第76話 寄り添う時間
「折川、今からと明日、武道場の手伝いをよろしく頼む」
茶会の開催日が明後日にせまった最中、無遠慮に部室の扉を開いた
少々乱暴に開けられた扉の音に、
「俺はかまいませんけど」
「いきなり不躾じゃないか
「茶道部は女所帯だ。写真部の男手を借りようしたら、一人しかいなくなったから仕方ないだろう」
俺はどうせ言っても聞かないのだからと諦めて立ち上がった。
「部長、
「……まあ、折川がそうするんなら私は止めないけど」
「いってらっしゃい」
廊下でイライラと待っている
「俺と会ってイライラするなら会わないほうが良いんじゃないですか」
「チッ。……ならこの高校をお前が辞めてくれたらイライラしなくなるんだがな」
「はぁ、無理ですね」
「そういうところがイラつくんだがな。もう少し謙虚になれないのか?」
……いや、自分を排除し蔑ろにしてきた人間に対してかなり謙虚な対応をしているつもりだったのだが、目の前から消えろと言われても純粋に困る。
本当にこの人は、昔から周りに目がある時と無い時で態度が違いすぎる。男友達が全く居ない俺では
クラスで表向き気さくに穏やかに他人に対応している姿を見てる時は、別人かと思ったほどだ。
「それで何を手伝えば良いんでしょうか?」
「うん、ああ、まずは明日畳を搬入して敷いてもらうために今日は武道場の徹底掃除だ。頑張ってくれ。明日も畳を搬入したら掃除だがな」
そう言って
二日も武道場を使えなくなる運動部には申し訳ないな。大会も近い時期だろう。こういうのを考えると、茶会というイベントのタイミングと場所の確保というのは難しいなと思う。特に茶道部は女子しかいないので、生徒会が挟まらないと毎年のことでも揉めるのだろうなと思ってしまう。
茶道部の女子たちがすでに集まっていた。俺はそこへ走り寄る。
「尚順さん、どうかしましたの!?」
「ああ、生徒会の
「まあ、そうなんですの!? お手を借りれるのは助かりますけれど、武道場の掃除をするぐらいですし」
「良いよ。迷惑じゃないところで、
「部長、よろしいでしょうか?」
「あーうん、まあじゃあ、
この部長もなんだか対応に困ると言った表情でそのまま丸投げしてしまった。しかし、それに反して
しかし、彼女の周りに集まっている女子は張り切っている
「じゃあ、指示役が
「そうですね」「わかりました」「それがいいですよね!」
確かに
茶道部でも中学時代は元運動部がいたので、慣れた人が教えていた。
せっせと
周りの女子とも必要なコミュニケーションしか取らなければ、
……まあ、すでに三週間ほど
あの、「私のほうが
本当に変わった。唯彩は不思議そうに鳳蝶の変化を見ていたが、周りのクラスメイトや、今、
明日のイベント用の敷畳の搬入に向けた武道場の掃除が終わり、茶道部の女性達も早々に打ち合わせのために茶室という名の部室へ帰っていく。俺はそちらへ行くわけには行かないので写真部に行こうと思ったが、
本当に先輩は変わってしまった。どうしてだろう。
すれ違ってしまう。肉体関係で彼女の中では俺との関係がすべて円満に回っているということなのか。だったら、俺は恋人のその考えを尊重しなければいけない。つぶやく言葉は力がなかった。
「家に帰ろう」
物足りない気持ちのまま家に帰れば、心地よい足音が俺を出迎える。いつも居てくれることでホッとする。嬉しくなる。居てほしいと願ってしまう。
「おかえり、尚順、今日、料理、頑張った」
楽しみにして? そんな顔でコテンと首をかしげた可愛い
夕食後、いつものように
真っ暗にするわけにも行かないので、莉念が勝手に間接照明を持ち込んで設置した。部屋のこの薄暗さが莉念の好みなんだろう。
「茶会、明後日だな」
「うん、ちょっと、面倒」
「まあ、無関係なのに人もたくさん来るし」
「お嬢様モード、面倒」
「ははっ、モードって何」
つい笑ってしまった。自身の冗談への俺の反応が嬉しかったのか、
どんどんとこの時間が大切になっている気がする。どうしてだろう。今はどうしようもなくこの二人きりで寄り添う時間が大切なんだ。
写真を撮りたいと言った。
「いつでも、良いよ」
莉念が笑顔で応じる。
俺たち幼馴染の家族同然の毎日の生活。
たとえ毎日繰り返されるものであって、ありきたりと言われるようにるかもしれないものであっても、寄り添い合って過ごしているという大切な思い出の一枚の写真。
手を繋いだ。俺は君が好きだ。だから、好きな人の思い出をこんな風に毎日大切にしていきたい。
毎日、惰性でも会話もない一瞬でも良い。好きな人とただ毎日顔を合わせて、二人きりでそばにいる時間を作るのが、俺が好きな人と望む過ごし方だから。
それを君が教えてくれた。
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