催眠術

「で、でも、わ、私、やっぱり、璃花には釣り合わないよ」


 珠鈴はこの期に及んでそんなことを言ってきた。

 私の最愛の人は本当に何を言っているんだろうか。

 釣り合う釣り合わないなんてどうでもいい。私は珠鈴じゃなきゃ、ダメなんだよ。

 と言うか、珠鈴が催眠術でそうしたんだよ。責任、取ってもらわないと困るよ。

 こんな変態にもされちゃったんだし。


「少し前、璃花、言ってたよね。私が話したいって思えるようになったら話してって。それで、私もいつか話すって」


 そう思っていると、珠鈴はまるで自分の罪を告白する時のように、か細い声でそんなことを言ってきた。


「ん? あぁ、そういえば、そんなこと言ってたね」


 何を言いたいのかを察したかもしれない。

 それでも、私は気が付かないふりをして、そう言った。


「だ、だから、ごめん、なさい。私、あの時、璃花が風邪で苦しんでるのに、洗濯機から璃花の下着を取り出して、匂いを嗅いで、一人で、して、ました」


 すると、珠鈴は私に嫌われることを覚悟して、そんなことを言ってきた。

 ……やっぱり、私のあの時の考えはあってたんだ。あれは、夢なんかじゃなかったんだ。

 いや、もうほぼ分かってたけどさ。


「知ってる」

「え?」

「知ってたよ。そんなこと。……最初は夢だと思ってたんだけど、後から気がついたんだよ。……その、私の大事なところ、押し付けちゃったこと、とかも、思い出してる、から」


 風邪でおかしくなっていたとはいえ、本当に恥ずかしいことをしたと今でも思ってるから。……うん。ほんと死にたい。あの時の私、なんであんなことしちゃったんだろ。

 絶対、いい匂いなんてしなかったでしょ。


「あ、あの後! 珠鈴が帰ったあと! わ、私も、その、珠鈴が一人でしてた姿を思い出して、一人でしたから! だ、だから、へ、変態同士、お似合い、なんだよ、私たち」


 今更ながらに昔の自分がしたことの恥ずかしさを理解し、羞恥心が湧き出てきたことで色々と吹っ切れた私は、顔を熱くしながら、吐き出すようにそう言った。

 さっきまでは珠鈴がえっちなご褒美を欲していたはずなのに、いつの間にか、私の方が早くえっちなことをしたくなってる。

 もう、説明とかいいから、早く押し倒したい。

 

「で、でも……」

「珠鈴、好きだよ。最初からでは無いけど、私は珠鈴の事が大好き。だから、でも、とか言わないで?」


 そう言って、私はもう一度、キスをした。

 当然、もう我慢が出来なくなった私は、舌も入れた。

 あの時は洗っただけ、みたいな感じだったけど、今回は、本当のキスだ。

 

 そして、私はスマホを手に取り、幸せそうにしている珠鈴に向かってその画面を見せた。そこにはお馴染みの催眠術の画面が映っている。


「珠鈴、全部脱いで」

「え、あ……は、はい」


 私がいつもやっていたこと、つまり催眠術にかかった振りを、珠鈴にもしてもらおうと思ってそう言うと、すぐに意図を察してくれた珠鈴は恥ずかしそうに頷いて、ゆっくりと服を脱ぎ出した。

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