今日に限って

「…………珠鈴、そろそろ、行かない?」


 珠鈴に変なことをしないように、我慢し続けていた私は、時計を見てそう言った。

 今は珠鈴がくっついてきてて、意識が珠鈴に割かれてるから、まだこんな気持ちだけど、外に出て、映画を見たり、普通にしてれば、直ぐにこんな気持ちはなくなる。


「うん。分かった」


 すると、珠鈴はそう言って、私の肩に預けていた頭を起こして、離れてくれた。

 

「じゃあ、着替えてくる」


 まだ着替えてなかった私はそう言って、自分の部屋に向かった。

 ……もういっそ、ここで一度、スッキリしておこうかな。……いや、直ぐに珠鈴と会うんだから、そんなことしたら、匂いでバレちゃう。だめだ。

 服を脱いで、下の方に伸ばしかけてた手を止めて、私は普通の服に着替えた。

 そして、そんな気持ちのまま、珠鈴がいるリビングに戻った。


「あ、璃花、似合ってるよ」

「ありがと。早く行こ」


 別にいつもの私服なのに、そう言ってくれた珠鈴にお礼を言って、早く行こうと珠鈴を急かした。

 ……早く、この気持ちを抑えたかったから。……それに、私はどこに行くのか知らないし。

 

「うん」


 私は珠鈴が頷いたのを確認して、靴を履きに、玄関に向かった。

 そして、靴を履いた私は、財布とスマホを適当に持って、珠鈴と一緒に外に出た。


「璃花、手、繋いでいい?」


 すると、珠鈴はそんなことを聞いてきた。

 嫌……なわけはなんだけど、なんで、今日なの。……というか、今なの。

 だめだ。今日に限って、珠鈴が積極的すぎる。……いつもだったら嬉しいんだけど、今は違うんだよ。……今は、珠鈴に触れてると、頭の中がえっちなことでいっぱいになっちゃうんだよ。


「……いいよ」

「えへへ、ありがと」


 ……可愛い。今日に限って、なんでそんなに可愛いの。……いや、いつも可愛いんだけどさ、今日はいつもより、積極的で、いつもとは違う意味で可愛い。

 

「今から、映画、向かうの?」

「うん。そうだよ」


 良かった。……映画館の中なら、隣同士に座るとはいえ、映画に集中できるから、こんな気持ちは無くなるはず。

 

 そう思って、私は人目を気にせずに珠鈴と手を繋ぎながら、珠鈴に案内されて、映画館に向かった。

 

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