第30話 撮影旅行に行きませんか
教室は用事のないクラスメイトぐらいしかおらず、すっかり閑散としていた。男子学生がちょうど入れ違いに教室を出ていけば、一人の男子は本を読んでおり、女子は
俺は
男子学生も本をパタリと閉じて、時計を確認して慌てた風に教室をでていった。
金髪がさらさらと不安げに揺れて、少し暗い色に沈んだ瞳が俺を見上げた。
「噂、大丈夫?」
彼女は言葉少なにそう聞いた。大丈夫という言葉の範囲が曖昧で判断に俺は迷って考える。
彼女には毎朝、助けられた私もひさ君を助けるといつも言っていた。
何かしら俺を助けたいと思っているのだろう。俺は少しだけ悩んでから、しっかりと頷いて応える。
「大丈夫、
「そっか、なら良いんだ。でも、困っちゃうよね、こういうの。あーちゃんは良い子だけど、お嬢様だからかな、そういう風にあたしが良く話すクラスメイトも噂しちゃって、ひさ君とはそんな関係じゃないって言っておかないと駄目でしょ?」
「
「あー、うん。あたしも中学時代に、ほら、こういう髪してるでしょ? だから、変なタイプに良く言い寄られちゃって。あ、もちろん何にも無かったんだよ?」
「大丈夫、
前に
あれから
おそらく、告白、とかそういう呼び出しがあったのだろう。
「可愛いって、ひさ君はさぁ。そういう事を他にも言うから勘違いしちゃうんじゃないかな?」
「そんなことは無いと思うけど。誰だって、可愛いって言われただけで勘違いなんてしないよ」
「うーん。……それであーちゃんとはどうするの?」
「うん? 友達だからちゃんと
「ひさ君って結構あーちゃんに気を使うよね。どうして?」
「そうだな……。小学と中学の頃の
俺の返答にうつむいて考えるようにしてから、明るい笑顔で
「そっか、うん、そっか! わかったし! あたしもあーちゃんとは噂気にせず仲良くする!」
「
俺は
俺は彼女が何度も強く試しにと言ってくるので、そんなに気になるのかと撫でてから、たまに頭を撫でて褒めてほしいアピールをするようになった。
バイトの時の対応に上手くいった時が一番わかりやすかった。
「うん! よし! わかった、あたしに任せて!」
「いや、そんなに張りきらなくて良いよ、今まで通り仲良くしよう」
「あははは、そうだったし! それじゃあ、あたし帰るね! また明日!」
「また明日」
彼女は満足そうに帰って、俺はまた
たどり着いた部室で、むすーっと可愛らしく不機嫌アピールしている
彼女が専有しているソファの傍にあるパイプ椅子に俺は座る。最近の俺の定位置だ。彼女が写真の整理でパソコン作業中は向かい側にいけと追い出される程度の定位置だが。
「遅れてすみません」
「毎日部室来ます! と、宣言したのは折川君だろう。とても遅れるなら言ってほしいな」
「本当にすみません。ちょっと捕まっちゃって」
「何かあったのかい?」
先程までのむすーっとした表情が霧散して、心配そうな表情で俺を覗き込む。心配されるのは嬉しいが、周りが噂で盛り上がっていただけの些細な内容で
「ちょっと気になることがあって、それで考えてたんですけどもう少しでゴールデンウィークですよね」
「ゴールデンウィークだねー。一昨年も去年も私は家の手伝いと言う名のバイトだったなぁ」
「よかったら撮影旅行行きませんか」
俺は努めて緊張を隠して、気楽な内容であるとアピールするように軽く言った。
「撮影旅行? ゴールデンウィークにかな」
「はい、行ってもらえませんか?」
「撮影旅行か~」
二人ぼっちの部室だ。彼女が考え始め俺が黙り込むと途端に外から飛び込んでくる音以外が消えた空間となる。
写真部に入る際にも撮影旅行について俺自身は言及したが、ゴールデンウィークに写真部としての撮影旅行の話題は無かった。
写真部の撮影旅行といっても、結局今現在、最初に出会った時以外で他の部員に会えずにいるため、撮影旅行で初顔合わせとなっても気まずいと思う。
