閑話2 幼馴染で家族の四條畷莉念②
9/24投稿4つ目です。
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ことさら放課後早く一緒に帰るようになってから、
最初は大失敗した。焦がしてしまった。
尚順にとっての完璧な女の子になれない。
でも、折川のお
尚順が恐る恐るそれを食べて、私に笑顔を見せた。
「
「も、もっと練習する! 毎日作る、から。必ず帰ってきて食べて!」
「わかった。毎日だから、楽しみにしてるね」
尚順の言葉に心が踊った。頑張ろうと改めて決意できた。
私の料理を食べた尚順が笑顔で美味しいと言い、家族として一緒に過ごすのがさらに当たり前になった。
ただお隣の家に上がってご飯を食べる幼馴染ではない。
家族に料理を教わりながら彼の母と一緒に料理を作って、家族とご飯を共にする家族のような幼馴染。
そんな日々を過ごしながら私は彼の恋愛関係の線引きを知りたくて、いろんなドラマや小説、漫画などを使いながら、尚順に「赤の他人の男女で家族って何だと思う?」といろんなタイミングで聞いて回った。その中で尚順は、それは夫婦という形だと、尚順は何の気なしに言った。
「恋人は?」「まだ家族じゃないんじゃないかなぁ」
「婚約者は?」「家のつながりだけで、家族ではないでしょ」
「セックスフレンドは?」「え、どこからそんな単語覚えてきたの
「お、幼馴染は?」「あはは。幼馴染は幼馴染で、偶然お隣になった人じゃん。漫画とかでもそうじゃない?」
私は絶望して、彼を見て、そうして、もう一度彼に聞いた。
「夫婦は、家族?」
「そうだと思うよ」
「でも、子供は結婚すぐ、できない、よね。十八歳にならないと。じゃあ、その間って?」
「夫婦じゃなかったら、まだ家族じゃないよね」
「わ、私って今、家族?」
「そうじゃない? いつも一緒に夕ご飯を食べて、うちの母さんと一緒に料理までしてるんだし」
私はそれからその話題を出すことはなかった。尚順の考え方が変わってしまうと困るからだ。やっぱりどれだけ家族同然に一緒に家に居ても
幼馴染だけになってはいけない。恋人だけになってはいけない。婚約者だけになってはいけない。
尚順が性的な部分に興味が出だした頃にも、私はずっと傍にいた。尚順はそれまでの私という存在と合わせて綺麗な女子という部分で私を意識しだした。私の体を気にするようになった。
そして、同時に男と女という線引が生まれてしまった。それまで一緒に入っていたお風呂に入らなくなったし、家族も注意してなるべく辞めるように言ったからだ。
だから、私は内緒でバレないように彼を誘惑するつもりでわがままを言った。
「家族だから、一緒に入ろ?」
そんな私のわがままな家族ルール。
お風呂に入って、尚順の興味を全部、私が支配した。だけど、尚順は私に手をださなかった。
「
いつも私がそのわがままルールを望むタイミングだと彼が気づいた。
そして、当たり前のように私に一緒にお風呂に入るか迷い無く質問した日、私はあまりの喜びに寝れない夜を過ごして、次の日は中学を休んだ。
こういうわがままを言いつつ、私が彼に無理やり迫らなかったのは、こう。
部屋に入り浸ってるんだから彼に自然と押し倒されてとか。
彼の方から無しくずし的にという部分でされたかったというわがままだが、それが叶うことはなかった。
部屋に入り浸りながら、彼に手を出させようと、あの手この手で頑張っていた。
女友達でもこのぐらいの距離は普通なんじゃない?
家族ならこれぐらい大丈夫だよ?
二人きりでお出かけなんて幼馴染でも友達でも普通だよ?
手を繋いで頭を撫でるのなんて仲良くなったら当然してよ。
女友達が不安がってるなら一生懸命落ち着くまで慰めるの当然だよ。
女友達と二人きりで仲良く出歩くなんて普通だよ。
女の子に連絡をしてあげるのは当然だよ。
わがままを言って、男女の線引で一旦遠くなった尚順のスキンシップの距離感をどんどん私が矯正していった。
最初に無理やりお風呂で修正させたおかげで、彼は私のわがままに従って距離感を合わせるのが当然になった。
でも、最後の一線を越えてこないので、そこをどう誘導すれば良いのかずっとずっと難しかった。
そして、私を絶望させるあの日が来る。
「
言われると、やっぱり、嬉しい! 嬉しい! 彼からもしかしたら男と女として初めて明確に好きと口にされた気がする。
体に興味があるのに私に手を出さないのは、恋人じゃないと手を出したら駄目という彼の線引だったのだと理解した。
そして、尚順からの好きという言葉は私への喜びと、恋人になってという絶望とのセットだった。理解して、冷水を浴びせられた気分になった。
夏なのに私の肌から体の芯に向かって冷たい冷凍庫に閉じ込められたみたいに、徐々に寒気に侵食されて震えてしまう。
ダメだ。
私は必死に表情を顔から消した。無表情を保つ。
ここで私も好きと言って受け入れたら、ただの恋人になってしまう。
家族という言葉がなくなったら、別の女が尚順に好意を向けたら、私が天秤の皿に乗せられてしまう。
尚順は誠実だ。目の前の女子が向けた気持ちに、同じ関係性の人間が居たら必ずどう答えてあげるのが良いのか考えてしまう。比較してしまう。
友人なら別の友人と比較して、どちらを優先したほうが良いかを考えて、一旦目の前の人間との約束を優先することが多い。
つまり今私が恋人になると、尚順が好意を持った泥棒猫に尚順が告白されたら、尚順にとって私とその泥棒猫が「好意を持った女」という同じ関係性の枠組みとして並べられて、比較されてしまうに違いない。
そして、私が傍に居ない間に、その子の方が私より心配だったり、泣き落としをした場合に、責任を取ってその泥棒猫を慰めるために恋人にするよと約束してしまうはずだ。
『先に約束したから、莉念ごめんね』
小学校の頃の記憶が蘇った。尚順は些細なこと扱いだけど、私にとっては失恋一歩手前の大きすぎる出来事で、もうあんな思いをしたくない。
だから、私は
「私、尚順のこと、嫌いじゃない。今は、幼馴染。私達、家族」
そうして私は、幼馴染で家族の立場を守った。
私は天秤の皿に絶対にのらない。
「好き」も「愛」も、必ず尚順の「家族」に蹴落とされる。
「幼馴染な家族の私」が、尚順に対する他の女達の「好き」や「愛」を蹴落としたから、私――四條畷莉念は知っている。
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関係性や線引を大事にして距離感を大切にする幼馴染に応えるために、健気なお嬢様の幼馴染、四條畷莉念はこれからも頑張ります。
中学三年生の夏までの四條畷莉念でした。
莉念は小学生の頃から尚順が好きだったので、幼馴染(好きな人)で直線上ですが、尚順は幼馴染(仲良し)からの男女の気持ちで幼馴染(好きな人)という変遷があるので、相手との関係性の切り替わりにすれ違いがあるのに気づかない莉念。
第二部の次話は、書き溜めの関係で10月1日の18時更新予定です。
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