第47話 鳳蝶の放課後デート
「委員長、ここ教えてくれね?」
「委員長~この部分付近のノート写させて!!」
明確にテスト期間に入れば多くのクラスメイトたちがテストに向けて勉強に励むわけだが、その中で俺は可能な限りクラスメイトたちからの問い合わせに答えていく。ノートを写させてくれというのについては、教師がここらへん出すぞと言っていた部分のメモについても伝えておいた。
一ヶ月も経てばクラスメイトたちの俺たちへの扱いも落ち着いて、気兼ねなく頼ってくれるようになった。最初は遠巻きにされそうになったが、
俺はそんな状況にホッとしていた。
放課後になれば、唯彩はテスト期間でもバイトに勤しむようで早々に教室を出ていってしまう。塾の者もいれば、教室に残って学習している者など様々だ。
休み時間に細々対応できたおかげか、放課後は新しく質問やお願いが出てくることはなさそうで、俺はそわそわと俺を待っている
「うん、今日はもう大丈夫そうだ。行こうか」
「はいですの」
ふと視線を動かすと、田中の視線が刺さった。何度も迷うようにして立ち上がった瞬間に
「どうかしまして?」
「……いや、何でも無い」
用があれば追ってくるはずだが、教室を出てすぐに俺が抵抗するように一度立ち止まっても田中が廊下に出てくることはなかった。
それならば良いのだろう。
俺が立ち止まったのを不満そうな顔で
「時間がもったいないですの。行きましょう?」
「ああ、図書館に行くのかな」
下足箱が並ぶ昇降口付近にたどり着くとざわざわと学生たちが話し合う姿が見えた。俺が首をかしげるが、
ちょうど立ちふさがるように固まっていた学生たちが
「どうしたんだろうね?」
彼女は興味なさげに、どうしたのでしょうねと答えて淡々と進んでいく。靴をはいて俺が駐輪場に向かおうとしたところで俺は彼女にまた腕を取られた。
校門前にたどり着くと一時駐車可能な道路脇スペースに止まっていた高級車の側に立っていた男性がすぐに車の扉を開けた。
流れるように自然に
「ありがとうですの」
「ちょ、
「一緒に勉強してくださるとお友達との約束、守ってくださいませんの?」
懇願するような声に俺はいたたまれなくなったのと、押し問答している間にもっと騒ぎになる可能性や
「お友達と一緒のお勉強、初めてですの。とても楽しみですわ」
「……そう、それなら良かった」
唯彩もバイトの都合を聞いて誘えるなら声をかけて、
俺の内心に気づかない彼女はニコニコしながら、今日の授業で難しかったところや最近のクラスの空気が良くなったことなどを話し、そして今日のお昼のお弁当について話題に出す。
今日の昼もいつも通り教室でそれぞれお弁当を持ち寄って
「今日のだし巻き卵は上手く作れたと思いましたの」
「だし巻き卵、うん、美味しかったよ。
「うふふ、ありがとうございますわ。私、中々厨房に入れないのですけれど、料理自体は偶にしたくなってしまうぐらい好きですの」
彼女がおかずの交換の際にしきりに宣伝するように渡してきただし巻き卵を思い出そうとしたが、珍しく気合の入った自身の弁当と唯彩の弁当のおかずであまり印象に残っていない。まさか冷凍の春巻でないオリジナルの味付けをした手作りの春巻で、俺は驚いたものだった。
母は日々のルーティン作業にそこまで気合を入れる事はしないはずなのに、おそらく
唯彩のおかずは小さなハンバーグにチーズを入れた代物で、冷凍でもあるけど手作りで再現してみましたと自信満々に説明してくれた。
「その、私」
「お嬢様、着きました」
彼女がそれ以上話す前に車は緩やかに豪邸にたどり着きその前に止まる。俺たちが降りたら、少し離れた先に見えるガレージに車を片付けるのだろう。
ここはゴールデンウィークが明けた日に来たことがある。
多くは前回訪問した時と同じだった。広々とした部屋にベッドが離れて置いてあり、勉強机と思わしき立派なテーブルが壁沿いに。しかし、二人程度の人が向き合ってお茶のできるサイズのテーブルと椅子二脚がベッドの近くに置いてあり、俺はそこに座るように促された。
「少し変わったね」
「ちょっとだけお部屋を見られるの、恥ずかしいですの」
女の子の部屋を少し見渡してしまったが、部屋の中まで通されたのだから許してほしい。前回はなかった大きめのドレッサーと共に丁寧に見目の綺麗な化粧品が並んでいた。先日来たときにはなかったものだ。
それ以外にも部屋全体の色合いというものだろう。前回までは比較的シックで落ち着いた色合いのものが多かったが、小物の影響なのか赤やピンク色の物が増えている。
