95話 華実「お嬢様が男子と同衾したと」
部屋に戻ると三人が居間で思い思いにすごしている。せんりが一番だらしない。座布団を並べて寝転がっており、浴衣がわずかにはだけて見慣れた綺麗な肌が見える。
「ただいま。せんり、ちゃんと浴衣着たほうが良いよ」
「むぅ、
「だから言ったじゃないか。女の子なんだからきちっとしようね」
「はーい、部長は怖いですね」
「あははは、怖くないよ」
中学の頃は、こんな時は声を掛けずに本を自由に読ませるほうが良かった。俺は大人しく、二人がだらだら過ごしている机の傍に行く。
「何してたんですか?」
「二人だとなーんにもすることがないから、だらだら話してたよ」
「部長のお家のバイトについて聞いてました」
「バイトしたこと無いから、楽しいって言われて不思議な気持ちだよ」
「した方が良いとは思うんですけど、一人娘だからしなくても大丈夫なのかなーって」
「私だって一人娘だけど、家の手伝いで出てるだけさ。
並んで座る。
せんりが俺たちのそんな恋人同士の微笑ましい姿を愛想笑いで見ている。
「
「
「そう! そうなんだよね。せんり、ありがとう」
「いえいえ」
「私、知らない」
「えっと、前、見せましたよ?」
「部長、私も前に撮ったのを見せてもらっただけだと思いますよ」
「そうなの?」
「勘違いさせてすみません」
せんりが満面の笑顔になる。フォローしたのが俺に伝わっていると理解している。分かっている。今のは
「良いんだよ、私こそごめんね?」
「いえ、それで――」
もうかなり夜も遅い。そんな時間に玄関が無遠慮に開かれる音がした。びっくりしたが、すぐに乱入者の声がかかる。優雅な私服を来た少女が疲れ気味の顔を見せる。
「ようやく終わりましたわ。こんばんはみなさん」
「
「ああ、
「
「こんばんは」
俺が明るく反応する。
「皆さん、こちらの部屋はどうでしょうか?」
「
「ああ、申し訳ありませんの。和室に荷物を置いていたんですけれど、和室はどなたが使う予定なんですの?」
「俺が使う予定だよ」
「そうですか、でしたら、私も一緒に使用して」
「待った。
「ふふ、私のお部屋ですのに冷たいですのね」
「
「そうだね、
「ふふ、冗談ですの。わかりました。それでは、
「うん、良いよ。
扉を開けて中に入る。
「
「良いよ、手伝うから。昼にも伝えたけど、会えて嬉しいよ」
「まあ、私もですわ」
扉を閉めているのを確認した。自然と身体が
「あの、申し訳ありませんの。急に。でも、私、まだお風呂に入って無くて、恥ずかしいですの」
「いい匂いしかしないよ」
「もう、乙女の気持ちの、問題ですの」
「あん、
「……ごめん、会えたのが嬉しくて」
「ふふ、その、荷物手伝ってくださいませ」
「うん、すぐに運ぶね。ごめんね、俺がこの和室を使うから」
「良いんですの! 逆にあの人と一緒の部屋を使って無くて」
さすがに恋人とは言え、部活の旅行に来て恋人と同室で寝ようという行為をする気は全く無い。
荷物を二人で運び出して、
居間に戻れば、俺たちが荷物を移動させるのを見てソワソワしていた
そんな姿をちらりと見てから、なんとも不思議な表情をした
一口お茶を飲んでから、
「井場さん、ありがとうございますの。もうすっかり遅い時間ですわね」
「そうだね。大変だったの?」
「少々集まりで人を呼んだりもしましたの。わざわざ人を呼ぶのもと思ったのですが、ずーっと接待まがいの会話をさせられるぐらいなら、講演じみたものをやってもらった方がマシですの」
「やっぱり別世界ですねー」
せんりがそんな事を素直に言う。確かに、同じ年の少女がせっせと同じ年回りの人のために人を呼んで切り盛りするなど、俺の想像出来ない大変さだ。
「そうでしょうか? まあ、親からも人を使う練習とも言われていますし、気疲れしますが挑戦していますのよ。お暇があればご参加いかが?」
「あははは、俺は遠慮しとくよ。
「えぇ!? そんなことになるんですか」
「
「
「同じ中学に
「ふんっ」
「
「
「あー、
「え?」
「幼馴染って言っても、高校で縁は全然無いよ」
「そうですよね。別クラスとは言え、同じ学年なのに高校で話してるの見たこと無いですし」
「あ、そうなんだ」
「そうなんですのね。驚きましたわ。そんな事、
「私は四月早々に教えてもらったけど」
「……
「あら、お茶を一杯と思っていたら、本当に
スッと立ち上がって、彼女はさっさと準備を整えて浴室へ向かう。フーっとため息をついて、俺は
スマホの中には、高校の幼馴染の写真は無い。
そうだ。幼馴染フラれて高校は距離が出来て、新しい女友達が出来て、
……女友達の写真で増えるのは、
そう思っていたら、最近の
「なにか嬉しい事でもありました?」
せんりの声にスマホから顔をあげる。嬉しい? スマホの画面を消した。こちらを見ていなかった
「嬉しい? え、せんりどうして?」
「いえ、笑顔でしたよ」
「ああ、……そうだ。タイミング悪いけど、写真部のみんなの写真を撮ろうよ」
「お昼も撮りましたけど?」
「浴衣姿の旅行の一風景の写真、良いんじゃないかな?」
せんりが疑問を出すが、
「
「うぇ!? な、なんで知ってるの」
「いや、予想だから。ほら、
「…………う、うん」
顔を赤くしながら、そそそと傍にやってくる。俺はカメラを持ってきて、まずは綺麗な女子しか居ない空間を写真を撮る。そして、セフルタイマーを使って、俺も含めた今の写真部全員の写真を撮る。
明日も撮ろう。
笑顔の皆が写った写真を見て、俺はそう思った。
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