第51話 莉念はゴリ押し
生徒会は特別教室がある校舎棟に一室を持っている。放課後にはあまり人は居ない。
他の教室と変わらない作りのスライドドアを開けて声をかけた。
「失礼します、一年の折川です」
「……お前か」
「こんにちは、
嫌な顔に出くわしたと俺は内心で顔をしかめた。表向きは愛想笑いだ。俺の二つ上で中学時代に、
邪魔だからと
ことさら嫌われていると思う。
俺に向かって粗雑な態度を示したが、生徒会室に他の生徒が居たため、そちらをちらりと見てから咳払いをした。口調はあまり戻していないが、態度自体は他の生徒からみて評判が下がることはしたくないらしい。
「ふむ、何か用か?」
「写真部に所属しています。茶道部が実施する茶会で生徒同士の交流をするということで、例年、写真部の部員が参加して撮影もしていると聞いています。事前準備の手伝いができるのであれば協力したいことと、スケジュールなど共有してもらえれば」
「お、ゴホン。君が帰宅部ではないとはやはり驚きだが、なるほど、彼女は来ないのか?」
「彼女?」
俺が疑問を呈すると、彼は「お前は察しが悪く頭が悪いな」と言った顔を見せた。このセリフは中学時代のこの表情をしていた際に、実際に言われたので多分あまり違いが無いと思う。
他の生徒会メンバーにイライラした態度を見せないようにしながら、彼は口を開いた。
「部長だよ。写真部の部長の」
「部長は今回は土日にバイトがあるから部員の私達に任せると言われました」
「そうか」
舌打ちを誤魔化して、
「これがスケジュール予定と、主な作業内容だ。事前に協力するというのなら、男子部員は設営には顔を出せ。茶道部は女性しかいないから、男手自体は足りないからな」
「写真部は俺しか参加できませんが、頑張ります」
「ああ……。ふん。とりあえず、前日から生徒会に出て準備に参加しろ」
茶道部とは異なるプリントだ。
前日に置き畳が搬入されるため、茶道部からも複数の備品を持ち込み各配置する必要がある。俺は了解をしてから、生徒会室を辞して廊下に出るとすぐに
「おい」
「はい」
二人きりにあまりなりたくない。中学で俺を排除しようと行動していた先輩が、俺をまともに名前で呼んだのは顔を合わせて何度目までだったか。
遠畑はニヤニヤしながら俺を見ていた。
「高校に入って、すっかり
そういえば、
目の前の男のせいで湧き出てくる中学の頃の記憶に少しでも蓋をしていく。
俺は気の抜けた返答を返すと、ニヤニヤしながら彼は俺の肩を軽く押す。俺は後ろに一歩下がった。
「はあ、そうですか」
「高校では調子に乗らずに生活するんだな。あと、写真部の部長の、丸宮とも最近馴れ馴れしいみたいだが、いい加減、節度をわきまえろよ」
「どうしてでしょうか?」
俺の問に、素直に言うことも聞けないのかとイラっとした顔をした彼にもう一度尋ねれば、
「どうしてでしょう」
「あいつは良いやつだから、お前は勘違いしているかもしれんが、所詮お前は部活の後輩だ」
「確かに部活の後輩ですね」
「……わからんやつだな。あいつの厚意に甘えるのは辞めるんだな。俺はあいつとクラスで良く話すが、人が良いせいで男子から良く勘違いされるんだ」
「部長には好意でいつもよくしてもらってますが、嫌われないように気をつけます」
「ふん、分かれば良いんだよ。とっとと行け」
俺は逃げるように廊下を歩きだす。追ってこなかったのでホッとした。しばらくは顔を合わせることになるのだろうか。その部分だけが憂鬱だった。
教室に戻ると、井場せんりさんに
「私はこれで、ご機嫌よう」
流れるように止まること無く
俺にようやく気づいたように顔を向けた。黒髪がさらさらと流れて、困惑しながら俺を見上げた。
「井場さん、
「あ、折川君。いえ、茶道部の茶会で
「
「いえ、そういう訳ではなかったと思うんですが、
「それで受けたほうが良いか断ったほうが良いか迷ってたの?」
「いいえ! なんというか、もう決定事項言いますか、一応連絡先も交換させていただいて、今度の土曜日に貸す着物を合わせましょうと」
「ああ、そうなんだ。結構強引だね。でも、借りれるなら良かったんじゃないかな?」
「そんな恐れ多い! でも、もう断るわけにも」
「はは、諦めて厚意を素直に受ければ良いんじゃないかな」
「それまで意識してなかったのに、いきなり系列に所属してるからと言われて驚きました」
うーん、いきなり突拍子もなく切り込みすぎだと思うが、
「とりあえず学校で予定なければ、いつまでも教室に残ってるわけにも行かないし、外でようか」
「え、あ、はい!」
お互いにカバンを持って彼女を伴って外に出る。彼女の帰り道を聞いて、近くにチェーン店のカフェがあるのでルートを伝えて向かう。
今日の授業の話をつらつらしていれば、カフェに到着して向かいあって座る。
彼女は手慣れてますねと小さな声で呟いた。
「昨日も話題になったけど、茶道部だと茶会に
「そうなんですよねぇ。うーん、昨日はあんまり話すことじゃないと思って言いませんでしたけど、私としては参加するんだぁって気持ちなんですけど、特に
「まあ、そうだよね。実際茶道部のイベントなんだし、わざわざ部員じゃない人呼ばなくても良いもんね」
「私、今回は
「そんな高いんだ?」
「もっと安いのがあるかもしれないんですけど、昨日、折川君と話してから茶道部に行ってみんなと話してると……。
その、気を悪くしないで欲しいんですけど、
井場さんも女子なんだなぁとしっかり感じられた。他の女子と比べて見劣りするのに羞恥があるのだろう。しかも、少しの差ならまだしも、住道家関係者と自分という差が歴然と出てしまう。
ちらりと井場さんは俺をうかがうように見る。警戒している時は学校で過ごす
「……ああ、ちょっとそれは過剰だね。
「……私は何も言いませんけど」
学生として学校内において、家の派閥のような活動など嫌っていたと思うのだが。
「それで
「そう、ですね。
「周りとはさておき、井場さんは何色が似合うかなぁ」
「えぇ、いきなり何ですか、藪から棒に」
「いや、そういうの考えない?
「ふふ、妹さんもいるんですか? どうりで女子とは気軽に話してると思いました」
「結構、妹がわがままで振り回されてるよ。井場さんは紫系統が似合うと思うけど、いつもはどんな色好きなの?」
俺がコーヒーを一口飲んでから笑顔でそんな事を聞くと、彼女も苦笑いをしながらそうですねぇと答えてくれる。
久々に憂いの無い会話は思ったよりもはずみ、俺はスマホのアラートで時間がまずいことに気づいた。
「もうこんな時間だ。かなり遅くまで引き止めてごめん」
「いいえ、私もちょっと話し過ぎました。私も今日は帰り早いかもって言ってたので、急がないと」
井場さんを家まで送り届け彼女が住むマンションの前で別れる。ここから家までは自転車で飛ばせばなんとか時間に間に合うなと俺は自転車のペダルを勢いよく回すために足に力を入れた。
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