言えるはずがない
……どうせ、今日は学校に着いたら、暇だし、この本、読んでみよっかな。
そう思いながら、桜井と別れた私は、直ぐに学校に着いたんだけど、何故か、いつもより早い時間のはずなのに、珠鈴が私を待っていた。
「珠鈴、おはーー」
「……なんで、私とは一緒に学校行ってくれなかったのに、あの子とは、一緒に登校したの? と言うか、あの子、誰?」
雰囲気がちょっと怪しかったけど、さっきまでの珠鈴のことしか考えられないような状態は治ってるから、取り敢えず、私は適当に挨拶をして、一緒に教室に行こうとしてたんだけど、珠鈴は私の挨拶を遮って、まくし立てるように、そう言ってきた。
「……なんとなく、だけど」
まさか珠鈴のことしか考えられなくなってて、このままじゃまずいと思ったから、一旦距離を置きたかった。なんて、言えるはずがないから、私はそう言った。
「それより、早く教室行こ。読みたい本もあるし」
別に読みたいわけではなかったけど、少しでも話を変える為に、そう言った。
このまま桜井の話題が続いたら、珠鈴が桜井の所に突撃しそうだし。
「……そんな本、いつ、買ったの?」
「ん、これは、さっきの子に借りたんだよ」
急に聞かれたから、私は正直にそう言ってしまった。
私はやばいと思って、誤魔化す意味も込めて、そのまま教室に向かって歩き出したんだけど、後ろから珠鈴に腕を掴まれた。
「珠鈴? どうーー」
何かと思って、そう言いながら振り向くと、珠鈴の手にはもはや見慣れた催眠術の画面があった。
私はこん人目のあるところで催眠術を掛けてくるとは思ってなくて、思わず言葉を詰まらせたんだけど、むしろ、そのおかげで、上手く催眠術に掛かった振りが出来てるし、良かったのかもしれない。
「こっち、来て」
そしてそのまま、珠鈴は私の腕を引いて、人目のない所に連れて来られた。
……なんで、珠鈴はこんな人目のない所を知ってるんだろう。
そんな呑気なことを考えながら。
結局、何をされるんだとしても、外だしキスとか抱きついてくるだけだろうし、そもそも、珠鈴になら、何をされてもいいし。
「なんで、私とは、一緒に行ってくれなかったの?」
そして、珠鈴はそう言いながら、私の腕を軽く引っ張って、私の体を珠鈴の方に寄せて、抱きついてきた。
ギュッと、私が痛いくらいに、力強く。
痛い。……でも、これくらい強い方が、珠鈴のことを感じられて、気持ちいい。
「璃花、キス、して」
そしてそのまま、そう言ってきた。
私は言われた通りに珠鈴に抱きしめられたまま、珠鈴の唇に私の唇を重ねた。
……これ、やばい。せっかく、珠鈴のことしか考えられない状況をどうにかしたのに、また、珠鈴のことしか考えられなくなりそう。
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