93話 本当に節操ないですね
夕食は結局ホテルのレストランを利用させてもらった。みんな海の塩でベタついていたので、特に女子のシャワー時間が長く掛かったためだ。皆が入った後に、俺が最後入ってシャワーを浴びてからせっせと風呂を掃除する。露天風呂は今から入るとゆっくりしすぎてしまうという事で、皆内湯のシャワーでささっと身体と髪を洗い終えた。
その時アメニティが豪華だと女子の三人が盛り上がっていた。とてもいい香りがするのは素直に同意した。
夕食後に内湯を使うのも考えて、かるく流したりしたが時間がかかってしまった。レストランに食事行くのは、
「ふぅ~、ようやく
「でも、二泊するから機会はありますよ、多分」
「井場ちゃんは適当だねぇ。その時はみんなに振る舞ってうならせてあげるよ」
「部長の腕前、楽しみにしてます!」
せんりの物言いに
カードを見せれば、コースは規定のものを用意させていただきますとスッと従業員は下がった。テーブルに付いた俺たち四人は思い思いに出された水をちびちびと飲む。四人席のため、二人ずつ並んで向かい合って座った。俺は
「おしゃれ。私、場違い過ぎて困ります」
「レストランが二箇所あって自然とこっちに通されたんですけど良かったんでしょうか」
「いやまぁ、すぐにこちらにって言われたから、良かったんじゃないかな……」
「
「そうですよー。友達を呼ぶにしたら過剰じゃないですか」
エッチして気持ちよかったら、愛と好きを感じられるからと言っているのは先輩なのに……。
「まあ、
「むぅ、そう言われると、
「でもでも、
俺はせんりがどうしてそんな事を言うのか分からなかった。秘密を暴きたいのだろうか。彼女が秘密の一端を占拠しているのに、彼女自身が率先して何かしらぶち壊したいのだろうか。
息がわずかに早くなってしまう。隣に座っていた
スッと俺が手を離すと、
「あははは、
「うわ、知らない世界です」
「だよね」
「なるほどね、お嬢様だと、そんな目に会うなんて大変だね」
「でもでも、それなら婚約者が入れば良いんじゃないですか」
せんりが良く食いつく。珍しい。学校では
「婚約者って、今の時代に時代錯誤でしょ」
「そうですかー? でも、学校で男友達作る時に思い悩むぐらいなら居たほうが楽だったんじゃないですか」
「どうだろうね、夜、
「
「うぇ!? あ、私も? そ、そうだね。
「う、わ、私もですか」
俺はなるべく聞こえないところに居たいなと思いつつ、コースの食事が運ばれて俺たちは舌鼓をうった。
「美味しいけど、お腹いっぱいです。女子には多すぎます」
「確かにちょっと多かったね」
「あの、私、ちょっと、トイレに」
レストランを出て別邸の部屋に戻る前に、緊張なのかどんどんとお茶を飲んでいた
「ん?」
先頭にいた女子がこちらに視線を向けて、驚いた表情をする。俺は誰かと思って考えてから、学校であらたに生徒会長になった女子だと思い出した。確か中学も一緒だ。名前は覚えていないが、なぜかスッと顔が記憶に出てきて、同じ中学だったと思い出された。
慌てた。
背後からせんりの肌に触れながら小さな声で耳打ちをする。ぶるりと、興奮からかせんりが身体を震わせて頷いた。
「
「了解です。部長行きましょう!」
「え、何々?」
そのまま
集団から一人を連れて、彼女が近づいてきた。
「こんばんは、
「あー、こんにちは、生徒会長だったでしょうか」
「ふふふ、
「……中学では
「人を手ひどく拒否した人らしいですね」
拒否? 拒否とはなんだろう。本当に記憶にない。切れ長の目に、長い藍色の髪が美しい。冷たい眼差しで俺をみつめていた。
「俺は今日は写真部の撮影旅行で来てます」
「写真部、こんな高いところを? こんな繁忙期にですか?」
「ええ、まあ、人数が少ないので出せる人だけ」
「……ああ、私のクラスにも写真部の幽霊部員がいましたね。新しく入った一年男子が引っ掻き回したって愚痴ってましたよ」
「引っ掻き回したって、何もしていませんよ」
「そうでしょうね。でも、
「そんな、つもりは、無いですが」
スッと、俺に一歩近づいて耳打ちしてくる。彼女の背後にいる茶道部で見たことがある先輩女子が、不快そうに俺を睨んでいた。
「
「いや、だから、違いますよ。俺は
そう答えた瞬間、俺から身体を離して、びっくりしたように俺を見ている。
「恋人? あなたに?」
「そうですけど」
「……あっそう」
イライラした態度で行きましょうと女子に声を掛けて、離れていく。どうしたのだろうか。
「何、あれ。なんで
「見てたんなら、すぐに戻ってきてほしいんだけど」
「……ふんっ。戻ろ」
元カノは案外物分りが良く、俺が答える気が無いのがわかったようで、歩き出した。その後ろをついていく。すぐに睨まれた。
「隣歩きなさいよ」
「ごめん」
んっと、手を差し出される。短い距離でも手をつなぎたいということだろう。……キスをしろと横暴な事をいきなり言ったりするが、
……もう戻りはしないのに。
傷つけて、嘘をついて、黙っていてとお願いした俺に、
別邸の入り口が見えてきて、スッと手を離す。入り口近くは少々騒がしい。若い人が多いようだ。
「同じ年ぐらい?」
「そう、みたいだ。なんだろう。これが
俺はその横を抜けようとしたところで、こそこそとささやきが聞こえた。
「
「はぁ、
「そんなつもり無いようにしてるんだけど」
「あいつの傍に暴力振るわれても、ずっと居たりする時点で、知ってる人から目立たないわけ無いじゃん」
小さな声で
「キスしなさいよ」
ため息をつきたくなって、俺は彼女に触れ合う程度のキスをした。そして、ちょうど三階に着く。それだけで満足したのか、頷いた
「二人とも遅いよー」
居間の和室で部屋着用の浴衣になっていた
俺はノートの見て嬉しくなった。撮影スケジュールの確認だ。
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