないようにはしている。でも、興味がないなら写真は撮らないよね、多分。いやでも、そういう興味で撮られたらわかるつもりだから、何か違うんだよなぁ。なんだろう。……私、興味がなくても撮ることがあるから自分自身の考えが不安になってきた。
「うーん、う~~~~~~ん、分かった。良いよ」
「本当!? ありがとう」
とりあえず約束を取り付けてもらえたので私は日曜に彼女が行っている美容室に紹介がてら代わりに予約してもらい、会う時間も含めて約束を取り付けることが出来て私はホッと安堵した。
美容室で顔を隠す意図で伸ばしていた髪をかなり無慈悲にばっさりしっかり切ってもらい、ヘアゴムで適当にまとめた長い髪も整えてもらった。私は何年かぶりに顔を隠さない状態で、友人と並んで街を歩くが、前髪が長過ぎた頃は、変な髪型だという奇異の目ぐらいで終わっていたものが、少しだけじろじろとした品定めされるような視線が飛んでくるようになった。
「うぅ、やっぱり嫌だな」
「しょうがないんじゃない?」
友人も同じような視線にさらされているはずなのに、全く気にしていないように見えて、うつむき加減で歩く私と全く違っていた。
美容室に紹介してもらったことの感謝も含めて、今日の昼はカフェに入ってお茶とパンケーキを奢っておけば、彼女は喜んでくれた。家の喫茶店じゃなくていいの? と尋ねられたが、バイトに彼がいるのだから会える訳がない。まだ覚悟が決まってないので今日は会いたくない。
パンケーキを食べ終わり、ゆるりとした空気で紅茶を互いに飲む頃、彼女は真っ直ぐ私を見る。
「それで、いきなりどうしたの? イメチェンなんて」
「えーっと、それはーそのー」
「
「えー、そうか、なぁ? あれは、ねぇ。なんというか、偶然二人きりになった時に言われてびっくりしたけれど、すぐ断ったし、断られたんだから勘違いなんてされないよ」
「ふーん、なんて断ったの?」
「い、今はそういう事を意識してないから」
「それ!」
「え?」
私が首を傾げると、彼女は優雅に紅茶に口をつけてから彼女はため息をはいて首を振った。
「地味な変な髪型していた女子が」
「変な、ひどい……」
「もう、変なのは自覚あるでしょ。地味な変な髪型していた女子が、今は意識してないって答えて告白を断ったが、休みを挟んだらイメチェンしてくる。はい、どう思いますか」
「へー、髪型変えたんだね」
「違う!」
「え、どこが?」
彼女はやれやれといった具合で、彼女は
「告白されて意識したから
「えぇ!? 全然関係ないじゃないか。そんなこと思うわけないよ!」
「
「そ、そんな力強く言わなくても。写真部でもそうだけど、男子だといってもそんな思い込みなんてそうそう無いよ」
「あー、写真部、うんうん写真部ねぇ。あ!! もしかして、写真部の男子にも今は恋愛意識してないとか言ったことないでしょうね」
彼女の言葉に私はうーんと思い出す。
「撮影旅行とかあるんだけど、その時に、恋愛がどうのこうの話題になって、男子たちが話すから、聞かれた私も確か答えたかなー? 部長はどうですかみたいに軽くなんか聞かれたような」
「なんて答えたか覚えてる……?」
彼女が恐る恐るという感じで尋ねた。なんでそんな聞くのが怖いみたいな態度なのだろう。私は彼女の疑問にジト目で応じてから。
さて冬のあの日、私はなんて答えただろうと、振り返る。
なんとなく軽い話題のような雰囲気で話していたから、私も軽く返したのであまり印象に残っていない。必死に記憶を辿りようやく言葉が記憶に登ってくる。
「あー、部長になったばかりで今は部活を頑張りたいから考えてないけど、変われたら私もできるのかな、だったかな?」
「それ!?」
「え、何が?」
「今変わってるじゃん!?」
「えぇ!? 全然関係ないじゃないか。もう四ヶ月以上も前の話しだよ。軽いノリの話だったし、覚えてないよ」
「
「だから思い込み系男子って……。写真部のメンバーはそういうのじゃないよ。もう一年以上も一緒に部活してきたんだよ?」
「まぁ、
「大丈夫、大丈夫。私も部長だよ。参加率が低いとは言え、ちゃんと部員とは顔をあわせたらしっかり話し合っているから。最初は全然話してくれなかった部員達の好きなことや興味があることを聞いて話せていったら、今はもう円滑にコミュニケーションが取れるようになったし。顔を合わせたらあっちから話してくれたりもするようになって、私頑張っているんだからね」
「そういうのがなぁ、引き寄せるんだろうね。だから、」
彼女がさらに何かアドバイスしようとしたが、パンケーキがようやく来たので友人はそのままパンケーキを優先する。美味しそうに食べる彼女に、スマホを向ければちょっとだけ笑って、仕方がないなぁと撮影の許可が出る。
私は数枚、写真を撮って写真を見ながら呟いた。
「私も、こんな風に何気ないタイミングで撮られるのかな。今まで自分がしてきたことを自分が受け入れるだけなんだけど」
「ん? どうかした?」
「いいや、何でも無いよ」
私は彼女を写した写真を見てから、私が彼に写真で撮られるようになったらどうだろうと今日美容室の鏡で写った自分の姿を当てはめて妄想してみて、恥ずかしくなった。
それじゃあ、まるでデートみたいじゃないか。
写真部の活動の写真を撮るためだから、そういうことじゃないと私は邪念を振り払ってから、満足そうな友人に笑う。彼女は私と違ってとても綺麗だ。だから、先程の写真のように何気ないシーンでも映えるが、私はきっとそんな良い物にはならないだろう。
そうして、店員が置いていった伝票を指で摘んで確認すると、思ったよりも高いなと日頃の無料でスイーツを食べている身としてはままならない気持ちになる。家なら母に頼んで無料でパンケーキでもスイーツでも出してもらえるのに。
駅で別れ際に友人が私をからかう。
「喜んで貰えると良いね」
「よ、喜んで貰うとかそういう意図じゃないから!」
「はいはい、明日もちゃんと整えないとダメだよ」
「わかっているよ。……えーっと、その、明日ちゃんとできてるか、チェックして?」
「ふふ、了解。じゃあね!」
軽やかに歩く彼女は私と違い人混みの中でも埋没することなく、その背中は駅へと消えていく。私も帰ろう。
夜、仕事が終わり家に帰ってきた母が色気づいたのねと、私を馬鹿にしたのでそんなのじゃないと怒ったのは仕方がない。怒ったのに、菓子折りいる? とか、喫茶店貸し切りにしようか? とか言ってくるからもう部屋に逃げれば、今度は部屋に入ってきて美容品足りないものあるなじゃない? とか、どれどれってもう!! 母親を部屋から追い出すのが大変だった。
娘をからかう前に良くなったか悪くなったかぐらい言ってくれれば良いのに……。うぅ、不安だ。明日、友人にこれで大丈夫かって何回まで聞いても許してくれるかな。
―――――――――
華実視点のこれを27話の後に入れたかったのでもっと後ろのタイミングで書いてたのを調整で入れさせてもらいました。
次話は明日18時更新予定です。
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