第58話 火傷するから
朝の教室で、いつものように清楚な少女が俺の隣の席で静かに本を読んでいる。この姿だけは本当にかけがえのない場面で、俺にとってはこの姿のまま彼女と友人でありたかった。
「おはよう、
「尚順さん! おはようございますの」
「今日も早いね? 昨日は夜遅くまで電話したけど、すぐに眠れた?」
「はいですの。私もあんな遅くまで電話してしまって、申し訳有りませんでした」
「良いよ、
俺が笑顔でそういうとホッとしたような顔をして
「珍しいな」
「そう、ですわね」
彼ら二人は伴だって俺と
「おはよう、棚田君、田中君」
「ああ、おはよう」
「おはようございますの」
「おはようございます、
「どうかしたの?」
「いや、
「お引取り願おうって、俺は自分の席に座ってるだけだが?」
素直に驚く。朝の学校に来て自分の席について隣の友人と話しているだけで、帰れとはどこのパーティー会場だ。
「尚順さん」
「ああ、ごめん。
「コホン。いや、こちらこそ不躾だった。それで
「どうかされましたの、珍しいですわね」
「ええ、土日に話す機会が無かったので。金曜日に茶道部の知人から聞いたのですが、茶会という催しがあると聞いたのですが」
「ええ、ありますわね。それがどうかしまして? まだ関係する学生向け以外には出てないですけれど」
「良い機会なのでぜひ参加させてもらえればと」
困惑した顔で
俺はため息をつきたくなったが、棚田と田中が割り込むなという雰囲気を作っているので、
「ええ、参加するのは構わないと思いますけれど、茶道部の催しで今はまだ関係学生で準備段階ですの。それに別のタイミングで参加希望者の人数を把握するために集める予定ですわ」
「そ、そうですか」
何故かひどく当てが外れたような態度を見せる。俺と
もしかしたら、
「そ、それで
「茶会は茶道部の催しで」
「けれど!」
棚田が大きな声を出して、
「棚田君、良くないよ」
「お前、また邪魔をして」
「棚田さん、尚順さんにご迷惑をかけないでください」
強く、鋭い声が飛んだ。棚田が今度はびっくりした顔をする。
「結局、私、わからないままですの。棚田さんは何を希望しているのでしょうか?」
「……生徒会の
「ええ、最近茶道部に良く顔を出されてましてお話しますわね」
「その
「……そんなことまで話して。そうですわね。それが?」
「
「偶然、同じ年の子供がいて、さらに偶然高校が同じになったお方と何をしようというんですの。私としては日頃関わりもありませんでしたし、今回の茶会でも学生らしく交流するだけですの」
「そうとしても! グループの関係者との結束はしっかりアピールすべきです」
それか、まだ秘密に事を進めているのかもしれない。実際、にこやかな笑顔で誤魔化しつつ
確かに
「はぁ。棚田さんは
「おわかりいただけますか! それならばぜひ俺と田中を加えて」
「検討しますけれど、女性の服に男が口を出すものではありませんわ」
学校内で派閥などという物を作ってほしくはないが、もうここまで
「棚田君、そして田中君も。安易に女性の服装に口を出すと火傷するから止めたが方が良いよ」
「い、委員長はなんでそんな賢し顔で」
「あははは、妹で慣れてるからね。田中君も気をつけたほうが良いよ。女性の服に知識もセンスも無いのに変に口を出すと恨まれるからね。俺はそれで妹に一時期いつも文句を言われたから反省してもう妹には言わないから」
俺が肩をすくめながら冗談めかして言うと、田中は感心するように頷く。棚田は不快そうに鼻鳴らした。
「とりあえず、そういうことですの。奥方でもない方の服装に口を出すなんてよろしくないですわ」
「
「棚田さんも用事が終わったら私を開放してくださいませ。私だって月曜日の朝を気持ちよく過ごしたい心持ちはありますわ」
つれなく拒否されて明確に黙ってどこか行けと言われたことで、棚田が少々情けない顔をしてからすごすごと退散する。
田中が
個人的に許されるのであれば……。
「朝から騒がしくして申し訳ありません」
「いいよ、
「そう、ですわね。私としても
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