85話2 尚順「学校で、朝からダメだよ」
夏休み直前の
ズンズンと棚田さんが歩いてくる。後ろに田中さんと他五名ほどの男子が集団となっていた。良く私に色を含んだ声を掛けてくる男子たちである。
「こんばんは、
「棚田さん、みなさん、こんばんは。夏休み前で忙しいのに参加いただきありがとうございますの」
「いえいえ、
「
「今日は黒ですか、また妖艶で」
「最近さらに綺麗になられたと思います」
私のためを思うならもっと他の方と話したほうが良いと思いますけど、私は内心でそう思いながら、棚田さんが構成した集団へ挨拶をしていく。今日も可愛いや綺麗という言葉は、
「そういえば、夏休みはどのように過ごされるのですか? 高校生になりましたし、自分たちで行ける場所も増えました。よろしければ友人たちと一緒に交友を深めさせていただければ」
「夏休みですものね。中々時間を作るのも難しいですけれど、個人的に私は仲の良い方と旅行に行く予定はありますのよ」
周りが盛り上がる。棚田さんの集団も驚いたような反応をした。棚田さんがおずおずとした態度で尋ねる。
「そ、それは知りませんでした。もしかして、
「茶道部で良くしている方となどですわね。中学時代はあまり興味がありませんでしたが、今回はいい機会ですものね」
自分は誘われていないと棚田さんたちが反応するが、何故私があなた達を誘わねばいけないのか。私は笑顔の裏でため息をはきだす。周りが愛想笑いで彼らの行動に笑い出すのをこらえていた。
周りの人の態度もよく有りませんわね。このような態度を見せる人たちが周りいると、
あまり好ましくないことだ。
また、学校の授業で誰かがミスして、それがミスした人自身が笑いを取るために行ったことであれば一緒に笑うが、ミスをあげつらう笑いをしているのを見たことがない。
「それでしたら、ぜひ同じ学校にいる
ズケズケとした物言いを、本来は周りも止めればいいのに、私が中学時代も含めて距離を開けることが多かったせいか、盛り上がってしまった。
「それは良いですわね」
「
やらかしてしまったが、棚田さんは良くやってくれたと自身の集めた集団に持ち上げられていて満足そうだ。私は面倒なことになったと思いつつ、どうしようか迷った。棚田さん達以外の人たちも乗り気になって盛り上げるなら、無下にもしにくい。
確かに茶道部と、
「両親と相談してみますわね。けれど、あくまで学生たちの交流ぐらいにしかならないと思いますの。構いませんわよね?」
「ええ、もちろんです」
棚田さんが率先して反応する。近くにいた
「僕も賛成ですね。
少々馴れ馴れしい。昔から顔を合わせており、
パーティーが終わり、父と母が珍しくひどく盛り上がっていたねと口にする。私は困ったわという気持ちで、先程の話題を口にする。
「高校生ということで今回のパーティーに来ていた学生たちで近くでも良いので旅行でもいかがですか、という話題になりましたの」
「ああ、それは良いんじゃないかな」
父は乗り気だ。母は少し考えてから、頷いた。
「いい経験になるんじゃないかしら。家から誰か連れていけば保護者も大丈夫でしょう」
「そうであれば、最近あまり使う機会のなかった海のある、あちらで良いのじゃないかな。そういえば前に使いたいかもしれないって言ってただろう?」
懐かしい話題だ。
今回大人数になることだし、こっそり悪い事でもしましょうか。
私は笑顔で父にお礼を言った。
φ
スマホで電話すると、すぐに
爽やかな朝だった。私はやる気に満ち溢れて、学校へ向かう。もう夏休みも目の前なので、大急ぎで準備を終えなければいけない。
教室は人が多い。私は
扉を開ければ手狭な部屋に
「おはよう、急にどうかしたの? 相談があるって言われたからびっくりしたよ」
「おはようございますの。申し訳有りません。でも、時間もなくてすぐに相談したくて。
「ああ、結構前だけど、そうだね。結局、人混みなど考えると諦めたんだけど」
「よろしければ、私を助けると思って、
「どういうこと?」
私はそこから、少し長くなるが、急に
ここは人目のない部室だ。私は彼の身体にしなだれかかって、不安な気持ちを素直に伝える。
「それで、偶然同じ場所に行く形にして、参加出来ないかってこと、か」
「そうですの。ご迷惑なのは本当に分かっているんですけれど、海のある、水着などもありますから、そこにほぼ知人程度の男子たちですと、私不安で」
男子も私からすると知人程度、女子も仲の良い人は居ない。
本当は不安のさらに蕩けさせるために優しくキスもしてもらいたい。けれど、今は大事なお話なので我慢する。
「いや、……そう、だね。」
「お願い、お願いします」
つい強くお願いして、自然と涙がほろりと流れていった。思ったよりも、自分の感情が高ぶってしまった。私の手を彼が握る。
「そこまでなんだ。うん、分かった。ちょっと
「ありがとうございます」
「学校で、朝からダメだよ」
「でも、そうでしたらキス、してください。キスが欲しい」
「仕方ないな。……
「嬉しいですの。ん」
私のわがままに、彼は仕方ないなという声で優しく触れ合うキスをした。好き。こんなに好き。本当に彼は好きと言ってくれるようになった。
髪が綺麗で好きと言われるから、手入れをしっかりをするようになった。キスをする時の唇が好きと言われて、リップクリームや、日々つけるリップグロスも気をつけるようになった。
綺麗な顔が好きと言われて、肌の手入れをさらに気合を入れた。ナチュラルメイクもどんどんと上手くなった。
整っている身体が好きと言われるから、体型にだって気をつける。気持ちが良いから好きと言われたら、動くのももっとうまくする。
舌が気持ちいい。朝から学校でこんな事をしている、どこか背徳的な気持ちが私を責め立てる。
目一杯キスを楽しんだ私は、夏休みが、楽しみだった。
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