103話 華実「私はもうわからないんだ」
いまだ俺が自身の正しい身の振り方がわからないデートの日が来た。俺は
「二人きりですよ、恋人なんですから」
「そうだよね」
俺の言葉に
俺は彼女の手をしっかりはぐれないように握って、打ち上げ花火が行われる観覧の場所へ向かった。
移動中、無益な会話が続いた。バイト先でのこと、夏休みに過ごす日々のこと。
俺はせんりに会いすぎて出掛けないせいで、話せることが何もなかった。まさか恋人にほぼほぼセフレとエッチしていましたなんて言えるわけがない。
俺は
俺の空虚さに
「
「え、必要ないだろう。君はちゃんと持ってきてるじゃないか」
どうしてだろう。
「でも、写真部の部長だから」
「今は君の恋人だよ。だから、やっぱりカメラは必要ないね」
どうしてだろう。彼女の部屋にあったカメラの棚はとても大切そうだった。だけど、
寂しかった。
俺がパシャリと彼女の写真を撮る。
「急にどうしたんだい?」
「いえ、たった一度しかかぶらない
写真を見せる。彼女はうんうんと頷くだけで、その写真に何も言わなかった。
「あの、この写真」
「どうかした?」
だけど、
なんて空虚だろう。俺の写真を見ても、
「大切にしてね」
「はい?」
「写真、私と
思い出は分かってもらえた。だからこそ、もっと話し合いたかった。むくりと起き出した気持ちが、口から出て来る前に
「あ!
「そうです。有料席でも結構混んでますね」
「そうだねー。やっぱり花火大会は夏の一大イベントだからね」
ブルーシートと二脚の椅子が設置された場所に並んで座る。ちょっと遠いなと思って椅子を寄せると、
「私もちょっと遠いなって思ってたんだ。嬉しい」
こんなに可愛いのに、俺は
声を掛けようとして、大きな破裂音が響く。
花火が打ち上がって空を彩っていく。
俺は逃げるように空を見る。彼女も俺の動きに合わせて空を見た。
花火は思ったよりも長い演目を行い、俺たちは表向き楽しく会話をして終わった。
その間、花火を背景に何枚も彼女の写真を撮った。可愛い恋人はとても綺麗で、俺は見惚れて、なのに物足りない。
……彼女がカメラを構える真剣な横顔も好きだった。真剣さが消えて、それが見られなくなったのはいつからだろう。
彼女は俺を見て笑っていた。喜んでもらえただろうか。俺は恋人としてしっかりやれているだろうか。
だけど、演目を終えて帰りましょうかと俺が立ち上がった時に、
「……楽しくなかった?」
「え?」
「いや、何でも無いよ。ごめんね、帰ろう」
今の俺達は簡単なことも出来ずに、ただこんな風に手と身体の一部だけを触れ合って、恋人同士だと確かめ合っている。
φ
時間まで暇でふらふらと彷徨う。スマホを何度も見る。彼と会えなくて生まれる乾きを潤すすべはいつだって私には無い。
いくつかお店を見て回ってようやく時間になって、私は待ち合わせの喫茶店に向かった。
「やあ、誘ってくれてありがとう! 響花、最近良く会うね」
「……
私はさっとコーヒーを取ってきて、テーブルで響花に向かい合って座る。前から放課後によく会っていたが、夏休みも遊ばない時に顔を会わせるのが多いのは今年が初めてだ。少し雑談をしてから、響花がいつものように私に質問した。
「最近は彼氏さんとどう?」
「…………」
私は迷った。上手く行っていない。今まではそれを言わずにアドバイスを貰っていた。だけど、もう限界じゃないのか。響花のアドバイスを貰って一時的につながりが強くなって、けれど、また上手くいかなくなっている。私はどうしたら良いんだろう。ドロッとした濁りを思わせるコーヒーを一口飲んで、言葉直しをしようとするが、ひどく不快な感触に感じられた。
「……その、えっと、少し前に花火を見に一緒に行ったよ!」
「そうなんだ。楽しめた?」
「う、うん」
「あ、じゃあ、写真見せてよ」
「写真?」
「うん、撮ってるでしょ」
「え、私は別に撮ってないかな。今から
私がそう言うと響花が顔をうつむかせた。そういえば貰っていなかった。けれど、響花はどうしたんだろう。
「どうかした?」
「……
「うん、そうだね」
「じゃあなんで写真撮らなかったの? 去年は、撮ろうかなって言ってたよね」
響花が言って、思い出される。今年は花火大会行けなかったから、来年は撮りたいなと話していた思い出がある。ぼんやりとした気持ちでその時の事が思い出された。
「ああ、そういえばそうだった」
「
「……変、じゃないよ」
「だって、カメラ持ち歩かなくなった」
だってそれは、彼女として可愛いコーデをするとカメラを持てないから仕方がない。
「彼女として可愛い服とか選ぶとさ、カメラは持てないんだよね」
「そんなの
ひどく大きな声で言われて私はびっくりした。響花がこんな大きな声を出すのは、記憶にある限り無い。
「私、
本当は
「……言いたくなかったけど、
響花が私の言葉に対して、申し訳無さそうな声でスマホを見せる。咄嗟に私は分かった。見てはいけないものだと感じた。だけど、気になった私の目はどうやってもそらすことは出来ず、響花のスマホの画面を見てしまう。
「ああ……」
旅行先で見た作りの内装だ。嬉しくて悲しくて、忘れるわけがない夏の撮影旅行の宿泊先。尚順君がハーフアップの少女と抱き締め合っている。
目の前の親友にどう取り繕おう。しかし、申し訳無さそうな顔をしながらも強い光を宿した目をした響花が私を見ていた。
「住道さんを問い詰めたら、――」
『住道さん、ずっと前から、彼とホテル――行って――。何か悪い――、って言われて――』
思考が止まっても途切れ途切れに何度も響花の話した内容が頭の中で繰り返されてしまう。聞きたくないのに。思い出したくないのに。
エッチしていれば私以外を見ない人であればいいのに。だけど、そんな人を私はきっと好きにならなかった。だから、私はわからない。
君に伝えた、愛とはなんだろう。君が伝えた、愛とはなんだろう。
私はもうわからないんだ。
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