インスタに他の部員の写真は上がるので存在しているのは確かだ。しかし、こういう時に
「藤の花のある場所に一緒に行って
「うぅー、また私かい? なんだか撮影専任だったはずなのに気づけばモデルばかりしているような?」
「撮影旅行、都合が悪いでしょうか?」
彼女の疑問に答えずに俺は間髪入れずに尋ねる。彼女自身は撮影専任と言ったように一年、二年と彼女の撮ってきた写真を見せてもらえることが時折ある。古いものほど見せたくないと言われるが。
また俺が
撮影している俺の事なんて思考から消えたように、ふらっと自身のカメラを構えてシャッターを切るときがたくさんある。
俺がカメラを向けている時に、素早く彼女が動いてカメラを構えるということは一度や二度の話ではないので、実際にデータを確認すると、
ただ撮影されているという緊張で、
「う、うーん、ちょっとバイトのタイミング確認しないと。ゴールデンウィークに私と折川君が休むんだよ? 母上に休んでもいいか相談しないと何とも」
「そうですね。中学の時は年末と春休みの長いタイミングで気楽に予定を立てて旅行に行けたので、バイトの調整とか考えが足りませんでした。すみません」
「いや、写真部として近場ばかりで撮影というのも確かに学校へのアピールが足りないよね。でも、ゴールデンウィーク中は写真部の活動機会じゃないから、部費から出せないよ? 私は家の手伝いがずっとあったから、予算としては遠くなければ大丈夫だけれど」
言外にお金の心配をされてしまったので、俺は力強く頷いて大丈夫ですと答えた。彼女は本当かい? 無理してない? と不安にしながらも、声音自体は期待が見え隠れした。
「それじゃあ、場所と日にちを詰めておこう」
俺は昨日探しピックアップした藤の花のある場所をスマホのメモから彼女に見やすいように紙へ書き出していく。
それらを隣でじっくりと見る彼女と肩と肩が軽く触れる。ふんふんと頷き彼女が読んでいき、片手でスマホを操作し地図アプリで場所を検索している
そして少しの時間の検討で、場所はすんなり決めることが出来た。
「行くには県をまたぐので、ちょっと遠いですけど」
「まあ、そういうのも良いんじゃないかな?」
俺の不安に対して
バイトを休むタイミングは
それで日にちを絞って、俺はとりあえず行きたい場所から公共交通機関で向かえる金額負担の少ない宿泊施設を探す。一~二人止まりのビジネスホテルなどはもう空きの表示は見つからない。
だが、予約を取ろうと検討していた所は、周りのホテルの方がより施設が充実しているおかげか、まだ一室だけ予約が取れるようだ。
俺は覚悟を決めてホテルの予約処理をしておく。二名までの和洋室となっているホテルが取れた。
行く場所がとりあえず決まったので、交通機関のチケットも購入処理をする。
ここまでしたら行けないと浪費しただけになってしまう。とりあえず説得というか相談を頑張ろう。
「それじゃあ、君にはポートレート用の計画表を作る事を命じる! 君が行きたい。君がやりたいと言ったのだから、手抜きは許さないよ。迷ったら参考にする本はこれ」
「はい!」
当たり前のことなので、俺はポートレート用に作れと言われたノートに計画を書き込んでいく。
撮影場所に到着後からの予定と、天気毎の予定もだ。当たり前だ。
晴れと曇りでも、差し込む日のあたり方が違うのだ。ましてや、どれだけ天気予報で晴れ予報となっていても、雨だった場合に計画していませんでしたは、チャンスの少ない学生には許されない。
そして、
彼女と撮影旅行という形とはいえ、二人きりでたくさん話す機会が生まれるこの旅行にワクワクしていた。
今日中に
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