断れないやつだ

「珠鈴、先、入ってるから」

「あっ、私ももう入るよ」


 タオルが落ちないようにしながら、適当に髪を濡らした私は、いつも通り、頭を洗おうとして、思い出した。

 そういえば、珠鈴に洗ってもらわなきゃダメなんだって。


「り、璃花? 洗わないの?」


 私が羞恥心を我慢して、珠鈴が洗ってくれるのを待っていると、珠鈴は顔を真っ赤にしながら、私の隠している部分にチラチラと視線を向けながら、そう聞いてきた。

 ……もしかして、自分で掛けた催促術のこと忘れてる? 珠鈴も、私のことが好きで、そんな好きな人とお互い、裸の空間にいるんだから、忘れてたって、不思議では無い、のかな。……珠鈴、結構抜けてるところあるし。

 だったら、このまま、普通に洗っちゃっても、いい、よね。


「…………み、珠鈴が、洗ってくれるんでしょ」


 そう思ったのに、私は体中が熱くて、おかしくなってるからなのか、恥ずかしさで涙が出てきそうなのを我慢しながら、そう言った。言ってしまった。

 別に、私が珠鈴に洗って欲しいなんて理由で言ったわけでは無い。

 私はただ、ふとした瞬間に珠鈴が催促術のことを思い出して、あれ? と思わせないように、そう言っただけだ。

 だから、私がいくらおかしくなりそうだからって、自分から珠鈴に洗って欲しいなんて、ありえない。……自分が変態なのは最近理解したけど、そこまででは無い、はず。


「あっ、う、うん。そう、だったね」

「早く、洗ってよ」


 少しでも早く、この羞恥心から逃げたくて、私は珠鈴を急かした。


「じ、じゃあ、頭から、洗っていくね」

「ん」


 珠鈴の言葉に頷くと、もう私の髪は最初に濡らしてあるから、珠鈴は手にシャンプーを付けて、何故か私の後ろから、珠鈴の小さめの胸を押し付けてきながら、私の頭を洗ってくれている。


 これ、なんか、凄い、変な感じ。……好きな人の胸を背中に当てられてるからかな? 多分、それもあると思うけど、好きな人に、お互いほぼ裸の状態で、頭を洗われている。

 そんな状況が、私の頭をおかしくさせてくる。……さっきまでみたいに、胸みたいな、感じる部分を弄られてる訳でもないのに……


「璃花、洗い流すよ?」

「……ん」


 色々とそんなことを考えていると、頭を洗い終わったみたいで、珠鈴がそう聞いてきたから、私は頷いて、目をつぶった。

 泡が目に入らないように。


「……ありがと、珠鈴。体は私が――」

「何言ってるの? 体も、私が洗うんでしょ?」

「ッ、そ、うだね」


 このまま流れで体は私が洗えると思ったのに、珠鈴にそう言われてしまった。

 ……体って、どう洗わせればいいの。……だって、タオルがあるんだから、普通には、洗えないはずだ。

 

「璃花、タオル、取って」


 どう、しよう。……いや、取らないと、不自然に思われちゃう。

 そう思って、私は下は見られないようにと、タオルを男の人みたいに、腰だけに巻いた状態にした。

 胸は、もう見られて、触られてもいるんだから、これなら、まだマシだから。


「……璃花、下は?」

「は、恥ずかしい、から」

「……でも、それじゃ、洗えないよ? 下、洗わないの?」


 洗わないわけないでしょ。……でも、流石にそこを珠鈴に洗われるのは、無理、だから。

 

「洗うよ」

「……まぁ、確かに、タオルがあっても、そこに手を入れれば、洗えないことは無いもんね」

「え」

「何? 洗うんでしょ?」


 珠鈴は有無を言わせない声で、そう言ってくる。

 やばい、珠鈴に洗われるのが普通ってことになってるから、これ、断れないやつだ。

 

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