悲しませたいわけじゃない

 珠鈴とお互いにもたれかかっていると、すぐに時間が過ぎて、もうそろそろ、帰らないとまずい時間になっていた。


「珠鈴、そろそろ、帰るね」

「あ……うん」


 私が帰ることを伝えると、珠鈴は悲しそうに、頷いてくれた。

 

「また明日」

「……うん。またね」


 そして、玄関でそんなやり取りをして、私が帰ろうとしたところで「あ、待って!」と珠鈴の声が聞こえてきた。

 私はそんな声に反応して、珠鈴の方を振り向くと、催眠術の画面があった。


「ご、ごめんね。璃花。……でも、璃花が女の子を好きってことを知ったら、我慢、出来なくて……」


 そう言って、珠鈴はキスをしてきた。いつもより、長いキスを。

 大丈夫だよ、珠鈴。私も、キス、したかったから。

 

「璃花が誰のことを好きかは分からない、けど……私の、だから……もう、いっぱい、璃花のこと、汚したから、私が責任、取らないとだめ、なんだから」


 そして、珠鈴はキスをやめると、そのまま、私に思いっきり抱きついてきて、そう言ってきた。

 ……うん。汚されたとは思ってないけど、珠鈴がしてきたことなんだから、責任は取ってもらおうと思ってるから、大丈夫だよ。


「璃花、ちょっとだけ、我慢、出来なくて、ごめんね」


 私に抱きついてきながら、私にそう言って、珠鈴はまた、私にキスをしてきた。

 そしてそのまま、私の口内をまさぐるように、舌を入れてきた。

 いきなりのことにびっくりして、私は後ろに下がりそうになったけど、珠鈴に抱きしめられてて、無理だった。でも、逆に良かった。あのまま後ろに下がってたら、私が催眠術にかかってないってバレてたと思うから。

 そうやって私が安堵していると、珠鈴は舌を絡めながら、抱きついてる私から少しだけ離れて、胸を触ってきた。

 いや、触ってきたというよりは、ただ、ほんとに私の胸に手を当てただけだ。


「璃花……これ以上は、まだ我慢出来る、から。……これより先は、璃花が私を選んでくれたら、しよ? ……だから、私を、選んでね……」


 そして、私から唇を離した珠鈴は、泣きそうな顔で、そう言ってきた。

 そんな顔されたら、さっき、好きだって言わなかったことを後悔してしまう。……だって、私は珠鈴を悲しませたいわけじゃないんだから。


「……また、辻褄、合わせておいて」


 そう言って、珠鈴が私から離れた。こぼれ落ちそうだった涙を拭いて。


「珠鈴」

「……ど、どうしたの?」


 私は涙の跡を隠しながらそう言ってくる珠鈴に向かって、キスをした。

 すると、珠鈴は涙の跡を隠すことを忘れて、目を大きく見開いて、驚いていた。


「帰る」

「えっ、あっ、り、璃花!?」


 そしてそのまま、珠鈴が私を呼んでいる声を無視して、珠鈴の家を出た。

 まだ、好きだって伝えるつもりは無い。でも、言わなくても、これで、少しは察してくれるはず。

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