96話 私のベッドまで来て
露天風呂から外を見ていると、疲労がずっしりと身体に落ちてくる気がした。新しい高校の生徒会長は大変面倒だった。これから
学校で派閥争いなんてしたって意味がないのではないかとずっと思う。だって、高校に通っている大半は
私を見る目も、
チャプチャプとお湯を弄ぶ。
「
背後の浴室に続く扉を見るが、当然そのガラスの向こうにあの細身でもしっかりと筋肉のついた身体をした
「まさかあんなに喜ばれるなんて」
会えて嬉しいと、あれほど熱烈に喜ばれて抱きしめられて、久方ぶりに四月の頃の気持ちを追体験するぐらいにドキドキしてしまった。お風呂に入って無くて密着して抱きしめられたのは、本当に恥ずかしかった。
いい匂いしかしないよといいながら、首元に彼の顔が密着して、もう顔から火が出るとはこのことだと理解した。
「どうかしたのでしょうか」
これまではずっと、そういうのはダメだよと言った具合で、彼は穏やかで距離があった。なのに、急にこんなに好きな人から距離を詰められて、ドキドキしない女は居ないだろう。
「……お話したいと言っておられたのに、出来てませんの」
私自体は余裕があるけれど、写真部のスケジュールを聞いたら、明日の朝は早めの時間に浜に降りて写真を撮る人がいるとも言っていた。
「先日に見せてもらいましたが、思ったよりも、大変ですのね」
撮影旅行というのも、ほぼ遊びだと思っていた。一日目は遊びになっていたが、二日目はすることがびっしり書いてるノートを見て、こんなに撮影活動をするんだなと感心したものだ。
だが、
「……少しでも会えて良かったですわ。それだけでも喜んで過ごしましょう」
私はゆっくりと露天風呂から出て、浴衣を着て髪を乾かしてから居間へ向かう。居間では先程まで離れていた
「どうかしまして?」
「ああ、写真部の旅行の写真を撮って、
「まあ、申し訳ありませんの。思ったより長湯してしまいましたわね」
「明日も撮れるんだし、大丈夫だよ。ごめんね。ほら
お姫様だっこはさすがに無理ですわよね。実はできるんじゃないかと期待してしまった。それを見たら、嫉妬もするだろうが、自分もしてもらえるようにお願いしたかもしれない。
私のキラキラした目に誰も気付かなかった。
「私達も寝ましょうかー。部長、
「そうだね。明日も早いからね。井場さんおやすみ」
部屋が別れている関係上、廊下でおやすみと挨拶して、それぞれの部屋に入る。
私もいそいそとこのある意味できまずいような、あまり関係のないような女性と一緒の部屋に入った。
しかし、彼女は私に興味がなさそうにベッドへ倒れ込み、スマホをポチポチといじる。
私としても特に話すことも無いので、構わなかった。柔らかなベッドに身を預ける。
「それじゃあ、電灯絞るね」
「はいですの」
「
「おやすみなさいですの」
私自身やっぱり疲れていたのだろう。部屋が薄暗くなるとすぐにうとうとしてきた。
φ
各々がベッドへ行った。俺も和室に行って、敷かれた布団で眠ろうとしたところで、
『どうかしました?』
『助けて。静かに私のベッドのまで来て……』
『なにかありました?』
『恋人を助けてくれないの?』
そこまで言われたら俺は本当に心配になって、
小柄な体躯に銀髪と赤い瞳。赤い瞳が光るはずもないのに、爛々と輝いて俺を見ている気がした。
ベッドで女の子がこんな風にぺたりと座り込んでいる光景は、
まだ目がなれず、表情は読み取れないが、もしかしたら泣いているのかもしれない。
「
俺は少女のしっかりと抱きしめた。辛いことがあったのかもしれない。泣きたいことがあったのかもしれない。そんな時はこうやって抱きしめあって、慰め合うのが――。
「エッチしてよ、
どうして?
俺はもう一つのベッドを見る。
「なんでそこで
「だって、すぐ傍で寝ていますから」
「……ねえ、恋人よりも
「違います。恋人の、
「だったら、エッチしてよ。エッチしたいって恋人が言ってるんだから、エッチしてよ」
恋人がエッチしたいと言ったら拒否しないでと、
「拒否しないで、私、辛いよ。エッチしてよぅ」
泣かれてしまう。ごめんなさい。傷つけてごめんなさい。何度も傷つけてごめんなさい。だから、泣かないで。
「ご、ごめんなさい。エッチします。
「良かった、良かった。エッチして、
「でも、人がいるから、声を出さないで下さい」
「うん、我慢するからエッチして、
俺は
「ゴールデンウィークの時みたい、だね?」
初めて告白した日、初めてキスした日、初めてエッチをした日。だけど、あの時ほどのドキドキも喜びも俺には無かった。
「好きです、愛してます」
そして、彼女を抱いて、……彼女は約束を破った。
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