91話 華実「撮影旅行楽しもうね」
列車を乗り継いで行く。
「すっかり田舎だねぇ」
「電波、とーっても悪いですね」
「通ってるのが山間部とトンネルだから、それはそうだろうね。開けたところに出れば大丈夫になるよ」
「スマホ依存症改善になりますね」
「
「私、電波繋がらなくても電子書籍読むから」
旅路は、
せんりがにこやかな笑顔で
……俺はどうしてこんな事になったんだろう。
にこやかな空間で、俺は、この三人共に向き合うのに苦痛を感じている。誤魔化していた。だが、列車のボックス席で座る間、俺は苦痛だった。
たまにスマホを起動して、
「そういえば、みんなは夏休みは充実してたのかい?」
「私は毎日学校の補講がありましたが、午後は自由だったのでかなり充実してましたね~」
「私は、図書館で本読めるんで別に」
「あれ
「成績悪くないので、最近読書も少ないし好みの本でも読もうかなと」
「ふーん、でも、毎日部室開けてって連絡来ていなかったけど、大丈夫だった?」
「私、図書委員なので放課後は図書室に」
「あれ、そうだったんだ。知らなかった。俺の同じクラスの田中君にたまに図書室手伝わされたんだけど」
田中に図書室の整理を偶に手伝ったが、その時は
「田中? ああ、
「「ああ~」」
何故か俺以外の
「男子ってそういう所あるよね。どうせ、
「はあ、当然、ほぼ無視だったりされてましたね。ホント、困ります」
「わかりますねぇ」
せんりが力強く頷いている。
「私もねぇ、前髪で顔隠してた頃は一部の男子だけだったけど、めんどくさいから前髪ばっさり切った後から、いきなりそういうの増えたからね~。分かるなぁ」
「しかも、声を掛けてくるのが、それまで関係の無い連中が大半だったりするから、困ります。私、陽キャ苦手なので。
「ひどい! ひどいよ! 私、全然陽キャじゃないからね!」
俺としては、大量に告白を受ける
「でも、
「うん? えぇぇ、響花がそんなこと言ってたの? 私、モテないよ」
ちらっと俺を見ながら答えた
「えぇ~、永森部長はそんな風に言ってなかったですよぉ」
せんりが楽しげに言うのを、
俺はせんりを止める。
「あははは、今は俺と付き合ってるから、モテてもモテて無くてもあんまり関係ないんじゃないかな」
「
「まあー、たしかにそうですねぇ。それでもガツガツ声を掛けてくる男子によく友達が困ってるって言ってますね。
「まあ、たしかにそうかもね」
せんりが笑顔で俺を見た。
「せんりは別のクラスの滝谷君とは仲が良いんじゃないの?」
「えぇ~、そんなのは無いですね」
「でも、夏休み、たまにみんなで遊びに出掛けてるってせんり自体が言ってたでしょ」
「へぇ、井場ちゃんも良い人が居るんだね」
「もう違いますよ! 中学時代の友達です。なんというか、懐かしさで週一ぐらいで集まるんですよね。結構面白いですよ、やっぱりうちの高校は授業のスピード早くて比較する大変だなぁとかわかります」
「ああ、それは確かに私も高一の時に中学時代の友達と話す機会があったら感じたね」
「ですよねですよね!」
「でも、私は男子の友達いなかったからな~。写真部で井場ちゃんが一番モテエピソードが多そうだよね」
「もうモテエピソードって何ですか!」
「陸上部の頃にそんなこと無かったの?」
「えぇ。中学の頃は、もうトラウマの影響でそんなこと考える余裕が無くて、」
「え! ご、ごめん。嫌なことってあるよね……」
「いえいえ、良いんです。陸上部辞めてから暇だったんで、勉強したらこの高校に入ったんですけど、頑張って良かったなぁって」
「そうなのかい?」
「いい人達ばかりですから」
「そうかい」
車内放送で目的駅の到着を告げる。俺たちは手持ちの荷物を確認し合う。
「か、かかかかか、返して! 中身見たらぶっ叩くわよ!」
「
「ち、違うわよ!」
素直にすぐに返すと、顔を真っ赤にしながらスマホをしっかりと握りしめて
「本当にごめんって、降りるから荷物持ってくれ」
「つ、次触ったら許さないから!」
「はいはい、
列車が停まって俺たちは駅に降り立つ。
「海の香りがするね~」
小さな田舎の駅舎から出る。小高い場所に作られた駅舎から除く海の景色を全員で見れば、夏らしさを感じた。
人はほぼ居ないのは、次の駅が大きな駅で本来はそこで降りる人が多いからだろう。海の見える位置に、みんなに声を掛ける。
「みんなの写真撮りたいんで、並んでくださいよ。あと、一人づつも撮りましょうか」
「良いね。あとは、
「あー、それならみんなそれぞれみんなのパターンでツーショットもいいですね。お試しでやりましょう」
良かったと安堵する。
たとえ
写真を撮り終わり、駅舎のある場所からゆっくりと下っていく。俺たちしか駅には降りなかったが、降った先にある小さな駐車場代わりの空き地に車が停まっている。
みんなはわざわざ迎えの車があるの助かるねと笑顔だった。本当は
「お待ちしておりました」
「こんにちは、今日はよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
運転手の男性に俺が率先して声を掛ける。運転手自身は何度か会ったことがあるので、俺は苦笑いだ。向こうは仕事と割り切っているのか、やはりこいつかと言った目で見てくる。
学校で
本館は大都会のホテルと比較するとこじんまりとしているが、三階建ての別邸型と周辺にグランピングにも使用可能な複数のコテージが並んでおり、色んな雰囲気を楽しめるホテルとなっているようだ。
受付自体はホテルのフロントで行っており、すんなり通された別邸の三階に荷物を運び入れる。一階と二階にも部屋があるが、三階は直通のエレベーターを使う前提だ。
「えぇぇ、なにこれ、私もびっくり」
「いや、三階建ての別邸の三階部分ってスイートルームのみですか。ええ、大丈夫なんですかこれ」
当然庶民派の全員が通された部屋に驚愕している。俺も驚いた。
オーシャンビューのある部屋は、内湯だけでなく当然のように露天風呂も設置されている。和洋室で構成された風情ある部屋だ。ベッド二つの部屋が二部屋、布団も敷ける和室が一部屋だが、居間に当たる部屋も和室であり、そこにもテーブルなどをどければ、押し入れにある布団を敷けば寝ることができる。
女子は
「どうしても本日、他の方々の影響で部屋の都合がつかなかったので、
「…………俺からは何も言えません」
「私からも
「こんな部屋借りられてよかったのかな?」
「まあ、相談したら
「え」
笑顔で何気なく言った瞬間、あ、と俺は思った。
「ああ、
「いや、その、俺の父親の伝手で話してたんですけど、海で、
「うんうん、たしかにね。良いんだよ。私は、
「良かった。楽しみましょう」
「だから、ね? キスして、恋人の私を確かめてよ」
俺は媚びるようにねだる彼女に、キスをして手を動かす。指が触れるたびに、彼女は身体を震わせて俺に押し付ける。せんりが自身の使う予定のベッドの部屋に通じる扉から、隙間を開けて覗いているのが視界の端に見えた。
こじんまりしたホテルと言えども、絨毯が敷かれた広めの宴会場を兼ねたホールがある。そこに各々車を使って集まった学生たちが顔を合わせる。
私は一人で来たが、他は小さなグループ毎に車で来るように指示をしていたので、当然いくつかグループが自然と出来て、逆にグループを上手く作れなかった子たちはポツポツと仲の良い人を頼っていた。
「しかしながら、
「今回は学生だけの旅行ですもの、ぞろぞろ家の車を用意させるわけにも行きませんでしょう? それに列車などで来てくださいというのも言い難いですし。
皆さんが提案されたので、ぜひ来たい方は友人と仲良く来ていただけると思っていましたの。みなさんが仲良くされていてホッとしておりますわ」
なるほど! とこちらをなんとなく持ち上げる彼らを見やりながら、スマホに連絡が来たので、一言謝り席を外す。
指示していた通りの別邸の部屋に案内しましたと報告がなされる。そちらにご苦労さまと返して、すぐにホールへ戻った。
先程まで私が中心のみなに合わせて声を掛けていたせいだろう。一旦外に出て散ったのを見て、慌てて外様の人間達が、わらわらと自分たちもちゃんと挨拶をしたいと私に寄ってくる。そんな姿に心の中でため息をついた。
「
「呼んだのではなくて、皆さんが友好を深めたい人たちで旅行という形で集まったのです。お間違えなく」
「ええ、そうですが。わざわざ夏の急なタイミングで部屋などを融通していただきありがとうございます」
「少々コテージなどの利用で手狭になって申し訳ございませんが、良くしていただければと」
「
「私は別邸の三階をまるごと借りておりますので」
「おお、それはぜひ見てみたいですね」
見たいから何だと言うのか。そこから先を言わないせいで追求しにくいが、失礼すぎて困る。たまにこんな事を平然と聞くのは何故だろう。困ってしまう。だが、そんな棚田さんが外様の一部でグループを作れて居るのを見ると、本当に彼は表向き上手くやっているなと感心してしまう。
田中さんもあの場には居なかったのに、なぜか参加出来ている。事前に棚田さんから連絡をもらっていたが困ったものだ。来ます連絡があった際に、田中さんはクラスメイトのため、私自身があの場で友人と友好をと言った手前、クラスメイトの存在を不要と断るのも難しかった。
「女性の部屋というプライベートをあまり聞くのはいけないと思いますの」
「あっと、申し訳ございません」
夏直前の生徒会選挙の結果、新たに生徒会の会長となった人物が、外様の皆を分け入るように声を掛けてくる。面倒な手合だ。だが、女性なので変に棚田さんにずっと絡まれるよりマシだろう。
確か、中学の頃はバスケ部のマネージャーのマネごとをしていると、パーティーでよく話題にしていた。
補欠の男子と仲良くなり頑張っていたから、マネージャーの真似事をしたと度々顔を赤くして言っていた記憶がある。言葉が強いタイプの子が、その時ばかりはひどく穏やかに嬉しそうだったせいで、記憶に残っていた。
「
「ええ、そちらにも行きますわね」
助かったと見るべきか、面倒な話をさせられる羽目になったと思うべきか、私はどっちとも言えなかった。
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