友達と登校

 珠鈴を待っている間は、ゲームをして、少しでも、今の珠鈴しか考えられない頭をどうにかしよう。

 そう考えながら、学校に向かって歩いていると、知ってる後ろ姿が見えた。

 

「あ、桜井、おはよ」


 相手が珠鈴とかだったら、珠鈴が自分から来てくれるから、わざわざ自分から近くに行ったりしないんだけど、桜井は、絶対私のことを見つけても、私と同じで気がついてない振りをするだろうから、私は自分から桜井の方に向かって、そう言った。

 

「あ、く、楠さん、お、おはよう、ございます」

「一緒に学校行こ」

「は、はい」


 なんか、利用するようで悪いけど、ここで桜井と会えたのは、ちょうどいい。

 これで、珠鈴のことで頭がいっぱいになんてなったりしないはずだから。

 友達と喋ってる時にまで、好きな人のことなんて、考えないし。

 

「え、えっと……く、楠さんは、き、休日、何、してました?」

「……え」


 ……珠鈴にえっちなことをされてた、なんて言える訳ない、よね。

 

「普通に、ゲームしてたよ。桜井は?」


 実際、ゲームはしてたし、私はそう言った。

 

「そ、そうなん、ですか。……わ、私は、ほ、本、とか、読んでました」

「なんの本?」

「あ、善は急げっていう小説、です」


 ……全然、知らない。いや、そういうことわざは知ってるけど、そんな小説は、全く知らない。

 そして、桜井には申し訳ないんだけど、全く、内容に興味が湧かない。……ほんとに、面白いのかな。


「……それ、どんなの?」

「えっと……色々と、急ぐ、小説、です」


 ……全く分からない。

 ただ、逆に、興味が湧いてきたかも。何? 色々と急ぐ小説って。意味、分からなすぎるんだけど。

 

「気が向いたら、私も読んでみるよ」

「あ、か、貸します!」


 逆に気になっては来てたんだけど、わざわざ買ってまで読む気は起きなかったから、適当にそう言うだけ言ったんだけど、その瞬間、桜井はカバンからその本を取り出して、私に渡してきた。


「……ありがと。暇な時に、読む」

「は、はい」


 まぁいいか。ほんとに暇な時にでも読んだら。

 そう思いながら、私はその本を傷つけないように、カバンにしまった。

 

「……あっ、わ、私、ちょっと、忘れ物をした、ので、さ、先、行っててください」

「あ、うん」


 ……どうせ、今日は学校に着いたら、暇だし、この本、読んでみよっかな。

 そう思いながら、桜井と別れた私は、直ぐに学校に着いたんだけど、何故か、いつもより早い時間のはずなのに、珠鈴が私を待っていた。

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