最低だ

 ※珠鈴視点


「珠鈴、帰るね」


 私が辻褄を合わせておいてと催眠術を解いた瞬間、璃花はそう言ってきた。


「えっ、あ、上がってかないの?」


 私はてっきり上がっていくものだと思ってたから、思わず、催眠術で璃花のことを勝手に抱きしめて、キス……は璃花からだったけど、催眠術が原因なのに、その罪悪感すら忘れて、そう聞いてしまった。


「今は大丈夫でも、珠鈴は風邪だったわけでしょ? だったら、少しでも安静にしてほしいし」

「う、うん。……風邪、移しちゃうかもだしね。……また、明日」

「ん」


 少し……いや、かなり残念だったけど、ただでさえキスをしちゃって、風邪をうつすかもしれないのに、これ以上、一緒にいたら、もっと風邪をうつす可能性が高くなるかもしれないと思って、私は渋々、頷いた。

 すると、璃花は「またね」と言って、帰って行った。……私が外してその場に落ちていたブラジャーを置いて。

 …………え? ま、待って、璃花、気が付かずに帰っちゃったんだけど!? わ、私も璃花が帰ってから、気がついたし……い、今から連絡……な、なんて言えばいいの!? だって、璃花からしたら、ブラジャーを外したなんて知らないだろうし……あ、でも、辻褄を合わせておいてって言ったから、案外いい感じになってるかも。……だったらなんでブラジャー置いて、ノーブラで帰って行くの!? 絶対辻褄合わせられてない! 私がなにか失敗しちゃったんだ。……ど、どうしよう。

 絶対、気がつくよね。……いくら抜けてるとこがある璃花でも、ノーブラなことには気がつくと思う。……今、現に気が付かず、帰って行ったけど、お風呂に入る時とか、絶対、気がつくよ。


 と、取り敢えず、このまま、玄関の地面に置いておくのも、璃花のブラジャーが汚れちゃうし、だめ、だよね。……ひ、拾わないと。   

 

 そう思って、私は璃花の、しかもついさっきまで璃花の胸に直接着いてたブラジャーを手に取った。

 すると、さっき我慢したせいか、息が荒くなっていくのが分かった。


「ハァ、ハァ、ハァ……璃花が、置いてったんだから、ちょっとくらい、いい、よね」


 私が催眠術をかけて、勝手に外したくせに、そんな、言い訳をして、私は璃花のブラジャーを顔に持っていって、匂いを嗅いだ。

 その瞬間、罪悪感、背徳感、高揚感、色々な感情が混ざったような、気持ちになった。

 ……最低だ。私。……璃花の唇を、催眠術で勝手に奪うだけじゃ飽き足らず、こんな、ことまで、して。

 そうは思うものの、私の行為は止まらずに、玄関前だというのに、私は手を下の方に伸ばしていた。

 最低だ。

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