107話 未読のメッセージ
スマホでニュースサイトを巡りながら、ただ人を待つ時間が過ぎていく。どれぐらい経っただろうか。開けた窓から吹き込む風は変わらない。俺のそんな覚悟を込めた気持ちは、叶えられることはなかった。
コンコンコン。
軽快な音だ。ノックがされた。
「どうもこんにちは、
窓から吹き込んだ風が藍色の髪を揺らす。藍色の瞳が俺を覗き込んでいた。誰だったか、全く名前が出てこない。
「こんにちは、えっと、生徒会長の」
「本当に腰巾着さんは人の名前も覚えられないんですね」
「……すみません。
「知ってますよ、
「どうぞ?」
何をしに来たのだろう。俺は押し切られる形で、彼女を部室に入れた。結局名乗ってもらってないので、名前がわからない。とりあえず生徒会長と呼んでおこう。
残念ながら、お茶など出せないので、パイプ椅子に座って貰うだけだ。テーブルを挟んで向かい合う形で座った。鋭い目つきをした端正な顔の少女が、俺を似つかわしくない、にこやかな笑みで見つめてくる。
「すみません、それで生徒会長が写真部の部室へ何の用でしょうか?」
「写真部の活動について、以前はもっと活発だったと先輩たちから聞いています」
「……俺は一年生で入った時から
「そうなんですか? それは大変ですね。なので、私も生徒会の末席で手伝いをさせていただいた時に、今の部長さんとしか顔を合わせたことがないんですよね」
そうなんですかとしか言いようがない。俺が困惑しているのを見ながら、それを嬉しそうに目の前の生徒会長は話を続ける。
「幽霊部員ばかりの状況にはなっていますが、今はまだ真面目に活動されているとは思います。けれど、どうなのでしょうか。十月上旬にある文化祭ですが、去年までは文化祭において、写真部に写真を撮影していただけましたが、今年のこの人数では難しいかもしれませんね」
パサリと一枚の紙が出される。しみじみ見ると、そこには
「……そう、かもしれないですね」
この高校は十月上旬に文化祭をして、十月の中旬から下旬に体育祭をする。一番の理由は夏の暑さと、九月下旬から十月にある季節の移り変わりにある雨の時期を避けるためだ。そして、文化祭が十二月では文化部の引退の影響を考えると開催が遅すぎるため、あえて十月上旬に行っているらしい。
生徒会長として大変なのだろうと目の前の先輩を見つめる。彼女は俺の視線を受けてから、頬を赤くした。怒りだろうか。撮影旅行の際に顔を会わせた時も俺が名前を覚えていないことを不快そうにしていた。
「現在の状況について、幽霊部員だとはばかり無く発言していた写真部の部員さんに状況について話を聞きました。今は、こちらのメンバーしか活動していないようですね。そして、彼らと個別に話をしました。聞いたところ、復帰する予定はないと聞いています。現在の人員を考えると、部活の体をなしていません」
「活動実績の乏しい部員を抱える部活は、いくつもあると思いますが」
「あら、そうなのですか? 私は過分にして把握しておりませんが、
「文芸部は部員の人に話を聞いたところ、同じように」
「腰巾着さんはいつも用意周到ですね。
あちらは学校行事に影響を与えませんからね。それに、こちらは四人、あちらは五名以上は不定期でも活動していますよ」
「それは――」
しっかり調査済みらしい。俺はぐうの音も出ない。写真部を話題にしているのは、先程言った通り学校行儀に写真を残す係として活動してもらうためもあるのだろう。
「写真部が居ると、行事の撮影を外部にお願いするのが難しくなります。例えばこれが事務員の方へのお願いであれば、一定期間在籍していただけるので安定するのでしょうが、今回のように生徒に依存すると、部活に問題が会った場合に人員の安定がなくなってしまいます。実際、部長の方が問題を起こした結果でしょうが、」
「部活に問題は起きてません!」
俺はそこは強く否定する。写真部が問題を起こしているのではなく、男子たちが部活動の仲間という視点を無視して、不満を持って幽霊部員になった。
俺が大きな声で遮ったことに、彼女は驚いた顔をして、不満げな表情をした。
「そうでしょうか? 部長であるなら、部員たちがそれまで活動していたのに一斉に幽霊部員になるような事態を避けるべきでは?」
「それは」
無理だ。男子部員たちの一方的な好意に対して、
「はぁー、とりあえず、長々と話してしまいましたが。生徒会からの決定は」
「決定? 決定事項ですか」
「遮らないで下さい。さて、決定事項としては、写真部は今年の文化祭を終了後に、実際活動部員が三名となるため、廃部とします。文化祭まで待つのは、文化部としての最後の活動実績も無いまま廃部とするのは忍びないという温情です」
「いや、いきなり廃部なんて」
「顧問の先生からも話を聞いてます。顧問の先生もあまり熱心でなく、ほとんど活動報告と部費の明細について承認をするだけらしいですね。顧問の先生も廃部となっても、影響が無ければいいという話でした。写真部が行っていた学校内の撮影や、行事の学生たちの活動の撮影については、生徒会と事務員が行います」
「生徒会がって、今までこちらにお願いしてたと聞いてますが」
「そうですよ? だから、廃部となるので一旦生徒会も写真部が作業していた物を手伝います」
「いや」
「だから、
「いや、生徒会長」
「あと、私の名前は生徒会長ではありません。
「すみません」
「
立ち止まってこちらをくるりと向いた
「廃部は決定じきょう、ですが? 写真部最後の文化祭、し、しっかりするのが一番じゃないかと思いますよ」
真っ赤な顔のまま、歩く彼女の背に、名前を呼んでも、もう彼女は応じる気は無いみたいだった。あっさりと出ていった生徒会長を見送り、俺はスマホを見る。
「未読、か」
結局
それは
風が吹き込む部室は物悲しく時間が過ぎていく。誰も、居ない。俺を出迎えた
下校時間になってしまう。俺は外に出た。廊下は帰り支度を終えて、騒がしい学生たちが時折通り過ぎていく。
「文化祭の準備しなくっちゃ~」「夏休み明けたらすぐなんですね」「一ヶ月あるから余裕余裕」「夏休みで準備完了済みだから」
わいわいとグループで話している彼らが羨ましかった。
俺にとって、写真部の
――――――――――――――――――――――――――――――――
第三章はこれで終わりです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
次回は書き溜めが出来ましたら更新させていただきます。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願いいたします】
「面白そう!」「続きが気になる!」と少しでも思って頂けたらポイント評価をよろしくお願いします!
☆☆☆とフォローで応援いただければ幸いです。
皆さんの応援が執筆の原動力となりますので、何卒よろしくお願いします!
幼馴染にフラれたから次からは勘違いせずに女の子と良い距離感で過ごしたいと思います 紅島涼秋 @akashima-szak
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幼馴染にフラれたから次からは勘違いせずに女の子と良い距離感で過ごしたいと思いますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます