98話 せんり「本当にひどい男ですね」
朝、時計のアラームで目が覚める。結局、
俺はすぐに時間を確認して、
「
「う、んんんん」
布団の中はどうしてか
「あ、んむ。おはようございますの」
「おはよう。寝起きも可愛いよ」
「えぅ?」
と、まだぼんやりしていたのが徐々に覚醒してきたのか、ガバっと
「お、おおお、おはようございますの」
「おはよう。もうみんなが起き出すし、
「……私はもう少し余裕がありますから、お部屋で眠らせてもらいますの。写真部の皆さんは早いですのね」
「ははは、俺だけだよ。じゃあ、ゆっくり眠ってね」
「はいですの、あの」
「昨日はありがとう。だから、
彼女が何かを尋ねる前に、俺は
「……ひどい人」
「ごめん。でも、わかって欲しいんだ」
「はい、ですの。話してくれてありがとうございますの、
「ひどい事をしたのに、俺の話を聞いてくれてありがとう、
君の顔や優しさが好きじゃなくて、本当に君が好きで、だけど恋人にはならない好きだ。
ウミネコが騒がしく鳴きながら空を飛んでいる。夏の空は晴れて、青く澄み渡っている。
ゆっくりと歩いて浜辺を横目に散歩をしていく。カメラを構えたい場面は出てこないけれど、夏の空気を吸っていると心が落ち着いてくる。
「場所も季節も違うけど、春の時もこんな感じだったな」
あの時は
その姿を何枚もカメラで写真に撮った思い出がある。スマホを見れば、その時の写真が残っている。
毎日会うと約束したのに、忙しいから会えなくてもいいよねと行ってしまう幼馴染。……好きだからエッチしたいと、
好きだからエッチしたいと言う。彼女たちはそう言って、実際に俺に好きと、愛してると言ってくれる。だけど、
バサバサと夏の朝風で木々の枝葉が騒々しくざわついて。
俺は居るはずのない彼女を見つけた。
防砂堤の上に立ち、ただ海の向こうを見つめる長い髪の少女。髪が風にはためている。自然と身体が動いて何枚も写真を撮った。……振り向いてほしい。笑顔を見せてほしい。
だから俺は声を掛けた。
「
不思議そうに少女が振り向く。だから、
「
「せんり……」
「不思議ですね」
「……何がかな」
「
「そんな事はない、つもり、だけど」
「そういえば昨日、
俺は顔をしかめる。
「……ほら」
ゆっくりと防砂堤から降りてくる。せんりが俺の腕を取って、にこやかな笑顔を向けた。
「私、いろんなことを助けてますよね」
「……それはそう、だね。助けてもらってる」
「部長に
「
「それが教えてくれなかったんです。まただ、嫌だって泣くばかりで。本当に何したんですか?」
「……」
「だんまりですかー。
「……手を出したのは」
「私がお願いしたからですよね。分かってます。だから、私は友達のまま恋人に黙ってエッチしてますし、
「今は、
「エッチしてる時じゃないからですか? それも理由がありそうですよね。何で、ですか?」
俺が言えないままで居ると、せんりが楽しそうに笑っていた。
「
じゃあ、友達じゃなくなろう、エッチはしないと言えれば簡単なのに。
「友達じゃなくなったら、部長にも
「……どうして、そんなに。わからない。なんで、せんりはエッチしたがるんだ。友達なら、友達らしく」
「好きだから」
「ごめん、俺は恋人が」
「ほら、そうやって。今、肉体関係のない友達だったら、恋人にも
私は
……まただ。出会った頃のせんりは、俺と距離が合って、冷たくこっちを見ていた。こんな蠱惑的な絡め取るような表情なんてしなかった。
俺は疲れて、彼女の頭を撫でる。
「うふふ」
俺が逃げたのを理解しても、その撫でた感触をとても心地よいと言うように、先程の蠱惑的な表情は鳴りを潜めて、無垢な笑みを浮かべていた。
「私は助けてあげますよ」
「せんり……」
「恋人が居てもー、セフレが居てもー、
「それは、せんりが辛いよ。だから、」
「あなたが好きだから、愛してるから、大丈夫。私は
色んな女の子に迫られて大変ですね。だから、私に相談してください。私を抱きしめて下さい。私が、あなたを、助けてあげる」
彼女の唇は声を出さずに動いていた。
『そして、いつか私が――』
彼女を抱きしめる。こんな事をしたってなんにも解決しないけれど、せんりは満足する。満足そうな声が腕の中の少女から上がった。
夏の爽やかな空気に似つかわしくない少女がここにいる。
「
「聞かないであげますって言ったじゃないか」
「そうでした。でも、恋する乙女としては気になっちゃったんです」
「初恋の相手だったって言ったらどうするの」
「似てますか?」
「……髪を下ろした頃から、背格好が中学の頃に似てて……」
「ふふ、そうなんですか。素直ですね? また
……君はどうしたいんだろう。いつも俺を誘う時に使う香水とは違う物を使っているようで、俺はホッとした。俺がギュッと誤魔化すようにさらに強く抱きしめると、嬉しそうに喘いでせんりは求めるように俺に請うた。
「これ好きです。ねえ、キスして、
俺はキスをする。誰かに見られるかもしれない場所でしてしまった。だけど、せんりは満足そうに微笑んでいた。
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ひどい男を追い詰めていく悪い女
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