第5話 学級委員長

 早速授業が始まるかと思いきや、まずは係決めが必要らしかった。この学校は生徒数が多い。その生徒数を内包するために校舎も広く何でもお金を払って業者にやってもらうということはできない。そのため自主自立という名目で多種多様な事柄が生徒たちに委ねられていた。うーん、経費削減だな。

 校舎内での掲示もそうだ。

 先生たちだけでは手が回らず、クラスごとに係をおいて持ち回りがあるらしい。通常の学校なら不満も大きな声で上がるだろう。だが、そこは生真面目な進学校だ。きっと不満を内心で抱えながらも、担任の説明に対して明確に拒否の意思を示すものはいなかった。


「それではまずこのクラスを取りまとめる学級委員長を決めたいと思います。この係は一番大変かもしれませんが、生徒会を含めて学年ごとに一番顔が広くなる係だと思います。積極的に参加してください」


 まず担任から告げられて最初に決められるのが、学級委員長だった。これは一年間変更がない前提で決まる係だ。その理由としては、体育祭文化祭だけではなく多くのイベントごとがまんべんなくあるため、半年交代にすると、説明が大変になってしまうからだった。

 イベントや担任のフォローなどクラス内を円滑に回すために活動するために学級委員長は男女それぞれ一名ずつとなっている。

 中学の頃は誰もやりたがらなかったなと思いながら、俺は少しだけ卑屈な動きで手を上げた。

 そして、気づけば俺の前の席の人物も流れるように手を上げていた。俺とは違いまっすぐと綺麗な所作で手が挙げられており、後ろから見える所作は美しかった。俺とは違いしっかりと自分に迷いの無い自信のある姿勢だった。


住道すみのどうさんと、折川さんありがとう。他にいなさそうなら、」

「はい!」


 出遅れたように手を挙げる男子生徒がいたが、仕事内容を改めて担任が説明したことで、部活があるからと結局諦めていった。女子は住道すみのどうさんの凛とした雰囲気に当てられたのか新たな立候補者はおらず、無難に最初に手を上げた俺と住道すみのどうさんに決まったのだった。

 担任から促されて、学級委員長となった俺たちがその後は係決めを回していった。


「折川尚順です。一年間と考えると長く担当することになると思うが、困ったことがあれば相談してくれれば、なるべく頑張ろうと思う。解決できるとは確約できないが、よろしくお願いします」

住道すみのどう鳳蝶あげはです。まさかすぐに担当者で決まると思いませんでしたが、一年間みなさんよろしくお願いしますわ。なるべく、クラスメイトの話を聞きながら協力していきたいですの」


 一番大変そうな枠がすぐに決まったことに皆気持ちが良いのか、明るい拍手で出迎えられた。確かに中学時代は決まるまでに時間がかかって、教室の空気が重かったと思う。改めて俺たちはクラスメイトたちに向かって明るくよろしくお願いしますと告げてから、担任に言われたように係を決めていった。

 唯彩は金髪な白い肌が鮮烈なギャルのイメージとは乖離したマメな手伝いが必要となる掲示係に参加していた。風紀委員というのもあったのだが、風紀委員じゃなくて良かったと思ったのは内緒だ。

 住道すみのどうさんは俺よりも遥かに場を回すことに手慣れており、円滑に係決めは終われば、担任が嬉しそうな顔をして立ち上がる。


「とても順調でしたね。二人ともありがとう。一年間よろしくね」


 担任がその後、部活動の入部期間や諸々の昨日も受けた説明を再度行ってから、ちょうどよくホームルームの時間は終了となった。先生は時間ぴったりに終えられたことがことさら嬉しいというように頷いて、それでは今日一日がんばりましょうと締めくくったのだった。


「折川って、学級委員長立候補するキャラだったのかよ!」

「キャラってなんだ。キャラって。中学とは違うことをしようと思っていたから、一年間頑張ってみようかなと」

「うひゃー、俺は部活動があるから無理だな。先生が言ってたやるべきことって結構面倒くさそうだったけど、マジで大丈夫かよ?」

「ああ、それを聞いてやる人がいないなら、俺がやろうと思ったんだ」

「ほー、変わってるな。でも、ぶっちゃけ助かるぜ。やっぱああいうの中々決まらないしな」

「それは俺も同じだな。中学時代も空気が悪かったし、今日みたいなのはすっぱり決まったのは個人的に気持ちが良かった。これももしかしたら高校デビューってやつかもな」


 俺が苦笑すると放出はなてんは真剣な顔をして、俺に告げる。


「そんな学級委員長様にお願いがあるんだ」

「俺で解決できることならもちろん協力するぞ」

「ああ、次の授業の教科書を一緒に見せてほしい」

「……放出はなてんさぁ」

「言うな折川委員長よ。折川の協力で解決できることなんだ」

「それはそうだけだけどなぁ。初日から忘れるのは教師に目をつけられても責任は取らないぞ」

「ああ、勘違いしただけなんだ。俺は反省した。次からは全教科学校に持ってきておくから」

「はいはい、そうしておけ」


 俺はそこまで優しくないので、勉強するために持って帰れなどとは言わない。そもそもこの高校に来ている時点で頭が悪いわけではないのだ。ただ抜けているだけだろう。

 次の授業では当然のごとく教師から注意を受けた放出はなてんは素直に謝罪を行って、かつ積極的に出される問題に対して回答するために手を上げていた。


「数学は一番得意なんですよ」


 教師からの印象で減点を真っ先に受けた放出はなてんは、逆に数学教師から褒められる結果となり、立ち回りが上手いなと俺は感心してしまうのだった。

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