なんで、今?

 チャイムが鳴った。


「ん、桜井、ありがと」

「い、いえ、こ、こちらこそ、ありがとう、ございました」


 桜井は頭を下げながらそう言って、体育館を出ていった。

 ……うん。話すこと自体は出来たし、私も全然無理をしないで話せはしたんだけど、柔道の授業ってなると、やっぱり珠鈴の方がいいな。……親友だからってのもあるけど、胸が、邪魔だった。……桜井、胸が結構大きい方だったから。

 別に女の子同士だし、胸がくっつくくらいどうでもいいんだけど、柔道の授業となると、大分邪魔だった。まぁ、お互い様だと思うけど。私も小さいわけではないから。

 ……この考え方、珠鈴に失礼かな。……まぁ、思ってるだけだから、許して。


「ねぇ、璃花、随分、楽しそうだったね」


 私がそんなことを考えながら、体育館シューズを脱いでいると、珠鈴がそう話しかけてきた。

 ……別に、楽しかった訳では無いし、普通だったと思うけど。


「普通、だけど」


 だから、私はそう言った。


「早く、着替えに行こ。着替えて、お昼ご飯、一緒に食べよ」


 何か、珠鈴の様子がおかしかったけど、体調が悪いとかでは無さそうだから、私はそう言った。

 お昼休憩は長いから、大丈夫だとは思うけど、時間が無くなって、食べきれなくなるかもしれないから。


「……うん。でも、もう少し、待って」

「いいけど、なんで?」


 別に待つこと自体はいいから、私は理由を聞いたんだけど、珠鈴は何も答えずに、スマホの画面を見せてきた。そして、そこには当然のごとく、催眠術の画面があった。


 なんで? ……珠鈴が私に催眠術をかけてこようとする時の理由が分からないんだけど。……さっきの休み時間はかけてこなかったのに。

 そう思いつつも、私は催眠術にかかったフリをした。


「他の人が着替え終わった頃に、一緒に更衣室に行こうね」


 私はそんな珠鈴の言葉に、喋ってもいいのかが分からなかったから、黙って頷いた。

 すると、珠鈴は私にくっついてきた。

 そこからは特に何をするでもなく、珠鈴が私にくっついて、時間が過ぎていった。


「そろそろ、いいかな。行こっか、璃花」


 そう言いながら、珠鈴は私にくっつくのをやめて、更衣室まで手を引いて連れていかれた。

 ……子供じゃないんだし、催眠術にもかかってるってことになってるんだから、手なんて繋がなくてもいいと思ったけど、抵抗することも出来ないから、羞恥心を我慢しながら、私は珠鈴に着いていった。


「璃花、下着姿になって」


 そして、誰もいない更衣室に入るなり、私はそう命令された。

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