94話 華実「一緒に入りに来てよ」
浴衣を来て美しい少女が二人、ゆったりと座布団に座って机にノートを広げて俺たちを迎えた。
「おかえりー」
「ただいま、戻りました。二人共、浴衣、可愛いですよ」
「そ、そう。ありがとうゴールデンウィークも浴衣だったね」
「ふふ、
「ず、ズルい……」
「でも、浴衣って、もうお風呂入ったんですか?」
「違うよー。ここから露天風呂は少し窓際に寄ったら見えるんだから、
俺は考えたが、お風呂に入ってからゆっくり浴衣を着たいと思って首を横に振った。
「き、きき、着替えて来ます」
いそいそと浴衣を持って、自身の荷物のある寝室へ向かったようだ。アメニティを確認すると、人数分以上に浴衣が置いてある。お願いしたのだろうか。
「とりあえず。二人は明日からのスケジュールの確認してるんですか?」
「そうだよー。
「
俺は急かされて、自然に
「まず誰の確認するんですか?」
「朝に撮りたいのは、井場ちゃん、
ノートに書かれたタイムスケジュールを見る。明日の天気予報は晴れだが、雲の量で日差しの強さも変わるので気をつけねばならない。
「俺のモデルは、せんりですね」
「ふふ、
「でもそのせいでせんりが写真部として活動の時間が削れるから申し訳ないよ」
「短い時間でパフォーマンスを高めて挑戦する、良いことだと思いますよ」
「運動部っぽい意見だねー。尚順君は午後に私をモデルでも撮るから、頑張ろうね」
「
「うんうん、部長らしくみんなの活動を管轄するのに全力そそぐよ」
「そう、ですか」
ひと通り確認を終えて、う~~んと手を伸ばして終わったーとくつろぐ
「まず私お風呂入らせてもらうね。ここからだと見えないけど、もしもで
「私は、一人で――」
「はいはーい、私が
「角度的に見えないでしょ。まぁ私は恋人だし、エッチしてるから平気」
さらりと言って、彼女は俺に見えないように下着などを持って浴室に向かう。浴室側から通じる扉の先に露天風呂はあった。
俺はため息をつくが、せんりと
針のむしろだ。
「
「……あんまりそういうのは良くないと思う」
「伝えておくよ」
「うわ、思ったより聞こえるのでドキドキしますね」
「いや、しないけど……」
「そういえば、いつから部長と付き合ってるんですか? そういう話をしたことないですね」
「私も、あんまり聞こうとしてなかった、かな」
話題になって、たった三ヶ月前なのにひどく懐かしさに襲われた。あの頃は、
「ゴールデンウィークに藤の花を写真に撮りに行った時に、俺から告白した」
ダンと
「
「うん? ああ、大丈夫大丈夫。虫でもいたから」
「……部長と出会って一ヶ月もしないぐらいなのに、そんな早く告白したんですか?」
「ああ、俺の、写真を撮る話を聞いてもらって、
「へぇ~、良いですね」
せんりがニコリと笑う。そうだよなと俺も自分の言葉に頷いた。
だから、その喜びに、せんりの言葉が冷たく水を掛けて苦しませてくるのも、仕方のないことかもしれない。
「でも、今は、あまり一緒に活動出来てないですね」
「そうかな? 一緒に部活動してるし、」
「
「確かに、茶道部に顔を出す時も最近はカメラ持ってない事が多いですね」
「そうかな? いつも持ち歩いてるよ」
「ううん、
俺は答えずに、愛想笑いで誤魔化して、立ち上がった。
「どうかした?」
「女子のお風呂は長くなりそうだし、俺は本館の大浴場行ってくるよ」
「えぇ~、
「う、うぇ、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「せんり、
「あれれ、バレちゃったんですね」
「も、もう、こういうのダメだと思う。陽キャ、苦手」
「陽キャじゃないですよー」
「それじゃ」
「はーい、
「あははは、分かったよ」
俺は着替えを持って、本館にある大浴場へ向かった。自分の荷物の中にあるスマホを確認すると、
『こっそり目を盗んで、一緒に入りに来てよ』
そんな事できるわけがない。
『本館の大浴場行ってきます』
彼女はスマホを持ち込んでいたらしい。すぐに既読になって、
大浴場へ向かうと少々騒がしい。人が多いのだろうか。
身体を洗って、広々とした湯船に浸かる。人が固まっているところには視線を向けず、大人しく端だ。
「
……タイミングが悪かったか。どうにも
「げっ」
視線を外していたが、一人が俺を見て驚いた顔をした。誰だろうと思えば、田中だ。
「こんばんは、田中君、偶然だね」
「……なんで委員長がここに?」
「写真部の活動で、海に行こうって事になって、うちの部長がここを選んだら偶然被ったみたいだよ」
「ふーん」
「
田中は偶然という言葉に、そんなこともあるのかと、なんとなく納得した風だったが、棚田がじゃぶじゃぶとわざわざ近寄ってくる。話をする仲でもあるまい。しかしながら、お湯に浸かったばかりだからすぐに出るのもな。なんとも間が悪かった。
「お前が学級委員長をしていて、
いや、会話がいきなりすぎる。……せっかくの旅行でようやく心落ち着く一人になれたのに、絡まれるとげんなりしてしまう。
「そう、か。それは申し訳ない」
「
「……そう。それは申し訳ない。俺は学校の学生らしく友人として過ごしているだけだよ」
「友達と言う割に、馴れ馴れしいから言っている」
「……それは申し訳ない。改善しよう」
「分かれば良いんだ。
本当に面倒だ。企画させられたのであって、結束のために企画はしてないと
「そうなんだ。それは、頑張ってるんだね」
「ああ、だから、今日偶然来たことは目を瞑ってやる」
「うちの部長が選んで、偶然日程が被っただけなのに、文句を言われてもな」
「ふん」
それだけで、またお湯をじゃぶじゃぶとかき分けて、元の集団へ戻っていった。中学が一緒だった人はどうやら居ないようだ。ホッとして、俺はじっとお湯の熱を身体に感じる。
(夜は、
せんりがチクチクと
……俺が悪いのだろうか。二人きりで会うと、エッチしたいと望まれるのは何故なんだろう。
そんな彼女らとの逢瀬で疲れても、夏休み前は自宅に帰って夕食後に
夏休みになってから
(
俺は思ったより長湯になって、ゆっくりと本館から別邸の部屋に戻った。
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