第29話 私の婚約者という噂
俺の手をあらっぽく振りほどく。
「もう良いだろう、離せ!」
「ああ、申し訳ない。それで棚田さんはあんなタイミングで
「お前が
「なんだそれ。誤解だ。俺はそもそんな噂を初めて知った。俺として
「お前はどれだけ
ああ、失敗したなと思っていた。こういう時は放っておけば頭が冷えるものだが、会話して熱くなる対象の俺が傍にいることで棚田はヒートアップしてしまうのだ。俺は努めて冷静な声を出そうとする。
「待ってくれ、俺は
「だから、違うと言っているだろう! 最近になって仲良くしている異性が居ると
「それは中学まで異性の友人が少なかったから、友人が出来たと喜んで話題にだしているだけだろう。学生であれば、学校の友人の話題になるのはよくあることじゃないのか?」
「そ、それは話題になるのはそうだが」
「やっぱりな。だから、
俺が穏やかな口調を意地しつつも棚田に言葉を差し込ませないように、一方的にまくし立てていれば授業のチャイムが鳴る。
「まずい、遅刻だ。棚田さんも
俺は彼の静止を聞かずに自分の教室へ向かって走り出した。なんとか教師がやって来る前に教室に戻ることが出来たが、俺が教室に姿を表すとヒソヒソと話す一部のクラスメイトが目についた。やっぱり棚田のしたことのせいで変なイメージで語られてしまいそうだ。俺は少しげんなりしながら自席につくと、前と隣、
「今、良いですの? 二人きりで話せませんか」
放課後になってすぐ
「棚田さんは部活に入っているので来ないと思いますの」
「ああ、そうなんだ。よく知ってるね」
「ち、違います! お話した時に一方的に伝えられただけで、特別に二人で話すわけではないですわ」
「うん、気にしてないよ。じゃあ、ちょっと人の少ないところに行こう」
俺たちはクラスメイトの野次馬のような視線を浴びながら、人気のないところへ向かう。わざと階段を経由したりすれば、後をついて来ようとした連中は、俺が振り返ることで徐々に脱落していき無事、ほぼ彼女と二人きりになることに成功する。
校舎の最上階の特別教室が多く並ぶ廊下は、夕方には用事がある生徒がいないため閑散としている。俺は廊下の窓を開けて、外を見た。避難場所として設定されていることもあって少しだけ小高い見下ろす形になる高校からは町並みが眼前に広がっている。
入り込んだ風が自身の髪を揺らすのを
「俺は気にしてない。ああいう噂に振り回されても、結局良いことなんて無いよ」
「それはそう、だと思いますわ。けれど」
「中学の時に
ほんの数ヶ月まで中学生だったのだ。高校生と呼ばれる立場になっただけで、そのような思い込みの噂が生まれない世界になるわけがない。
「私はその、棚田さんが別のクラスでしたが、中学の頃はわざわざクラスに来て話すこともあり、それを見た周りが一時期変に噂にすることはありました。そういう事があると、彼との関係は
「ああ、家の事情ね。棚田さんは
「そうなんですが、……尚順さんは存外、そういうのに敏いのですの?」
「中学の時にそういうのが目立ったから知っているだけだよ。ははは、でも俺と
「それ。その、ひ、尚順さんが私の婚約者という噂ですが!!」
「そ、そういうのはまだ早いですわよね」
「うーん、そうだね。
「ええ、私もそう思っています。けれど」
「俺たちは今まで通りで良いと思う。今の関係について変に消そうと躍起になったり、話題になったから答えようとするほうが、周りは思い込みを加速させるだけだよ」
「……その、尚順さんは余裕があるのですわね」
「ははは、
「もう!」
答えようとしたところに、ポケットに入れていたスマホが震えた。俺は空いている手でスマホを取り出すと、何故か
そんな一面に微笑んでから、スマホを見れば
「ごめん、俺部活に行かないと」
「あ、写真部ですわよね。あの、尚順さんは写真部に毎日行きますけれど、そんなに活動があるんですの?」
「あるんだ。写真は大きなイベントだけじゃなく、日々の積み重ねが大事だから」
俺は笑って、教室に戻ろう? といえば、彼女は迷いながらも同意する。教室に行ってカメラを取りに行かなければならないからだ。
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