上げて落とす(無意識)

「珠鈴、教室、戻ろ」


 そして、食べ終えた食器を持っていって、珠鈴の所に戻ってきた私は、そう言った。

 

「う、うん……戻るんだけど、り、璃花? さ、さっきのって、どういう、こと?」


 さっきの? 珠鈴が一番大事って話? どういうことも何も、そのままだと思うんだけど。


「そのままの意味だけど」

「そ、そう、えへへ、へ、へぇ、そうなんだ、ふふっ……私も、璃花が一番だよ」

「ん……ありがとう?」


 よく分からないけど、そう言われた私は、お礼を言っておいた。

 珠鈴の一番の友達なのは嬉しいし。


「あ、それと、一日だけだったら、いいよ。私以外の人と食べても。……私が、一番だもんね」

「……ん」


 別に、桜井と食べるのに、珠鈴の許可が必要なわけじゃないけど、私は一応頷いておいた。

 すると、珠鈴は笑顔で私の隣に立って「教室行こっ」と言ってきた。

 そんなに一番の友達ってのが嬉しかったのかなって私は思いながら、珠鈴に向かって頷いて、一緒に教室に向かった。


「あ、ね、ねぇ、璃花」

「ん、何?」

「も、もう、私たち、付き合ってるって事でいいんだよね? だ、だったら、私、璃花に言わなきゃいけないことがあって……」


 ……? 付き合ってる? どこに? 言わなきゃいけないことって言うのは、多分、催眠術のこと、なんだと思うけど、付き合ってるってなんだろ。

 真っ先に思い浮かぶのは、恋人として、とか? ……いや、ありえないでしょ。女の子同士だし、親友だし、そもそも、告白とか、そういうのをしてないんだから。


「どこに?」


 そう思って、私はどこかに付き合って欲しいって言う意味の、言葉のあやかと思って、首を傾げながら、そう聞いた。


「……どこって、何が?」


 すると、さっきまで笑顔だったのが嘘みたいに消えて、珠鈴は静かに、そう聞いてきた。


「いや、どこか、付き合って欲しい場所があるんじゃないの?」


 私は思った事を答えた。


「……本気で、言ってる? ……もし、本気なんだとしたら、一番って、何?」


 すると、珠鈴は静かに、何かの感情を抑えるように、そう言ってきた。


「友達として、だけど」


 私は何か言っちゃダメなことを言ったのかもと思ったけど、聞かれたことに答えない訳にはいかないと思って、私はそう言った。


「…………璃花、ちゃんと、主語は言って」

「……ごめん、なさい?」


 珠鈴にそう言われた私は、よく分からなかったけど、取り敢えず、謝った。

 確かに、主語はなかったけど、伝わると思ったんだけど……いつも、私はこんな感じの喋り方だし、なんとなく、伝わると思ってた。……でも、確かに、珠鈴に甘えてばかりじゃだめ、だよね。……少しづつでいいから、直していこうかな。


「……今回は、許すけど、そのかわり、明日も、明後日も、毎日、私以外の人とお昼ご飯、食べちゃダメだから」

「え、さっき、いいって」


 さっきも思ったけど、珠鈴の許可が必要なわけじゃない。でも、私は思わず、そう呟くように言ってしまった。


「さっきは、勘違い、してたの! だから、絶対、だめだから!」

「え、せっかく出来た友達なんだけど」


 私はそう言いつつも、桜井には悪いと思いながら、ご飯を一緒に食べるのはだいぶ先になりそうだなと思った。

 だって、珠鈴がどういう勘違いをしたのかは分からないけど、私の言葉が足りなかったのは間違いないんだから。

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