彼女自身はそこまで女の子っぽさというのだろうか、可愛らしさを追求していなかったはずだが、……何かしら心の持ちようで変化があったのだろう。
案外すんなりと二人きりの勉強会が始まって俺はホッとしたが、すぐにコンコンと扉がノックされて紅茶とクッキーが持ってこられた。休憩には早いなと思いながら待つと、
「テーブルの上のノートなど片付けていただいてよろしいですか? よろしければ食べていただきたくて」
「ああ、ありがとう。
「こちらのクッキーも昨日私が作りましたの。お口に合えば良いのですけれど」
「そうなんだ? じゃあ、早速いただきます」
紅茶を一口飲んでから綺麗な円となっているクッキーを手に取る。口に含めばオレンジの香りと甘みがクッキーに含まれており、手間をかけたことが感じられる一枚だ。
クッキーの生地自体も甘すぎず美味しい。きっと良い材料を使っているのだろう。
「美味しいよ。オレンジのクッキーは珍しいんじゃないかな」
「オレンジピールを練り込んだ生地で作りましたの。あの、男の人は甘すぎない方が良いと聞きましたから、柑橘類で好みになればな、と」
「ああ、そうなんだ」
確かに美味しいが、別にオレンジは好みのものではない。しかし、俺が食べ進めることで
紅茶で一息ついて俺が勉強に戻ろうと言って立ち上がったところで、すっと立ち上がり俺の側に寄った彼女は俺の手と握った。ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなる。淫らに彼女の指が俺の手を這い回りながら、彼女の唇の間から蠱惑的な吐息をこぼれた。
「尚順さん」
「ダメだ。そういうのは」
「どうしてですの?」
「俺は君の恋人でもないんだから」
「違いますわ!!! どうか、
「……
「でも、あなたは私の物ですの。だから、私が願えば尚順さんはやってくれないと。私、ずっと待っていたんですの。でも、お互い時間が作れなくて」
「……こういうのはダメ、だ」
「大丈夫ですの。私、ずっと尚順さんに我慢させてしまってるのではないか不安で、とても寂しくて」
俺のダメという言葉に、従う気がないのが伺い知れる。
彼女が俺の手を胸にいざなって、強く押し付ける。服の上から感触が伝わる。俺が困って断ろうとしても、彼女は俺の言葉に頷かない。逆に泣きそうな顔を見せて俺に懇願するように見つめてくる。
俺の抵抗が弱まってしまう。
ぐいっと彼女が自身の体を使いながらベッドに倒れ込む。柔らかいベッドに俺が倒れ込むとすぐに彼女は俺の体へ馬乗りになった。
きっとこのためにこのテーブルは、ベッドの近くにわざわざ置いてあったのだ。
何度も練習していたと言うように彼女は制服を脱ぎ捨てる。清楚さのない淫靡な下着姿になった
今日、下着報告写真が無いと思っていれば、なんて過激な下着を着ているんだろう。俺は彼女の選択がもう分からなかった。
彼女が期待を込めた眼差しを俺に向けながら、シースルーの多い下着を見せつける。褒めてほしいのだろうか。
……教室で
「これが
「ええ! ええ! 名前を呼んで? 私を見て? 私を抱きしめて? だって、あなたは私の物ですもの。私が一番ですの。私があなたにしてあげる。私があなたに与えて上げる! 私が!
家を持ち出し体を捧げて必死に
しばらく
「尚順さんからもしていただきたいですの。求められて愛を感じたいですの。受け入れて、愛を伝えたいですの」
白い手が俺の頬に触れて撫でられる。
もう動けませんと言って
……彼女は親になんと言い訳するのだろう。彼氏?
もう彼女の家を出てしまえば、俺にはどうにも出来ない。この家で働く家政婦だろう女性が俺を冷ややかに見送った。この女性は
想像以上に長く過ごしていたと思っていたが、
玄関で幼馴染が待っていた。
濡れ羽色の長い髪がゆるりと首をかしげる動作に追随してさらさらと流れる。紫色の瞳は冷たい眼差しながらも、桜色の唇が緩やかに三日月を作って嬉しそうな雰囲気を作り出している。
いつも通り透き通るような彼女の声が俺を出迎えた。
「おかえり、尚順。キスして?」
けれど、目の前にいる幼馴染は、どれだけ体を重ねても「好き」も「愛してる」も、一度だって俺へ言ったことがなかった。
「ただいま、
彼女の望むままにその美しい顔に近づいてキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます