催眠術のせいだし

 リビングの扉を開けて、リビングに入った私は、一瞬で、気まずい雰囲気に飲み込まれた。

 ……あれはほんとにお互い様だし、気にしなくていいのに。……むしろ、私の方が悪い……ことはないな。……別に気にしてないけど、珠鈴があんな催眠術を掛けなかったら、こんなことにはなってないし。


「珠鈴」

「な、何?」


 私が珠鈴のことを呼ぶと、珠鈴は肩をビクッ、と震わせながら、そう聞いてきた。

 いや、そんなに怯えなくてもいいじゃん。


「夜ご飯、作るけど、何か、食べたいのある?」


 そう思いながら、私はさっきのことなんて別に気にしてないといった感じで、いつも通り普通に、そう聞いた。

 そしてそのまま、珠鈴と体が密着するように、珠鈴の隣に座った。


「り、璃花?」


 すると、珠鈴はびっくりしたように、私のことを呼んできた。

 まぁ、いつもは、私が座ってるところに、珠鈴から近づいてきてくれるもんね。

 

「珠鈴、さっきの、私もしちゃったし、お互い様だから、ほんとに、気にしなくていいよ?」


 私は珠鈴に抱きつきながら、改めて、そう言った。

 正直、もう触れたくないんだけど、言わないと、珠鈴がずっと気にしそうだから。

 

「いい、の? ……私、璃花の家で、あんなこと、してたのに……」

「別にいいよ」


 気にしないし。

 と言うか、こういうの、二回目だし。


「……胸、触る?」


 まだ、珠鈴が気にしてそうだったから、私はそう言った。

 ……今は、催眠術に掛かってて、胸を触られるくらい、普通なんだから、別に、こういうことを言っても問題ないはずだ。

 それに、珠鈴、自己嫌悪に陥ってるんだろうけど、意識、してるでしょ。……今、ノーブラで抱きついてたから、嫌でも、意識しちゃったでしょ。

 もう、なんかやってる事がかなり変態みたいだけど、珠鈴が掛けた催眠術のせいだし、私のせいじゃないよ。

 

「えっ、あ、そ、そっか、う、うん」


 すると、珠鈴は一瞬、私に掛けた催眠術を忘れてたのか、びっくりしながらも、直ぐに思い出して、頷いてくれた。

 そしてそのまま、珠鈴は胸を触る訳ではなく、私に抱き返してきた。

 抱きつき返されたからこそ分かる。……これ、やっぱり、珠鈴も下着つけてないんだけど。

 ……珠鈴の体、柔らかくて、さっきのお風呂でのこと、色々と思い出しちゃう。


「……璃花、ありがとね。……それと、ごめんね」

「ん」

「……夜ご飯は、なんでもいいよ」


 そう言われた私は、ソファから立ち上がって、珠鈴から離れた。

 そんなにキツく抱きしめられてた訳でもないし、すぐに離れられて良かった。

 あれ以上、ああしてると、また、おかしくなっちゃいそうだったから。……さっき、発散したばっかりのはずなのに。


「作ってくる」

「あ、う、うん」


 ? どうしたんだろ。……さっきまでは、胸に視線が来てたのに、なんか、今は足の方に珠鈴の視線がチラチラしてるんだけど。

 よく分かんないけど、まぁいいや。……なんでもいいって言ってたし、適当に作ってこよ。

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