無慈悲な一言

「じゃあ、体育館、行こっか」


 珠鈴が着替え終わったのを確認してから、私はそう言った。


「う、うん。わざわざ待ってくれてありがとね」

「ん」

「今日も一緒に組もうね」


 私が珠鈴のお礼に適当に頷いてると、珠鈴はそう言ってきた。


「もとからそのつもり」


 だって、珠鈴以外に組む人なんて居ないし。

 そもそも、柔道の授業だし、組めるのは同性だけとはいえ、どうせ密着することになるなら、親友の方がいいに決まってる。


「そ、そうなんだ。ふへへ」


 私がそんなことを考えながら歩いていると、私の返事を聞いた珠鈴が変な笑みを漏らしていた。

 ……まぁ、いいか。

 私はそう思って、聞こえなかったことにして、珠鈴と一緒に歩いていると、すぐに体育館に着いた。


 そして、体育館シューズに履き替えて、適当に珠鈴と喋っていると直ぐにチャイムが鳴って、先生がやってきた。


「あ、先に言っておくが、今日のペアは自由じゃなくて、出席番号順だからな」


 先生は体育館に来てそうそうに、そんな無慈悲なことを言った。


「は?」

「……え」


 そんな無慈悲な言葉を聞いた私と珠鈴は、困惑? したような声が被った。

 ……私の声はともかく、珠鈴は困惑、とはちょっと違うかもだけど、多分、嫌なのは珠鈴も同じはず。


「じゃあ珠鈴、私、多分あの人とだから、あっち、行ってくるね」


 私は一番出席番号が近い同性の女の子を小さく指さして、珠鈴に向かってそう言った。

 

「……璃花、体調とか、悪くないの?」

「悪くないけど」


 急にどうしたんだろ。……と言うか、体調が悪かったら、体操服に着替えてないと思うから、悪いわけがないんだけど。

 

「……そう」

「……? じゃあ、行ってくるから」


 私は嫌な気持ちのまま、珠鈴にそう言って、今日組む人の所に向かった。

 ……珠鈴と組みたかったなぁ。


「あ、く、楠さん、よ、よろしく、お願いします」


 そして、私が組むことになる人の所に向かうと、その人はそう言ってきた。

 ……あ。この人も、私と同じであんまり喋るのが得意じゃない人だ。


「ん。よろしく」


 同族意識が沸いた私は、自然にそう言った。

 続けて、名前……は馴れ馴れしいかもだから、苗字を呼ぼうとしたんだけど、出てこなかった。


「……失礼だけど、名前、教えて」

「あ、さ、桜井舞楽さくらいまい、です。……全然、舞楽って感じの名前じゃ無いですよね。……ははは」


 まぁ、確かに。でも、私は舞楽って感じじゃない方が喋りやすいから、良かったって思うけど。……さすがに、このまま伝えるのは失礼だよね。


「ん、ありがと。桜井……さん」

「あ、よ、呼び捨てで、大丈夫、です」

「分かった」


 私は桜井の自虐を無視することにした。

 もし私を笑わせるつもりで言ってたんだとしたら、ちょっと変な空気になるかもしれないけど、私にはなんて言ったらいいかが分からなかったから。

 まぁ、幸いそんな空気にはなってないと思うから、いいや。


 そして、そんな感じで自己紹介? が終わったところで、先生が教科書を見て組み合うように言ってきた。

 

「……じゃあ、やろっか」

「は、はい」


 そう言って、私たちはマットレスの上で体を密着させた。

 そんな姿を珠鈴に見られてるとも知らずに。

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